意匠の類否判断(続)
1 前提問題としての創作説と混同説
意匠の類否判断に関して、創作説と混同説が主張され、折衷説として修正混同説(論者により、その内実は微妙に異なる)が主張されている。このうち、需要者による混同可能性を考慮しない創作説は、現行法の下では採用できないと思われる。以下では、修正混同説を類否判断に際して、独創性又は意匠性(言い換えれば公知意匠の存在)を考慮する説として理解した上で、これを前提として意匠の類否判断について検討する。
まず、意匠の類否判断は、需要者の視覚により認知された美感の共通性により判断されるものである。これは、意匠法の明文に規定されているものであり、各説とも前提とするところである。
2 注目される部分と注目される形態
次に、類否判断は、需要者の視覚により認知された美感の共通性により判断されるものである以上、需要者が注目しない部分の形態(以下「注目される形態」)は、考慮要素とはならない。逆にいえば、需要者が注目する部分の形態のみが、類否判断における考慮要素となる。この点も異論はないと思われるが、使用する用語、特に「要部」の意味が異なるため、混乱を招いているため、本稿においては、「要部」という用語を用いないこととにする。
3 対比
3-1 判断手法
注目される部分が確定すれば、その部分の形態について、意匠と対象製品とを対比し、共通点と差異点を抽出することになる。
ここで、共通点は、類似という判断を基礎づける事実であり、差異点は、類似という判断を障害する事実であるが、基礎付け又は障害の程度は、形態毎に異なる。すなわち、基礎付け事実に関しては、共通する形態の注目される程度が問題となり、それは、当該形態を有する部分が注目される程度と当該形態自体の注目される程度に分けることができる。他方、障害事実についても、差異点を有する形態の注目される程度が問題となり、それは、当該形態を有する部分が注目される程度と当該形態自体の注目される程度に分けることができる。
さらに、意匠に対する保護は、独創的な形態に与えられるものであるから、当該意匠の意匠性を基礎づける特徴的な形態を対象製品が有しているか否かは重要な考慮要素であり、当該意匠の意匠性を基礎づける特徴的な形態を対象製品が有していない場合には、特段の事情がない限り、非類似と判断すべきである(修正混同説)。なぜなら、対象製品に意匠の独創的形態が現れていない場合にまでも意匠権の効力を及ぼすことは、意匠に対する保護が独創的な形態に与えられることと整合しないからである。従って、対象製品が意匠の特徴的形態を備えていない場合には、判断手法として、まず、意匠の特徴的形態を認定し、対象製品がその形態を備えているか否かを検討し、非類似との判断を導くことも事案に応じた処理として合理的と解される。
3-2 意匠の特徴的形態の認定・位置づけ
意匠の特徴的形態を認定する際には公知技術が斟酌される。意匠の特徴的形態が認定できない場合には、当該意匠に基づく権利行使は許されないことになる。また、意匠の特徴的形態と対象製品の形態とに共通点があるとしても、他の部分の形態の差異点が生み出す美感の相違が、共通点が生み出す美感の共通性を凌駕する場合には、非類似となる。
この点、混同説に立てば、意匠の特徴的形態を認定する必要はなく、従って、公知意匠の参酌は、類否判断においては意味を持たないことになる(無効理由の存否の判断については意味がある)。それ故、混同説によれば、注目される部分の形態について、意匠と対象製品とを対比し、共通点と差異点を抽出した上で、それらの注目される程度を考慮して類否判断を行うことになる。しかし、意匠法が創作法であり標識法ではない以上、意匠の保護範囲について独創性を考慮せずに(従って公知意匠を参酌せずに)判断することは妥当ではないし、意匠の特徴的形態を認定せずに類否判断をすることは、類否判断において、意匠の特徴的形態を高く評価しないこともなりかねず、かえって類似の幅を狭くする要因になるのではないかとの懸念もある。
以上
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