知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

意匠の類否判断(その2)

2012-04-09 00:52:24 | 意匠法

3 総説
意匠の類否判断は、登録意匠と対象製品の意匠とが類似するか否かの判断であり、「類似」は、規範的構成要件であるから、それを基礎づける事情と阻害する事情とを総合考慮して需要者から見て混同を生じる程度に美感が共通するか否かを判断するべきである。
これを前提にすると、意匠の類否判断において採用される手法は、裁判例により表現に差異はあるが、概ね以下のとおりと理解される。
第1に、両意匠の基本的構成態様、具体的構成態様を認定し、第2に、物品の性質、用途・使用形態等を考慮し、どこが需要者に注目される部分であるかを判断した上で、第三に、登録意匠と対象意匠を対比し、注目される部分の形態(意匠)における共通点と差異点を抽出し、第四に、共通点が与える美感の共通性と差異点が与え美感の相違性を総合考慮して、両意匠が類似であるか否かを決定するというものである。なお、物品の類似性については、これを要件とする明文の規定ではなく、類否判断の一要素にすぎないというべきである。

4 基本的構成態様、具体的構成態様
基本的構成態様とは意匠を大掴みに把握した態様をいい、具体的構成態様とは意匠を詳しく観察して把握される態様をいう。このように意匠の構成態様を二つに分けて把握する理由は、基本的構成態様が大きく異なれば、具体的構成態様について対比するまでもなく、非類似という結論が導けることから、思考の便宜のために、まずは基本的構成態様として大掴みな認定をするものである。従って、何が基本的構成態様であり、何が具体的構成態様であるかを議論することは、あまり意味のあることではない。なお、基本的構成態様の相違を理由として非類似と判断した裁判例として、東京地方裁判所平成20年(ワ)第1089号(ハンガー事件)

5 注目される部分の認定
製品の各部分の中には、製品の裏側等の需要者の注意を引かない部分がある。需要者の注意を引かない部分については、意匠の相違が存在したとしても、需要者は両意匠の相違を認識しないのであるから、この点の相違は類否判断に影響を与えないことなる。従って、類否判断の際には、物品の性質、目的、使途、使用態様等を考慮した上で、需要者が注意を引かれる部分(注目される部分)の認定が必要である。
この点、論者や裁判例によっては、需要者が注意を引かれる部分(注目される部分)を要部と呼ぶことがある。これに対して、需要者がある形態について美感に差があると感じるか否かという問題を含めて「要部」という用語を用いる論者や裁判例もあり、混乱の原因となっている。従って、本稿では「要部」の語を用いないこととする。


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