知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大杉「会社法で企業不祥事を防げるか」を読んで(その3)

2011-12-22 15:16:23 | 会社法

4 現行制度の分析について

4-1 社外取締役に対する評価

大杉先生は、大王製紙事件とオリンパス事件の共通性として、「現場に不正を知る従業員が存在し(オリンパス事件の発覚は従業員によるマスコミへの告発がきっかけとなった)、また監査法人も不正を疑わせる情報をつかんでいたことである。しかし、その情報が取締役や監査役の間で広く共有され、検討されることはなかった」。と指摘された上、「では、どうやってこの問題に対処すればよいのだろうか。」との問いを立てて、現行制度の分析をされている。

そして、社外取締役について、「仮に大王製紙やオリンパスに社外取締役がいたとしても、それだけで問題の早期発見につながったとは考えにくい(実は、オリンパスには3人の社外取締役がいたのに、粉飾決算は長期間にわたり露見しなかった)」と否定的な評価をされている。この点、創業家出身者又は実力社長などの経営トップの権力が強い会社においては、社外取締役も、経営トップの知人、取引先出身者などが選任される結果、社外取締役に。経営トップの判断・行動に対して異を唱えることを期待することは困難であるといえるところ、経営トップの権力が強い会社においてこそ、社外取締役に対し強い独立性に基づく毅然とした態度が必要とされるのであるから、大杉先生の社外取締役に対する否定的評価は正しいと思う。必要なのは一般株主と利害関係が相反しない独立取締役である。

4-2 社外監査役に対する評価

大杉先生は、社外監査役について、「2つの事例を見て痛感するのは、不正を疑わせる事情が発覚したとき毅然として行動すべきなのは社外監査役であるということと、実際には社外監査役に情報が知らされることは少なく、関係者の連携が機能しにくいことである」と指摘された上、「監査役や監査法人が経営者と1対1で対峙するのでは、「モノを言う」ことは難しい。「モノを言う」ためには、関係者が連携して、多対1で経営者に対峙することが必要である」と述べられている。

この点、「関係者が連携して、多対1で経営者に対峙すること」の重要性については同感である。強い権力を持つ経営トップに対して、限定された情報を元にして、「不都合な真実」について、1対1で問いただすことは筆者の経験に照らしても容易なことではなく、「関係者が連携して、多対1で経営者に対峙する」という戦略は必須のものともいえる。もっとも、大杉先生が「不正を疑わせる事情が発覚したとき毅然として行動すべきなのは社外監査役である」と述べられる趣旨は、社外監査役だけがそのような義務を負うというものではなく、取締役、社外監査役以外の監査役、会計監査人にもかかる義務があることを否定するものではないと思う。

4-3 内部通報制度

また、大杉先生は、関係者の連携の方策として、「不正を知る従業員が安心してその事実を通報できるように、外部に通報窓口を設け、その情報が社外監査役にも伝わる仕組みを作ることが重要である。これは第一次的には各企業の努力によるべきものであるが、社外監査役を中心とした連携を確実にするためには、社外監査役の権威を高め、経営トップの権力を薄めることが効果的である」と述べられている。

この点、大王製紙の場合には、内部通報の最終報告者が創業家出身の元会長であったとのことであり、そもそも、経営トップの不祥事に対しては機能しないことが予定されていた欠陥システムといえる。外部窓口として独立した第三者を選任することは、内部通報制度を機能させるための不可欠の要素というべきである。独立した第三者としては、弁護士自治に裏打ちされた制度的独立性を有し、コンプライアンの知見を持つ弁護士(インハウス・カウンセルなど企業での職務経験があることが望ましい)が適任であると思う。なお、顧問弁護士は、経営トップとの人間関係が構築されいてること多いので、適任ではない。


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