知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大杉「会社法で企業不祥事を防げるか」を読んで(その2)

2011-12-22 14:44:33 | 会社法

3 オリンパス事件について

大杉先生は、オリンパスの第三者委員会の調査報告書をソースとして、同事件を以下のように要約されている。 [

「オリンパスは、1980年代後半のバブル経済期に金融商品への投資(財テク)を行い、バブルの崩壊により損失が生じたことから、90年代にはその挽回を狙ってハイリスク・ハイリターンの投資を行い、さらに損失が膨らんだ。90年代末には会計基準の変更により金融資産の時価評価の動きが本格化したことから、同社の経理担当者が(当時の)社長の承認を受けて、外部者の協力の下に投資ファンドに含み損のある金融商品を保有させる方法(飛ばし)で損失を隠した。2003年から10年にかけて、やはり経理担当者が(当時の)社長の承認を受けて、外部者の協力の下に故意に多額のM&Aを行ったり、助言会社に多額の手数料を支払う仕組みを作り、その過大な分をファンドに還流することで含み損を消すとともに、会計上はのれんの償却や減損処理を通じて費用を計上して帳尻を合わせていた」。そして、これらの行為が違法行為であることを指摘した上で、「周囲の関係者はこれらの違法行為をもっと早く発見することができただろうか」という問いを立てられている。この問いに答えるためには、事実関係を正確に把握する必要があるが、少なくとも、「M&Aを使った損失の処理」については、手数料の額が高すぎることから、何らかの不正の兆候があるといえるのであり、この点を足がかりとして、監査役・会計監査人の連携により、もっと早く違法行為を発見できたのではないかと思える。この点、大杉先生は、手数料の額が高すぎるのではないかと不審に思った監査法人がこの点を監査役に連絡しているが、監査役会は外部の専門家に依頼して金額が妥当である旨の報告書を作成してもらったため、監査法人は問題をこれ以上掘り下げることができなかったという。また、2009年に監査法人が交代するときに新旧の監査法人の間で行われた引継ぎの内容は、きわめて空疎であったようである。ここで監査役や監査法人が取った行動は、断定はできないが、不十分であったとの疑いがある」と指摘されている。思うに、監査役会が外部の専門家に依頼して「金額が妥当である旨の報告書」が作成されたことが、一般論としては、会計監査人の調査を終了する理由にはならないというべきであろう。会計監査人は、かかる「報告書」の内容を精査した上で、「外部の専門家」との間で濃密な意見交換をすべきであっと考える。そこで、この報告書(2009年報告書)をみると、、問題のMAについて、結論として、「違法、不正又は善管注意義務違反はない」としているが、「金額が妥当である」とは述べていないようである。また、別稿でも述べたとおり、これには重大な前提条件と留保事項が付されている。

前提条件は以下のとおり。

① 事実関係及び証拠評価等に何ら意見を述べる立場にない

② 調査期間が極めて限定されていた(5月11日から17まで!)ため、開示資料についての網羅的検討が出来ていない

③ ヒアリング対象者が極めて限定されていた

留保事項は、「より広い範囲で開示資料の検討やヒアリングを実施していれば発見できたであろう事項が発見できていない」ことである。

この前提条件と留保事項をみれば、2009年報告書の結論が依拠するに足りるものではないことは、DDや監査の経験者であれば明らかであろう。監査法人は、「より広い範囲で開示資料の検討やヒアリングを実施し」た上での報告書を求めるべきではなかったか。


コメントを投稿