知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

改善パケット事件判決

2015-01-05 13:55:52 | 最新知財裁判例

1 事件番号等

平成26年(行ケ)第10124号

平成26年11月19日

 

2 事案の概要

本件は、特許無効審判請求について請求項の一部を無効とした審決の取消訴訟です。

争点は、〈1〉訂正に関しての新規事項の追加の有無、〈2〉進歩性の有無です。

 

3 特許請求の範囲の記載

【請求項12】

  製品を箱詰めする方法であって、切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装し、上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し、上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に永久的に固定し、消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように上記外箱の形成を完了すること、を含む方法。

 

4 審決の理由の要点

審決は、本件訂正は新規事項の追加に当たるとして訂正を認めないとした上で、本件発明12の容易想到性を肯定し、本件特許を無効としました。

なお、審決が認定した相違点は「本件発明12は、シートを外箱に「永久的に」固定するのに対し、甲2発明Aは、「永久的に」とは特定していない点」です。

 

5 裁判所の判断

裁判所は、大要、以下のとおり判断しました。

5-1 本件訂正に関しての新規事項の追加の有無について

本件訂正は、前記のとおり、「上記永久接着手段(80)は、上記切離し部分(170)の中で、上記主要面の一方において上記切取線(171)と上記端縁との間に配置されており、この永久接着手段(80)によって個包装されたスティック状の製品が上記主要面の一方においてパケットに個々に固定されている一方、隣接する製品同士は互いに接着されておらず、」という発明特定事項を付加する訂正(訂正事項2)を含み、永久接着手段は、切り離し部分(170)の中で、「主要面の一方においてのみ」切取線(171)と端縁との間に配置される構成(本件訂正事項)に限定するものである。

そこで、上記の本件訂正事項が、本件明細書に記載した範囲のものといえるか否かについて検討する。

本件明細書の本文の記載を見るに、本件発明の課題、課題解決から見て、永久接着手段(80)が、製品の主要面の両面にある場合に限られる旨の記載も、一方に限る旨の記載もない。

そして、訂正発明1は、シート(110)を構成要件として含まない発明であり、かつ、個包装に切離し部分がある構成であるところ、これに対応した実施例に係る図面は、図17及び18である。図18は、図17の実施例で、パケット(外箱)から個包装された製品が1個取り出された状態を示す斜視図であるが、製品の主要面の上面に永久接着手段(80)が図示されているものの、主要面の下面には永久接着手段(80)が図示されていない。同図が透視図であることに照らすと、当該記載に触れた当業者は、主要面の下面に永久接着手段(80)が示されていない以上は、下面には永久接着手段(80)は存しないと理解するのが自然である。

また、接着手段は、「所定の様式で個包装またはパケットから切り離すことができる部分に配置され」る(【0012】)ものであり、【0060】に示すように、永久接着手段と切離し部分とは密接に関連しているところ、外箱に切離し部分を有する構成に関するものであるが、【0029】、【0031】には、「外箱の一つの面」に切り離し部分がある構成が記載され、シートを有する構成に関するものであるが、【0033】には、「シートの後方面」に永久接着手段が与えられる構成が記載されており、「切離し部分」が両面ではなく、一側面にある構成についての記載がある。さらに、【0056】には、「これらの接着手段は、2つの主要面の少なくとも一方つまり包装製品の2つの大きな面の1つ、側面あるいは端面に与えることができる。」との記載があり、これは、実施例全体に係るものなのか、図21の実施例に係るものなのかは、必ずしも明らかではないが、少なくとも、本件発明において、包装製品の主要面の両面に接着手段を有する構成のみが、本件明細書に記載されているわけではないものと理解することができる。

以上を考え合わせると、図18について、主要面の下面にも永久接着手段(80)が存在するにもかかわらず、その記載を省略したものとして、主要面の両面に永久接着手段を有する構成のみが開示されているものと限定して捉えるのは相当でなく、同図は、主要面の上面にのみ接着手段を有する構成を開示しているものと認められるから、「主要面の一方においてのみ」切取線(171)と端縁との間に配置される構成(本件訂正事項)が本件明細書に記載されていると認められる。

以上によれば、永久接着手段(80)が、主要面の一方のみにあれば、原告主張の作用効果を奏することはその構成自体から、当業者にとって自明であると認められ、当該作用効果によって新たな技術的事項が導入されたとすることはできない。

 

5-2 進歩性判断の誤りについて

(1) 甲1発明について

甲1発明は、〈1〉包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること、〈2〉包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること、の2つの要件により、包装体を収納容器から取り出す際、片手で包装体を引っ張るだけで、包装体が切目線の部分で切り離され、包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができる、被包装物を包装した包装体が収納容器に固着されているので、包装体と収納容器との間に空間が生じても、輸送中ばらばらになることなく整列した状態を保つことができるという作用効果を達成したものと認められる。

(2) 相違点1の進歩性判断について

ア 審決は、甲2発明Aに、甲1の技術を適用すると、適用後の発明は、甲1に記載された上記の消費者にとって有用な作用効果を奏することが、当業者に明らかであるから、甲2発明Aに甲1の技術を適用する動機付けは存在するとした。

しかし、これは、両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり、具体的な動機や示唆の有無について検討することなく、単に、組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり、事後分析的な不適切な判断といわざるを得ない。

イ そこで、甲2発明Aに甲1発明の技術を適用する動機付けについて検討すると、以下のとおりである。

すなわち、両発明とも、ガムなどの製品(包装体)を箱(収納容器)に収納するパッケージ(容器入り包装体)であり、同じ技術分野に属するものであって、製品(包装体)が取り外された後においても箱(収納容器)内で製品(包装体)を保持することができるようにするという点で課題(効果)を同じくする部分があるものと認められる。

しかし、甲2発明Aは、消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで容易に取り出すことができ、かつ、多数の製品が取り外された後でも製品を保持することができることを目的とし、そのために、製品とシートの間の結合(接着)は、製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとったものである。

これに対し、甲1発明は、容器に収納されている形態の被包装物を、片手で簡便に取り出すことを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として、包装体下方部を収納容器に永久的に固着すること、及び包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること、の2つの要件により、包装体を収納容器から取り出す際、包装体を引っ張るだけで、包装体が切目線の部分で切り離され、包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるとの構成をとったものである。

そうすると、当業者は、製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとった甲2発明Aにおいて、製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永久的」なものとすることによって、包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発明を組み合わせることはないというべきである。

よって、甲1の技術を、甲2発明Aに適用して、相違点1に係る本件発明12の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことである、との審決の認定は誤りである。

 

6 コメント

6-1 新規事項の追加について

裁判所の判断は、本件明細書の特定の記載を無視するという審決を批判し、全体的整合性を重視して本件明細書を解釈したものであり、妥当と思われます。

 

6-2 進歩性の判断について

本判決は、審決に対し、「両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり、具体的な動機や示唆の有無について検討することなく、単に、組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり、事後分析的な不適切な判断といわざるを得ない」との厳しい指摘をしているものとして今後の実務に参考になるものと思われます。

 

以上

 

 


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