独立系シンクタンクの設立を目指す僕にはとりわけ有益な本でした。法政策に関与する人の必読文献ですね。
今回は、本書の最終章の「10の解毒剤」についてコメントします(細かくは続編で)。
1 整理解雇規制の緩和
著者の三宅氏は、現行の整理解雇規制が過剰であり、その結果、非正規社員が雇用の安全弁なり、また、新規雇用が萎縮していることに加え、経済成長を阻害しているとして、その緩和を主張し、同時に雇用契約の多様化を主張している。
筆者は、雇用契約の多様化には賛成である。特に中期雇用制度と労働特区の創設は必須であると思う。しかし、整理解雇規制の緩和はどうか。確かに、一定の条件の下での金銭的補償による解雇(雇用契約の解約)は導入すべきであると考えるが、整理解雇が企業の一方的都合による雇用契約の解約であることに照らせば、現行の整理解雇規制(労働契約法16条)はそのままとして、企業の実情に応じた解釈・適用により柔軟に対処することが適切と解する。なお、能力不足等による解雇についても、企業の実情に応じた解釈・適用により柔軟に対処することが妥当である。裁判官に期待しすぎという批判もあろうが、裁判官は、社会通念という名の世論に敏感なので、このような主張が広まれば、裁判所の対応も変わってくるはずだ。
2 コンプライアンス委員会の廃止
三宅氏は、「正しいこと」、「社会に役に立つこと」がまず上位にあり、その下に法令があると考えることが、正面突破戦略を促し、規制緩和を勧める原動力となり、社会の発展、経済成長にもつながるとする。
確かに、「正しいこと」、「社会に役に立つこと」(以下「正義」又は「社会的要請」)は法令の上位にあるが、そうであるからといって、法令違反をしても良いことにはならない。むしろ、「正義」又は「社会的要請」に照らして法令を解釈すること(既にある解釈を変更すること)により、「正義」又は「社会的要請」の矛盾を止揚するべきではないか。
3 フェアユース制度の導入
全面的に賛成であるが、現行法の解釈としては、フェアユースの抗弁を認めるよりも一定の場合の差止めを権利濫用であるとして否定する方が妥当である。なぜなら、第1に、法令の根拠があるし、第2に、損害賠償(金銭的給付)を認めることにより著作権者側の利益にも配慮できるからである。
4 ネット選挙の解禁
賛成だが、そもそも、ネットによるコミュニケーションが「文書図画の配布」に該当するか疑問であるし、「文書図画の配布」禁止という公選法の規制自体の当否も改めて検討すべきであろう。
5 投票価値の格差解消
賛成。
6 「おしんルール」を創る
総論賛成だが、各論は保留。
7 「財界タイガーマスク」は素顔で行動する。
賛成だが、文化が絡むので実現は難しいかも。
8 競争・市場・格差の意味を教える。
筆者には、日本国民の多数は無意識ののうちに皆でゆっくりと沈むことを望んでいるという印象がある。しかし、大震災でこの意識は大きく変化しつつある。今こそ、「競争・市場」の意味を考え、国家が是正すべき「格差」は何か、ということを議論すべきであろう。
9 自分の脳みそで徹底的に考える。
今の日本人はこれが一番弱い。
10 壮大な夢を語る
今の日本の政治家にはこれが欠けている。
「最小不幸社会」というスローガンは最悪だ。
なお、279ページに、「ロールズの考えにも通じるところがある」との記載があるが、注としてはロールズ原典を引くべきではないか。なお、ロールズの格差原理は、格差是正のために許容される不平等を最弱者の救済のためのものに限定する趣旨と理解するべきであり(ロールズ自身の意図は違うかもしれないが)、「最小不幸社会」とは全く違うと思う。
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