知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

インテリジェンス高裁決定

2011-05-12 10:29:14 | 会社法

標記高裁決定のポイントは以下のとおり。

① フェアネス・オピニオンとは、一般に、第三者機関が、組織再編や公開買付の当事会社に対し、買収価格や統合比率について、企業の財務的見地から公正であることを意見表明するものであるところ(甲81)、みずほ証券の算定書及び大和証券SMBCの算定書においては、いずれも「本件株式交換の公正性について何ら意見を表明するものではありません」としてフェアネス・オピニオンは付されていないことの記載がある(甲10の2)。しかしながら、フェアネス・オピニオンは、これが付された方が株式交換の条件の合理性の根拠としては有力かつ信頼性の高いものとなるが、みずほ証券の算定書に一応の合理性の認められることは前示のとおりであり、フェアネス・オピニオンが付されていないことをもって、上記各算定書が信頼性に欠けるものということはできない。

② 回帰分析の手法による本件株式の「公正な価格」の算定合理性等について

あるイベント(情報開示)によって、対象株式の株式価格が変動したとき、その変動のうちどの程度が市場の一般的価格変動要因によるもので、どの程度がイベントに起因するものかを定量的に分析する手法をイベント分析といい、イベント分析に用いられる標準的な手順として、回帰分析を用いて対象となる株式の価格変動と市場及び業界の各インデックスの変動との相関関係を求め、この結果に基づいて一般的価格変動要因である市場及び業界の各インデックスの変動から対象株式の変動を予測する「マーケットモデル」を構築するという手法がとられる。回帰分析の手法は、その精度について客観的な検証が可能であり、科学的根拠に基づく合理的手法。

回帰分析とは、変数間の相関関係を分析し、定量化する統計的手法であり、回帰式は、一般的には「y(被説明変数)=α(定数項)+β(変動係数)×x(説明変数)」で示され、被説明変数が対象株式価格の予測変動率(y)であれば、一定期間の対象株式価格と株式価格に影響を与えると推測される市場及び業界の各インデックスとの相関関係を分析することにより、説明変数(x)の変動がなくとも対象株式価格について推測される一定の変動率(α)及び説明変数(x)の変動により対象株式価格が変動する割合を示す変動係数(β)を求め、その上で、前記恒等式のとおり、一定の定数(α)に、説明変数となる日経平均株式価格等の市場インデックスや業界インデックスの変動率(x)に変動係数(β)を乗じた数値を加算することにより、対象株式価格の予測変動率が得られる。これにより、市場及び業界一般の要因に基づく対象企業株式の変動率を算定することができるとされている。この恒等式「α+β×x」は推計により設けられるが、この推計の精度を高めるためには、回帰分析で使用する変動係数等のデータを収集する期間(推計対象期間)の設定と説明変数とする市場インデックスや業界インデックスの選択を適切に行う必要がある。そして、推計対象期間中の対象株式とインデックスの相関関係の検証方法としては、決定係数(回帰モデルで説明変数により非説明変数が説明される度合いを示し、0が全く説明されないこと、1が全て説明されることを意味する。)によりモデルの説明能力を確認するだけでなく、変動係数(β)が、統計的に有意であるかについても確認する必要があり、通常、統計的検定の値(t値)の絶対値が1.96以上であれば、95%の信頼水準で統計的に有意である

恒等式の変動係数を当てはめる市場インデックス、業界インデックス等(本件ではジャスダック指数の変動率)は、投機的思惑等一定の偶発的な要素の影響を受ける面もあるので、偶発的要素による影響を排除するためにも、株式交換の効力発生日前の一定期間の平均値をもって抗告人株式の有する基準時の客観的価値を判断するのが相当であるところ、審問の全趣旨によれば、本件における上記の期間としては、本件株式交換の効力発生日の前日からその前1か月間の平均値をもって算定した価格をもって、本件株式の「公正な価格」とするのが相当であると解される(本件株式交換契約では、本件株式交換の効力発生日の前日の最終の株主名簿に記載又は記録された株主に対し、株式交換が行われる(乙1112)。なお、本件はジャスダック指数の変動率を説明係数に用いているので、出来高加重平均値を用いるのは相当ではない。)。そうすると、本件株式の「公正な価格」は、別紙計算書のとおり、1株につき6万7791円とするのが相当。



コメントを投稿