標記決定の骨子は以下の通り。
①「公正ナル価格」の意義
産業活力再生特別措置法12条の3第2項及び第3項、旧商法245条の5第3項によれば、営業譲渡に反対した株主は、一定の要件の下、会社に対して、自己の有する株式を「営業ノ重要ナル一部ノ譲渡ニ係ルル契約ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」で買い取るべきことを請求できることを定めているが、この制度は、会社が営業の重要なる一部の譲渡を決定した場合、これに反対する株主に投下資本を回収する途を保障するものであり、そこでいう「公正ナル価格」とは、営業譲渡が行われず会社がそのまま存続すると仮定した場合に形成されたと想定される株式の客観的交換価値(営業譲渡がされたことにより生ずるシナジー部分(営業譲渡から生ずる相乗効果)は含まない。)をいうものと解される。このように、営業譲渡が行われず会社がそのまま存続すると仮定した場合における株式の価値を評価するのであるから、基本的に一審相手方の継続企業としての価値を基に評価すべき。
② 本件株式の評価方法
株式の価値は、株式を発行する企業の企業価値から導き出されるものであるが、企業価値は、資産価値、収益性や業界の景気動向などに影響されるので、客観的、一義的に決定するのは困難である。上場会社の場合には、株式の市場価額という客観的な指標が存するが、非上場会社の場合は、株式の市場価額が存在しないため、当該企業価値を表象する重要な要因が何であるかに着眼し、その着眼点に合致した方法により株式評価を行うことが相当。
DCF法とは、評価対象会社から将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引き、株式価値を算定する収益方式(インカム・アプローチ)の代表的手法であり、将来のフリー・キャッシュ・フロー(企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産の価値を加算し、負債の時価を減算して企業価値を算出し、株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法であるところ、本件では、以下のとおり、このDCF法により評価することが一番妥当。
③ 本件鑑定の相当性
本件鑑定は、DCF法により本件株式買取価格を評価・算定したものである。そこで、更に本件鑑定の内容に照らして、本件鑑定の結果を採用するのが相当か否かを検討する。
鑑定は、裁判所の判断の補助として、特別の学識経験を有する者から専門的知識や経験則を報告させるものであり、裁判所は、必ずしも鑑定の結果に拘束されるものではないが、本件鑑定で採用されたDCF法は、企業が将来生み出すフリー・キャッシュフローの総合計を現在価値に割り引くことによりその企業の株式価値を評価するという、極めて高度な専門的知識と経験を必要とする判断である上、純然たる将来の予測に関わるものである(過去に生起した事実の認定判断に関わるものではない。)から、裁判所が鑑定の結果を採用するか否かを判断するに当たっては、基本的には、鑑定が前提とした事実に誤りがないか、前提とした資料の選択や専門的知識に基づく判断の過程に著しく合理性を欠く点がないかといった観点から検討していくのが相当であり、この観点に立って特に問題がなければ、鑑定の結果を尊重するのが相当。
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