平成24年6月28日判決言渡
平成23年(行ケ)第10179号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年2月28日
1 本件は,拒絶査定不服審判不成立審決に対して取消を求めたものです。
2 本判決は、実施可能性要件に関し、「本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合して,当業者において,本願発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載ないし開示があると評価できるか否かについて,検討」すると述べた上で、「本願明細書には,年齢に関連する黄班変性( AMD)の滲出形態が,脈絡膜新血管新生及び網膜色素上皮細胞剥離に特徴づけられること,脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本願発明のVEGF拮抗剤は,AMDの重篤性の緩和において特に有用であると思われること(上記1(2)カ)が記載され,また,hVEGF拮抗剤の1種である抗hVEGFモノクローナル抗体が,血管内皮細胞の増殖活性を阻害し,腫瘍成長を阻害し,血管内皮細胞走行性を阻害することについての試験結果が示されている」と述べる一方、「甲9は,本願の優先権主張日前の平成7年1月に公表された文献であって,血管新生のメカニズムや細胞増殖因子との関係等についての概要が説明されている(上記1( 3)ア)。同文献には,病的状態に関連する血管新生は,「重症糖尿病網膜症,未熟児網膜症,尋常性乾鮮等の病的状態を作り出す血管新生」,「悪性腫瘍における血管新生のように,病的状態の進行に関与する血管新生」,及び「病的状態からの回復期に認められる血管新生」の3つのカテゴリーに分類して論じられること(同イ),血管新生は様々な物質によって調節されているが,血管新生を促進する重要な因子として, ①VEGFばかりでなく,②FGF及び ③HGF等のポリペプチドが存在すること,また,VEGFはその発現が細胞の虚血によって制御されており,動脈が閉塞し,あるいは癌細胞が急速に増殖して組織の酸素分圧が低下した場合にVEGFが分泌され,血管新生を引き起こすこと(同オ),さらに,血管新生のメカニズムは解明されつつあるが,どのような病態でどの増殖因子が血管新生にかかわっているのかについては不明な点が多いこと(同カ)が記載され,同記載内容は,本願の優先権主張日である平成7年3月30日当時には技術常識となっていたといえる。加齢性黄斑変性の原因である脈絡膜での血管新生は,甲9記載の病的状態を作り出す血管新生のカテゴリーに属するものであるが,上記のとおり,甲9には,血管新生を促進する因子としては,FGFのみではなくVEGFやHGFが知られていたこと,血管新生のメカニズムは解明されつつあるものの,どのような病態でどの増殖因子が血管新生に関与しているかは不明な点が多い点が記載されている」と指摘し、よって、「脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない」と判断し、よって、「本願発明(「加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。」)の内容が,本願明細書における実施例その他の説明により,「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤」を使用することによって,加齢性黄斑変性に対する治療効果があることを,実施例等その他合理的な根拠に基づいた説明がされることが必要となる」と判断した上で、「本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを示した実施例等に基づく説明等は一切存在しないから,本願明細書の記載が,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものということができない」と結論づけました。
3 本判決は、実施可能性要件を否定したものとして実務の参考になるものと思われます。
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