1 本判決
本件は、サービス提供者が親機ロクラク及び子機ロクラクを貸与するなどして、放送地域外のユーザーに対してテレビ放送の受信を可能とするサービスが複製権の侵害か否かが問題となった事例である。
本判決は、サービスの利用者による複製が私的複製に該当し得ることを念頭において、まず、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービス提供者が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製機器に入力していて、当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体である」と述べた。
さらに、本判決は、「すなわち、複製の主体の判断に当たっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ、上記の場合、サービス提供者は、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており、複製におけるサービス提供者の上記各行為がなければ、当該サービスの利用者が録画の指示をしても、放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり、サービス提供者を複製の主体というに十分である」と判断した。
2 「複製の主体」の判断手法
単純な複製と異なり、本件サービスにおいては、サービス提供者の行為と利用者との行為が相まって、放送番組等の「複製」が実現している。このように、「複製」に至るプロセスに複数の者が関与している場合には、複製の主体を、「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるか」を規範的に判断することは通常の事実認定の手法であり、異論はない。
3 本判決の射程範囲
本判決の射程範囲が、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービス」に限定されることは、判旨から明らかである(柴田113頁)。
4 本件の特殊性と私的利用の代行
本件の場合、問題となる著作物は放送番組等であり、対象地域が制限されているところ、本件サービスは、対象地域外において放送番組の視聴を可能とするものである。このことから、2つの事情を導くことができる。第1は、本件サービスが対象地域の制限とい放送法の規律を無効化してしまうことである。第2は、これは、利用者自身が実現することはできず、サービス提供者の行為があって始めて可能になることである(柴田110頁注8)。
第1の事情は、本件において複製権侵害を認めるべきとの結論を実質的に正当化する要因である。また、第2の事情は、本件サービスが私的利用の代行であるとの反論(複製の主体は利用者と判断されるべきとの反論)を覆えす要因である。この第2の事情は、「①「著作物の取」という枢要な行為に直接的に関与しているのは誰か、②事業者の関与がなければ著作物の利用が「およそ不可能」といえるのか」である(小泉11頁)。いいかえれば、「枢要行為性」と「不可欠性」が重要な考慮要因となる。なお、MHYUTA事件判決(東京地裁平成19年5月25日)においては、「技術的に一般のユーザーには相当困難な形での複製物を提供していたことが、利用主体性認定の根拠となった」と考えられるのであり(小泉11頁)、本判決の考え方に通じるものがある。
この点、第1の事情は、クラウド・サービス及び書籍PDF化代行サービスのいずれにも妥当しない。これに対して、第2の事情については、クラウド・サービス及び書籍PDF化代行サービスの具体的内容如何による。
5 結論
以上のとおり、あるクラウド・サービス及び書籍PDF化代行サービスのいずれも本判決の射程範囲外であることは明らかである。もっとも、本判決の考え方を、クラウド・サービス及び書籍PDF化代行サービスのいずれにも及ぼすことは可能であるが、サービス提供者が「複製の主体」であると判断されるか否かは、サービスの具体的内容如何による。
参考文献:柴田「最高裁判例解説」L&T51号105頁以下、小泉「まねきTVとロクラクII最判の論理構造とインパククト」ジュリスト1423号6頁以下
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