1 自炊代行については、違法と解する見解が有力である。しかし、一定の条件を充足する場合には、自炊代行の過程において「複製」が存在せず、合法となると考える。つまり、いわゆる「自炊代行」を一括りにして議論すること自体誤りである。
2 「複製」概念の規範的判断
(1)著作権法の趣旨
著作権法は,著作物の「複製」について著作者の独占権を認めている。その趣旨は,「複製」により著作物原本(以下「オリジナル」ということがある)と同一の情報を格納する媒体である「複製物」が発生し,その「複製物」の販売等の適法性を著作者の許諾にかからしめることにより著作者の経済的利益を保護し,以て文化の発展に資することにある(著作権法1条)。言い換えれば,著作権法は,オリジナルの「複製」が著作者の許諾の如何にかかわらず実施される場合,許諾を得ない「複製物」が多数販売等されることにより,許諾を得た「複製物」の販売等が悪影響を受け,著作者の許諾料収入が減少することを防止しようとしているものであり,このためには,「複製物」の「複製」も著作者の独占的権利とする必要がある。これを書籍に即していえば,適法に流通する書籍を購入し,著作者の許諾を得ない「複製」により多数(少なくとも複数)の「複製物」を販売等する行為は,適法な「複製物」である書籍の販売を減少させ,著作者の経済的利益を害することになる。
(2)「複製」の意味
かかる観点からすれば,「複製」といえるためには,オリジナル又は複製物に格納された情報(以下単に「情報」ということがある)を格納する媒体を有形的に再生する(以下「有形的再生」ということがある)ことに加え,当該再生行為により複製物の数を増加させることが必要である。けだし,当該再生行為により複製物の数が増加しない場合(情報と媒体の1対1の関係が維持される場合)には,市場に流通する複製物の数は不変であり,著作者の経済的利益を害することがないからである。言い換えれば,「有形的再生」に伴い,その対象であるオリジナル又は複製物が廃棄される場合には,当該再生行為により複製物の数が増加しないのであるから,当該「有形的再生」は「複製」には該当しない。このように,「複製」概念を規範的に判断することについては,裁判例も認めるところであり,また,複製の主体を規範的に判断する判例の考え方にも沿うものである。
2 具体的検討
これを具体的に検討すると、自炊代行の過程において、複製物である書籍を裁断し,そこに格納された情報をスキャニングにより電子化し電子データに置換した上,原則として裁断本を廃棄するものであるならば,その過程全体において,複製物の数が増加するものではない(自炊代行の開始時と終了時において複製物の数は変わらない)から,「複製」行為は存在しない。すなわち,確かに,スキャニングにより複製物の数は1つ増加するものの,裁断本の廃棄により複製物の数は1つ減少するから,自炊代行の開始時と終了時において複製物の数は変わらないのである(情報と媒体の1対1の関係は維持されている)。
3 付言
もっとも、作家の意思は尊重されるべきものであり,作家が電子化サービス不可を一般人が認識可能な態様にて表明している場合(不可作家の場合)において,不可作家の意思に反して書籍を裁断等することは,不可作家に精神的損害を与えるものとして不法行為(民法709条)に該当すると考える。そのため,特段の措置を講じることなく漫然と不可作家の書籍について電子化サービスを提供する業者は「過失」があるというべきであり,相応の責任を負うべきである。
以上
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