知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

創作性と著作物

2011-03-28 18:08:09 | 著作権

 1 著作権法2条1項1号は、著作物を、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義している。したがって、ある作品に著作物性が認められるための要件は、当該作品が、①思想または感情を、②創作的に、③表現したものであって、④文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものであること、である。それでは、「創作性」とは何であろうか?

   2 創作性の意義  (1) 「創作性」が要件とされる理由 法2条1項1号において「創作性」が著作物性の要件とされた理由は、著作権法によって保護される作品には、「何らかの知的活動の成果、つまりクリエーティブなものがなくてはならない」と考えられたためである(加戸守行『著作権法逐条講義〔五訂新版〕』20頁)。すなわち、著作権法上の保護が与えられる作品といえるためには、当該作品の製作に際し、多大な費用や労力をかけたか否かは無関係であり、当該作品が製作者の精神的活動の成果であるといえることが必要となる。したがって、たとえば、東京地判平成11 ・2 ・25(松本清張作品映像化リスト事件 ・判時1677130頁)の事案のように、特定の小説家の作品のうち映画化されたものの題名等を網羅的に並べたリストなどの多大な費用や労力をかけたものであっても、知的活動の成果としての側面がない限り、「創作性」の要件を充足しないといわざるを得ない。

  (2) 創作性の定義 以上のとおり、ある作品が「創作性」の要件を充足するためには、当該作品が作成者の精神的活動の成果といえることが必要である一方、そのレベルの高低は問われないと解されている。つまり、創作性とは、著作者の「個性」が表れていれば足り、美術性 ・芸術性とは異なり、そのレベルの高低を問わないのである(斉藤博『著作権法』(有斐閣)73頁)。したがって、幼児園児の絵であろうとも、個性が表れている限り、「創作性」の要件の充足は肯定される。この点は裁判例も同様である(東京高判平成10 ・2 ・12(四谷大塚問題解説書事件 ・判時1645129頁)など)。その理由は、創作性のレベルの高低の判断は、判断者の主観により左右されるところが大きいため、司法的判断に馴染まず、著作権保護の範囲が不明確となるからである。この点、大寄麻代「著作物性」(牧野利秋 ・飯村敏明編『著作権関係訴訟法』(青林書院)133頁)は、創作性の要件の充足の有無が創作性のレベルの高低により左右されない理由について、「学術的、芸術的なレベルの高低は、客観的判定には馴染みにくいものであるから、著作物性の成立に必要な程度に達しているか否かにつき、判断者によって意見が分かれ、結論が恣意的になるおそれが大きく、著作権保護の範囲が不安定となるからである」と述べており、参考になる。

 このように、「創作性」が個性の現れであると解するならば、次に「個性」の意味が問題となる。この点、創作性の有無の判断においては、「他に表現の選択の余地がある」ことを「個性」と考えるべきであろう。なぜなら、創作的表現について独占性を与える理由は、創作的表現を作出するインセンティブを与えることにより、創作的表現を豊富化することにあると解されるところ、「他に表現の選択の余地がない」場合に当該表現に独占性を認めることは、創作的表現の豊富化につながらないからである。

  (3) 創作性が否定されるもの 著作物の種類にかかわらず「個性」の現れが否定される場合として、①既存の作品を模倣した表現、②アイデアと一体となった表現、③ありふれた表現があげられることがある(前掲書 ・大寄134頁)。

 既存の作品を模倣した表現については、創作性がないことは明らかである。また、アイデアと一体となった表現については、アイデアに創作性があるとしても、アイデアと一体となった表現自体には、表現の方法に他の選択の余地がなく、創作性が否定されることは明らかであろう。

 これに対して、ありふれた表現については、表現の方法に選択の余地がある場合であっても、その表現がありふれたものである場合は、個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるとする見解が強いが、そもそも、何をもって「ありふれた表現」と評価するかは微妙な問題であるし、他に表現の選択肢がある場合には、原則どおり創作性を認めるべきであろう(作花文雄『詳解著作権法』(ぎょうせい)89頁)。「ありふれた表現」について創作性を否定する見解は、結局、創作性に学術性 ・芸術性を要求しているのではないかとの疑問がある。また、「ありふれた表現」の著作物性を肯定しても、当該表現が日常的に使用されるようなありふれた表現である場合には、保護範囲は狭くなるし(デットコピー以外は原則として著作権侵害とはいえない)、また、「依拠」の要件を肯定することは困難な場合が多いから、「ありふれた表現」について著作物性を肯定しても、実際上の支障はないと思われる。


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