知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

複製主体論あるいは著作権の間接侵害論と私的使用目的複製についての一考察(1)

2015-03-19 15:48:26 | 著作権

1 はじめに

デジタル時代の到来により、アナログの著作物をデジタルに変換するニーズが高まる一方、インターネットにおけるブロードバンドの出現やクラウドサービスの普及に伴い、ユーザーの私的使用のための複製に関するサービス(以下「サービス」)の提供が事業として現実化しており、また、時々刻々、事業化の検討がなされている。

検討対象サービスには種々のものがあるが、著作権法(以下「法」)の規制との関係においては、検討対象サービスは、私的使用目的の複製[1]といえないのではないかが問題となる。敷衍すれば、検討対象サービスにおける複製の主体はユーザーであり、その複製は私的使用目的のためのものであるから、法30条1項の適用により、当該複製は複製権の侵害を構成しない[2]という立場がある一方、検討対象サービスにおける複製の主体はその提供者であり、その複製行為は複製権の侵害を構成するという立場がある。

これらの点について、現在、文化庁審議会著作権分科会の著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会においてクラウドサービス等と著作権に関して議論がなされ、平成27年2月、「クラウドサービス等と著作権に関する報告書」(以下「報告書」)がまとめられたところである。

本稿は、まず、複製主体論(あるいは著作権の間接侵害論)について、法112条1項に基づく差止の相手方といえるための要件の問題として把握した上で、刑法における正犯性等をめぐる議論を参照しつつ、これを検討し、さらに、私的使用目的複製について、法30条1項の立法趣旨について立法担当者の見解には拘束されないという法哲学上の立場を前提として、その要件について検討することを目的とする。

 

2 複製主体論(あるいは著作権の間接侵害論)

2-1 問題設定

検討対象サービスに関しては、複製の主体は誰であるのかという議論や、著作権における間接侵害の可否及び要件が議論されているが、これは、端的に法112条1項における「著作権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」の解釈問題であり、差止めの相手方は誰であるかという議論であると整理できる。

 

2-2 「著作権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」の解釈

2-2-1 間接行為者の取扱い

この点については、直接行為者と一定の条件を満たす間接行為者が「著作権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」(以下「侵害者」という)に該当すると解する。理由は以下のとおりである。

まず、直接行為者が「侵害者」に該当することには異論はない。問題は、直接行為者の行為を教唆・幇助する間接行為者が「侵害者」に該当するか否かである。ここでの解釈指針は、直接行為者による侵害行為に関与(因果的寄与)する者(=間接侵害者)の存在が当然に想定されるにもかかわらず、法112条1項が差止めの相手方を「侵害者」に限定した趣旨である。この点については、著作権による規制が表現の自由等憲法上の自由等の制約になることを踏まえれば、差止めの相手方を限定することにより、一定の範囲内で行動の自由を保障する趣旨であると解される。従って、全ての間接行為者が「侵害者」に該当するという見解は同項の立法趣旨に反するものであり採用できない。他方、検討対象サービスにはその態様において多様なものがあり得ることを踏まえれば、いかなる場合であっても間接行為者が「侵害者」に該当しないという見解は、著作権の保護に悖るケースが発生する懸念なしとしない。すなわち、間接行為者であっても、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という法の目的に照らし、侵害行為に対する関与(因果的寄与)の内容・性質・態様・程度等という観点から、直接行為者と同視できる者については、「侵害者」に該当すると解すべきである。ここで、「直接行為者と同視できる」か否かの判断に際しては、複製行為(著作物の有形的再製)という一種の結果発生に対する心理的・物理的関与(因果的寄与)の程度により判断されるものであり、その際には、複製行為に至る一連の行為を分析することが必要である。

そして、かかる関与(因果的寄与)の程度を判断するための考慮要素としては、(ア)複製の対象となるコンテンツの選択主体は誰か、(イ)物理的な複製行為を行った者は誰か、(ウ)複製に至る一連の行為を発意したのは誰か、(エ)かかる発意に対しての他の行為者の関与(因果的寄与)の程度等が考えられる。

 

2-2-2 共同行為性

このように、一定の場合、間接行為者は直接行為者と同視できるものであり、「侵害者」に該当する。そして、この場合には、あたかも刑法における共同正犯と同様に、直接行為者と間接行為者の双方が「複製の主体」であり、「侵害者」になると解される。

 

2-2-3 従属性

間接行為者は、あくまで、直接行為者の行為について心理的・物理的関与(因果的寄与)を行うことにより、「侵害者」とされる場合があるというにすぎず、その責任は、二次的なものである。従って、間接行為者の行為が著作権法に反して違法と判断され、「侵害者」であるとされるためには、直接行為者の侵害行為が著作権法に反して違法であることが不可欠の前提であり、この意味において、間接行為者には「従属性」が認められる。

従って、著作権法の制限規定の適用等により、直接行為者の行為が著作権法に反しないとされる場合には、間接行為者の行為は当然に著作権法に反しないと判断されるものであり、間接行為者は「侵害者」には該当しない。

 

3 私的使用目的複製

3-1 立法趣旨

法30条1項は、「著作物を・・・個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)」を目的とするときは、・・・その使用する者が複製することができる」旨規定する。

立法担当者によれば、この趣旨は、「閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容するものであって、外部の者を介入させる複製を認めない」ものであるとされている。この見解に立てば、検討対象サービスにおいては、法30条1項が適用される可能性はないはずである。けだし、検討対象サービスは、その定義上、「サービス適用者」という外部の者が介入することを不可欠の要件としているからである。

確かに、ある単体の条文の立法趣旨を把握する際において、立法担当者の見解は重要な考慮要素(資料)となる。しかし、法は静態的・固定的なルールの単なる集積(集合体)ではなく、条文化された個々のルールの有機的結合により構成される動態的なシステムであり、条文の立法趣旨を把握する場合には、法の目的を踏まえた上で、当該法の他の条文(ルール)を考慮し、さらに、立法当時からの社会情勢の変化等を見極めることが必要である。この観点からすれば、デジタル時代の到来により、アナログの著作物をデジタルに変換するニーズが高まり、インターネットにおけるブロードバンドの出現やクラウドサービスの普及により、このようなニーズに応えることが技術的に可能になっている一方、このような時代における著作権保護の実効性を確保するために、各種の支分権が立法により追加され、また、判例により、「侵害者」の範囲が拡張される傾向にあることを踏まえれば、法30条1項の立法趣旨を立法担当者の見解を若干拡張してとらえることにより、権利者と利用者の利益のバランスを均衡させ、文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という法の目的の実現を図るべきである。具体的には、法30条1項の立法趣旨は、著作権者の利益を不当に害さないことを前提として、一定の条件の下、複製の自由を肯定することにより、私的領域の自由の確保を図るとともに、既存の著作物の複製物の利用可能性を高めることにより新たな著作物が創造される途を拡大することと解すべきである。

 

3-2 「その使用する者が複製」の解釈

同項の立法趣旨について前記のように理解するならば、「その使用する者が複製」の解釈として、「外部の者の介入」を完全に除外するような解釈が必然的に要求されるものではなく、「外部の者の関与(因果的寄与)」により「私的領域の自由を確保し、既存の著作物の複製物の利用可能性を高めるという要請」と著作権者の利益を不当に害さない」という要請とを調整する解釈が求められる。

かかる観点からすれば、「その使用する者が複製」については、特許法73条の解釈も参照し、以下のように解すべきである。

すなわち、「使用する者が複製」といえるためには、使用者自身が物理的に複製する場合のみならず、第三者に委託して複製させる(以下「委託複製」)場合も含まれると解すべきである(委託複製含有説)。けだし、委託複製を禁止権の対象としないことは、自ら複製する時間的余裕等のない者に対して私的使用目的の複製の機会を確保し著作物の多様な利用方法の確保を促進することにつながるものであり、30条の趣旨に合致するからである。

もっとも、前記の30条の趣旨に照らせば、「使用する者が複製」に該当する委託複製といえるためには、以下の要件が必要である[3]

第1に、「委託」である以上、使用者が当該複製を行うことを発意したことが必要である。

第2に、「使用する者が複製」という要件の意義は、当該複製の対象となる著作物を格納する媒体が正当に取得されたこと(著作権者に対価を得る機会が与えられていたこと)を担保することにあるから、委託者たる使用者が当該媒体を選択・調達することが必要である。

第3に、当該複製物は、当該媒体を正当に取得した者に対してのみ提供されることが必要である。けだし、当該媒体が第三者に提供されるとすれば、著作権者の正当な利益が害されるからである。

 

 


[1] アナログの著作物をデジタルに変換する場合には、かかる変換行為(電子ファイル化行為)は「複製」に該当しないという見解もあるが、解釈論の枠を超えた立法論というべきであろう。

[2] 厳密には、同項1項但書の「自動複製機器」の該当性及び附則5条の2の該当性の検討も必要である。

[3] (奧邸弘司「著作権法三0条一項の「使用する者が複製することができる」の意義「紋谷古希記念「知的財産法と競争法の現代的意義」)927頁以下参照)。

 

 


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