1 意匠権の効力と類似の意味
意匠権の効力は、登録意匠に類似する意匠に及びます(意匠23条)。
「登録意匠に類似する意匠」の類似の意味については、混同説と創作説がありますが、判例(最判昭和49年3月19日)は、「意匠法3条1項3号は、意匠権の効力が、登録意匠に類似する意匠すなわち登録にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美観を生ぜしめる意匠にも、及ぶものとされている(意匠法23条)ところから、右のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美徳の類否を問題とする・・・同条1項3号に定める「類似」の意味を創作の容易と同義に解し、同条1項3号は、同条1項と解することは相当ではない。」とし、最判昭和50年2月28日(判タ320号160頁)も、「意匠法3条1項3号の規定は、・・・一般需要者の立場からみた美感の類否が問題となる」として、創作説を否定し、混同説の立場に立つことを明らかにしています。下級審も、ほぼ混同説によっていっています。
2 意匠の類否判断の手法
意匠の類否判断においてよく採られる手法は、①まず両意匠の基本的構成態様、具体的構成態様を認定し、②これを全体的に観察して、物品の性質、用途・使用形態等から、どこが看者が最も注意を引かれる部分かを判断する、③その上で登録意匠とイ号意匠を対比し、注目される部分の意匠において両意匠が構成態様を共通にするなら、両意匠は類似であり、また、④差異があっても、それが微差であったり、⑤それが周知のありふれた態様等であって看者からその部分により美感を異にすると認識されない(注目される形態ではない。)ときは、やはり両意匠は類似すると認める、というものです。
(1) 基本的構成態様、具体的構成態様
基本的構成態様は意匠を大掴みに把握した態様、具体的構成態様拝承を詳しく観察した態様です。これは、基本的構成態様が大きく異なれば、細部について対比するまでもなく意匠は類似しないという結論に至ることが多いため、思考の便宜のためにまず基本的構成態様として大掴みな認定をしようとするものですから、具体的構成態様まで対比した後に、ある態様が基本的構成態様かを議論することは、あまり意味のあることではありません。
(2) 看者が最も注意を引かれる部分の認定
例えば、テレビの裏側などのように、使用の際に目に触れない部分の意匠は需要者の注意を引きません。そして、看者の注意を引かない部分が相違しても、看者は両意匠の相違を認識しないから、注意を引く部分の認定が必要となります(看者の注意を引く部分が一部とは限らず、全体であることもある。)これは、物品の性質、目的、使途、使用態様等を考慮して決定される。これを要部と呼ぶことがあります。
もっとも、需要者がある形態について美感に差があると感じるか否かという問題(後記5の問題)を含めて「要部」という用語を用いる論者や判決もあり、混乱の原因となっています。これは「要部」という用語をどのように用いるかというだけの問題であるので、本稿では「要部」の語を用いず、前者を「注目される部分」、後者を「注目される形態」と呼びます。
(3) 意匠の対比
対比に当っては、購入者が実際に物品を購入する状態を前提とすべきです。例えば肉眼ではなく拡大レンズで見て購入される物品であれば、拡大レンズで見た常態で対比すべきであり、手に持って眺め回した上で購入する物品と、一定距離から眺めて購入する物品とでは、看者の観察の仕方が違うはずです。
また、類否判断は、両意匠の差異点のみに着目して判断するのではなく、共通点と差異点とを総合評価して判断すべきです。差異点があっても、共通点がそれを圧倒して目立つのであれば、両者は類似すると判断されることになります。
(4) 微差
意匠を対比するに当っては、当該部分が注目される程度に着目し、着目される程度が大きい部分の意匠の相違は大きなウエイトをもって判断され、注目される程度が少ない部分は小さなウエイトをもって判断されます。注目される部分と注目されない部分という二者択一の分類ではなく、当該部分の注目される程度と意匠の差異の程度の相関関係から、その際が全体の美感に与える程度を判断する(例えば、注目度の高い多少意匠に差異があっても評価のウエイトが小さいため微差とされる)裁判例も少なくありません。
(5) 注目される形態
① 看者が美感が類似(混同)すると感じるか否かは、登録意匠とイ号意匠のみを対比して決定すべきものではなく、他の意匠との関係を参酌して決定すべきである。このことは、例えば、日本人としては似ていない二人の人間でも、西洋に行けば東洋人らしい風貌に着目されて似ていると言われるし、サルの集団に入れば人類としての形態に注目されてそっくりに感じられることを考えれば明らかです。したがって、看者に注目される形態が何かということを認定する必要があります。
② 周知意匠の参酌
意匠の構成態様の中で、ごくありふれた態様は、取引者・需要者がしばしば目にするところであるから、注目される形態とはいえない。もっとも、周知の態様であるからといって、当然に注目される形態ではないというものではない。意匠は、各構成態様の有機的な結合として構成されていることが多く、例えば、ABCDの有機的な結合からなる登録意匠について、ABCDの有機的な結合からなる周知衣装が存在したとすれば、登録意匠の注目される形態を、「D」ではなく「ABCDの有機的結合」であると認定すべき場合も多いといえます。一般論としては、非常に斬新で創作性が高いときはDが注目される形態となり、斬新ともいえない場合にはDが単独で注目される程度が低いため、注目される形態はABCDの有機的結合となりやすいでしょう。
③ 公知意匠の参酌
意匠登録は、公知の意匠に類似する意匠には認められないから(意匠3条1項3号)、登録意匠が有効である以上、公知の意匠とは類似しないはずです。したがって、登録意匠の有効性を前提とする侵害訴訟においては、登録意匠の類似範囲の中に公知の意匠が入らないように類似の範囲を認定すべきである、という考え方が通説的見解です。
そうすると、参酌の対象とされる公知意匠に存在しない構成態様が、登録意匠において注目される形態の一つであると認定されることになります。すなわち、ABCDの有機的な結合からなる登録意匠の例でいえば、ABDの有機的結合からなる公知意匠が存在したとすれば、登録意匠の注目される形態がABDであると認定しては公知意匠と類似になってしまうから、Cの構成態様が存在して注目されるからこそ、公知の意匠とは類似しないとして意匠登録された(層でなければ登録されるはずがない)と認定されます。これも周知意匠の場合と同様、公知意匠を登録意匠の注目される形態から当然に除外するという趣旨ではなく、登録意匠の注目される形態を「ABCDの有機的結合」であると認定すべき場合も多くなります。
右の例で、Cが、他の周知・高知意匠に存在していても、ABDとCを有機的に結合することが容易ではないならば、登録意匠の注目される形態がABCDの構成要素をからなると認定してもおかしくはありません。すなわち、意匠は、様々な構成要素を有機的に結合して成り立っているから、ABDとCを有機的に結合させることが容易でなければ意匠登録は認められるからです。
意匠権の効力は、登録意匠に類似する意匠に及びます(意匠23条)。
「登録意匠に類似する意匠」の類似の意味については、混同説と創作説がありますが、判例(最判昭和49年3月19日)は、「意匠法3条1項3号は、意匠権の効力が、登録意匠に類似する意匠すなわち登録にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美観を生ぜしめる意匠にも、及ぶものとされている(意匠法23条)ところから、右のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美徳の類否を問題とする・・・同条1項3号に定める「類似」の意味を創作の容易と同義に解し、同条1項3号は、同条1項と解することは相当ではない。」とし、最判昭和50年2月28日(判タ320号160頁)も、「意匠法3条1項3号の規定は、・・・一般需要者の立場からみた美感の類否が問題となる」として、創作説を否定し、混同説の立場に立つことを明らかにしています。下級審も、ほぼ混同説によっていっています。
2 意匠の類否判断の手法
意匠の類否判断においてよく採られる手法は、①まず両意匠の基本的構成態様、具体的構成態様を認定し、②これを全体的に観察して、物品の性質、用途・使用形態等から、どこが看者が最も注意を引かれる部分かを判断する、③その上で登録意匠とイ号意匠を対比し、注目される部分の意匠において両意匠が構成態様を共通にするなら、両意匠は類似であり、また、④差異があっても、それが微差であったり、⑤それが周知のありふれた態様等であって看者からその部分により美感を異にすると認識されない(注目される形態ではない。)ときは、やはり両意匠は類似すると認める、というものです。
(1) 基本的構成態様、具体的構成態様
基本的構成態様は意匠を大掴みに把握した態様、具体的構成態様拝承を詳しく観察した態様です。これは、基本的構成態様が大きく異なれば、細部について対比するまでもなく意匠は類似しないという結論に至ることが多いため、思考の便宜のためにまず基本的構成態様として大掴みな認定をしようとするものですから、具体的構成態様まで対比した後に、ある態様が基本的構成態様かを議論することは、あまり意味のあることではありません。
(2) 看者が最も注意を引かれる部分の認定
例えば、テレビの裏側などのように、使用の際に目に触れない部分の意匠は需要者の注意を引きません。そして、看者の注意を引かない部分が相違しても、看者は両意匠の相違を認識しないから、注意を引く部分の認定が必要となります(看者の注意を引く部分が一部とは限らず、全体であることもある。)これは、物品の性質、目的、使途、使用態様等を考慮して決定される。これを要部と呼ぶことがあります。
もっとも、需要者がある形態について美感に差があると感じるか否かという問題(後記5の問題)を含めて「要部」という用語を用いる論者や判決もあり、混乱の原因となっています。これは「要部」という用語をどのように用いるかというだけの問題であるので、本稿では「要部」の語を用いず、前者を「注目される部分」、後者を「注目される形態」と呼びます。
(3) 意匠の対比
対比に当っては、購入者が実際に物品を購入する状態を前提とすべきです。例えば肉眼ではなく拡大レンズで見て購入される物品であれば、拡大レンズで見た常態で対比すべきであり、手に持って眺め回した上で購入する物品と、一定距離から眺めて購入する物品とでは、看者の観察の仕方が違うはずです。
また、類否判断は、両意匠の差異点のみに着目して判断するのではなく、共通点と差異点とを総合評価して判断すべきです。差異点があっても、共通点がそれを圧倒して目立つのであれば、両者は類似すると判断されることになります。
(4) 微差
意匠を対比するに当っては、当該部分が注目される程度に着目し、着目される程度が大きい部分の意匠の相違は大きなウエイトをもって判断され、注目される程度が少ない部分は小さなウエイトをもって判断されます。注目される部分と注目されない部分という二者択一の分類ではなく、当該部分の注目される程度と意匠の差異の程度の相関関係から、その際が全体の美感に与える程度を判断する(例えば、注目度の高い多少意匠に差異があっても評価のウエイトが小さいため微差とされる)裁判例も少なくありません。
(5) 注目される形態
① 看者が美感が類似(混同)すると感じるか否かは、登録意匠とイ号意匠のみを対比して決定すべきものではなく、他の意匠との関係を参酌して決定すべきである。このことは、例えば、日本人としては似ていない二人の人間でも、西洋に行けば東洋人らしい風貌に着目されて似ていると言われるし、サルの集団に入れば人類としての形態に注目されてそっくりに感じられることを考えれば明らかです。したがって、看者に注目される形態が何かということを認定する必要があります。
② 周知意匠の参酌
意匠の構成態様の中で、ごくありふれた態様は、取引者・需要者がしばしば目にするところであるから、注目される形態とはいえない。もっとも、周知の態様であるからといって、当然に注目される形態ではないというものではない。意匠は、各構成態様の有機的な結合として構成されていることが多く、例えば、ABCDの有機的な結合からなる登録意匠について、ABCDの有機的な結合からなる周知衣装が存在したとすれば、登録意匠の注目される形態を、「D」ではなく「ABCDの有機的結合」であると認定すべき場合も多いといえます。一般論としては、非常に斬新で創作性が高いときはDが注目される形態となり、斬新ともいえない場合にはDが単独で注目される程度が低いため、注目される形態はABCDの有機的結合となりやすいでしょう。
③ 公知意匠の参酌
意匠登録は、公知の意匠に類似する意匠には認められないから(意匠3条1項3号)、登録意匠が有効である以上、公知の意匠とは類似しないはずです。したがって、登録意匠の有効性を前提とする侵害訴訟においては、登録意匠の類似範囲の中に公知の意匠が入らないように類似の範囲を認定すべきである、という考え方が通説的見解です。
そうすると、参酌の対象とされる公知意匠に存在しない構成態様が、登録意匠において注目される形態の一つであると認定されることになります。すなわち、ABCDの有機的な結合からなる登録意匠の例でいえば、ABDの有機的結合からなる公知意匠が存在したとすれば、登録意匠の注目される形態がABDであると認定しては公知意匠と類似になってしまうから、Cの構成態様が存在して注目されるからこそ、公知の意匠とは類似しないとして意匠登録された(層でなければ登録されるはずがない)と認定されます。これも周知意匠の場合と同様、公知意匠を登録意匠の注目される形態から当然に除外するという趣旨ではなく、登録意匠の注目される形態を「ABCDの有機的結合」であると認定すべき場合も多くなります。
右の例で、Cが、他の周知・高知意匠に存在していても、ABDとCを有機的に結合することが容易ではないならば、登録意匠の注目される形態がABCDの構成要素をからなると認定してもおかしくはありません。すなわち、意匠は、様々な構成要素を有機的に結合して成り立っているから、ABDとCを有機的に結合させることが容易でなければ意匠登録は認められるからです。
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