1 金融機関の救済措置
住宅ローンは、法律上は住宅購入という使い道とは切り離された単なる金銭の貸借にすぎず、建物が全壊してしまったからといって、当然に支払義務が消滅するものではありません。
もっとも、今回の震災の場合には、政府から、各金融機関に対し、一定期間の支払猶予など救済措置を設けることが要請されています。まずは、借入先の金融機関に相談して、救済措置を受けることで返済(と同時に生活の建直し)が可能かどうか検討してみてください。
しかし、地震で失業し、その上ケガをして復職の見込みすら立たない場合には、返済を前提とした金融機関の救済措置を受けることは難しいと考えられます。
このような場合には、破産・免責手続をとって、財産・債務を清算することを考えることも必要になってきます。
2 破産・免責手続
(1) 破産手続
破産手続とは、債務者が支払能力を欠くため、期限が到来している債務を一般的継続的に弁済できなくなった場合(支払不能といいます。(破2○11))に、債務者の財産を金銭化して(ただし、最低限生活に必要な財産は保有することが許されます。)、各債権者にその債権額に応じて配当する裁判上の手続をいいます。
個人債務者の場合は、残債務について、債務者の経済的更生を図るため、支払を免れさせる手続があります。これを免責手続といいます。
(2) 破産手続の流れ
個人債務者の場合、その人の住所などを管轄する地方裁判所に、破産手続開始の申立てをします(破4・5)。
破産手続開始の申立ては所定の事項を記載した申立書と債権者一覧表を提出して行います(破20)。
申立書には、債務者の収入および支出の状況、資産および負債の状況、支払不能に至った経緯などを記載し(破規13)、住民票の写しや資産、負債の状況を明らかにする書類を添付します(破規14③)。
なお、被災により支払不能になった場合には、その状況を明らかにするため罹災証明書があるとよいでしょう。
破産手続開始の申立てがなされ、債務者が支払不能であると認められるときは、裁判所は、破産手続開始の決定をします(破30)。
このとき、本来であれば、破産管財人が選任され(破31①)、債務者の資産と債務の確定、資産の換価、各債権者への配当が行われることになりますが、債務者の資産が少なく、破産手続の費用を賄えないような場合には、破産管財人は選任されず、破産手続開始決定と同時に破産手続は終了します(破216)。ただ、個人債務者で資産が少ない場合でも、事業者や不動産を所有している人の場合には、比較的低額の費用で管財人が選任され、簡易化された手続で換価、配当が行われる少額管財手続がとられる場合があります。
(3) 免責手続
個人債務者については、裁判所の許可により、配当後(または手続廃止後)残った債務の支払を免れさせる免責手続があります。
個人債務者が自ら破産手続開始の申立てをしたときは、同時に免責許可の申立てもしたものとみなされます(破248)。
免責は、債務者の経済的更生のため、債権者の損失の下に支払義務を消滅させる制度ですから、このような免責制度の趣旨にそぐわない人には免責は認められません。
しかし,支払不能に陥った理由がもっぱら地震による被災ということであれば、免責は許可されますし、万一免責不許可事由があっても、裁量免責が受けられる可能性はあるでしょう。
もっとも、免責許可を受けられても、全ての債務の支払義務が免除されるわけではありません。
①税金、②破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権、③破産者が故意・重過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権、④扶養料や婚姻費用分担の請求権、⑤破産者の使用人の給料、⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権、⑦罰金などは免除されません(破253①)。
住宅ローンは非免責債権にあたりませんので、免責許可決定を得られれば、支払を免除されます。
(4) 破産の費用
破産手続開始の申立てには、裁判所に納める費用(手数料)がかかります。
裁判所によって多少変わりますが、同時廃止の場合、予納金と印紙・郵券代合わせて2万円程度で済むのに対し、管財人が選任される場合、少額管財の予納金は20万円程度、通常管財の予納金は最低で50万円程度、債務総額や債権者数が多くなると更に高額になります。
また、破産手続開始の申立てを弁護士に依頼する場合には、上記の裁判所に納める費用の他、弁護士に支払う報酬も必要になります。同時廃止が見込まれる事案であれば20万円程度と思われますが、管財事件になるような事案の場合40万円程度、難度によってはそれ以上になる場合もあると思われます。もっとも、弁護士費用は分割払いにすることも可能です。
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