3 知的財産戦略とは?
3-1 知的財産の活用方法
知的財産戦略とは、知的財産をツールとして活用して経営目的を実現する企業活動をいう。
知的財産の活用は①手段的利用と②目的的利用に分かれる。
①の手段的利用とは、知的財産を事業活動のために利用するものである。これに対し、②の目的的利用とは知的財産をライセン・売却するなどして、知的財産自体から収入を得るものであり、IBM等の米国企業において特許収入が収益の大きな柱となっていることなどから、近時、注目を集めている。
しかし、本稿の文脈においては、①の手段的利用が重要である。前記のとおり、知的財産法は、知的財産について他者の利用・使用を排除する力=独占力を認めており、ある技術・デザイン・マークについて知的財産権を取得すれば、当該技術・デザイン・マークを独占することができるから、ニセモノ被害を防止することができるし、さらに、この独占力が参入障壁となり、長期間に亘って高い利益率を維持することができる。
この点、貴社の海外進出という観点からは、「ニセモノ被害の防止」を目的として知的財産戦略を構築すべきである。
また、知財戦略は法務戦略の一部であり、法務戦略は事業戦略の一部である。知財戦略の構築に際しては、この観点も欠かせない。
3-2 内部体制の確立
知的財産戦略の実行に先立ち、内部体制の確立が必要である。中小企業の場合には、大企業と異なり、多くの部分を社内対応することは現実的ではなく、逆に、大部分は、弁護士・弁理士等の専門家にアウトソーシングすることを前提として内部体制を考えていくべきである。
このような内部体制としては、貴社の社内に、最低1人は担当者を置くべきである。担当者は、最低限の知的財産の知識を持つと同時に、企業の事業戦略を熟知している必要がある。さらに、担当者は、①社内対応可能な事項とアウトソースすべき事項とを切り分ける判断能力と②貴社の事業部門と外部専門家との間の適切な連携を取るコミュニケーション能力が必要となる。
3-3 知的財産戦略のフェーズ
本稿の文脈においては、知的財産戦略のフェーズとして、①出願戦略と②権利行使戦略が重要である。
①の出願戦略については、どの国に、何を、出願するかが重要である。考慮すべきファクターとしては、コストも勿論、出願することのデメリットも忘れてはならない。特に、技術の場合、特許出願すると、登録の是非にかかわらず、内容が公開されるというデメリットがある。従って、あえて、特許出願せず、ノウハウとして秘匿し不正競争防止法等による保護によりリスクヘッジするという戦略もあり得る。
②の権利行使戦略については、進出先の国の実情に応じた戦略を採用する必要がある。例えば、中国においては、長らく、「地方保護主義」という問題が指摘されてきた。「地方保護主義」とは、地方の産業を保護するために、行政による法の公正な執行及び司法による法の公正な適用が期待できないことを意味し、そのため、地方におけるニセモノの製造販売は野放しにされてきた。
しかし、近時はこの点も変化しつつある。例えば、ヤマハは、証拠を固めた上で、ニセモノ企業の製造地域と関係の無い地域の工商行政管理局を動かして販売業者を摘発し、その証拠を加えて地元の裁判所に訴えを提起し、全面勝訴している。
また、「進出先の国の実情」は随時変化するものであるため、アップデートされた情報を入手しておくことが必要である。
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