2-2 知的財産権のメリット
それでは、知的財産権を取得すると、どのようなメリットがあるのか?
知的財産法は、知的財産について他者の利用・使用を排除する力=独占力を認めている。
つまり、ある技術について知的財産権を取得すれば、当該技術を独占することができるから、ニセモノ被害を防止することができる。さらに、この独占力が参入障壁となり、長期間に亘って高い利益率を維持することができるのである。同様のことは、デザイン及びマークについてもいえる。
2-3 知的財産権の取得方法
知的財産権のうち、特許権・実用新案権、意匠権及び商標権は、特許庁に出願し登録することにより権利を取得することができる。
それでは、同一のアイディアについて、異なる会社が出願した場合にはどうなるか。この場合、先に出願した会社が特許権・実用新案権を取得する。これを先願主義という。デザイン・マークについても同様である。この知的財産権の出願手続きを代理する専門家が弁理士である。
2-4 知的財産権は各国で取得すべき
2-4-1 属地主義
さて、これまで日本の知的財産法を前提として知的財産権の取得方法について説明をしてきたが、実は、知的財産権は国毎に取得すべきなのである。例えば、日本において特許権を取得しても、その効力は日本国内における製造・販売等にしか及ばない。これを属地主義という。従って、貴社が海外進出をする場合には、進出先の国において知的財産権を取得していく必要がある。
2-4-2 取得方法
このように、貴社が海外進出をする場合には、進出先の国において知的財産権を取得していく必要があるが、他方、知的財産権については先に出願した者に権利が与えられるという先願主義が採用されている。従って、貴社が進出先の国において知的財産権を取得しようとしても、進出先の国の企業が先に出願しているというケースがあり得る。
例えば、日本の人気漫画「クレヨンしんちゃん」の中国名が中国企業により商標登録されていたため、「クレヨンしんちゃん」の出版社である双葉社による関連グッズの販売が、商標権侵害であるとされて、商品の撤収を余儀なくされたり、在庫品が没収されたというケースがある。また、中国のパッケージ会社が青森産のリンゴを意識して「青森」を商標登録したことも記憶に新しいところである。
さらに、意匠については、海外企業が日本市場の製品のデザインをそのまま模倣して出願して意匠権を取得することが行われているとの指摘がある。意匠権については、国によっては、無審査で登録されるところがあるし(無審査主義)、また、登録拒否事由(新規性・創作非容易性)の有無を審査する国であっても、自国内で使用されていないデザインについては登録拒否をしない(新規性を否定しない)ところもあり、注意が必要である。
これに対し、特許の場合、技術をそのまま模倣すること自体困難を伴うことがあるため、商標・意匠と比較して、自社の技術がそのまま模倣されて出願されるリスクは小さいともいえる。しかし、日本特許については、出願後1年半が経過すると自動的に公開されてしまうため、進出先の企業が日本特許庁の電子図書館(IPDL)を参照して、同一又は類似の技術を出願・登録してしまうという可能性がある。
2-4-3 早期の出願が重要
このように、進出先の国において、技術・デザイン・マークを独占するためには、誰よりも早く進出先の国において出願しておく必要がある。「誰よりも早く」という意味においては、進出を正式に決めてから出願するのでは遅い。進出可能性のある全ての国において、今すぐに知的財産権の出願をすることが理想である。そのために、PCT(特許協力条約)やマドプロ(マドリッドプロトコル)に基づく国際出願が利用されることもある。
また、現状、知的財産制度が完備されていない国やエンフォースメントに問題のある国であっても、将来、特許発明等が事業化される時点においては、現在の中国と同様に、知的財産制度が整備され、また、エンフォースメントが改善される可能性もあるし、貴社が現地企業から知的財産権の侵害を理由に提訴されるリスクもある。
それ故、早期の出願が極めて重要である。
もっとも、コスト等との兼ね合いで、この理想を常に現実化することは難しい。そこで、海外進出の際の知的財戦略が重要となる。
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