知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

海外進出と知財戦略(その4)

2012-03-29 08:23:23 | 知的財産制度

4 誰に何を相談すれば良いか?

4-1 知財戦略は法務戦略の一部

 前記のとおり、知財戦略は法務戦略の一部であり、法務戦略は事業戦略の一部である。貴社の海外進出は、事業戦略に基づくものであり、事業戦略の一部として法務戦略が必須である。海外において事業展開する場合には、文化の共通の基盤がないから、日本におけるように相手方の「信義」に依存することは危険であり、進出先の法律の内容を踏まえて法務戦略を構築し、それに沿って、誰と、いかなる内容の契約を締結するのか等を検討すべきである。契約の類型としては、合弁契約・ライセンス契約等の締結、労働者の雇用、工場敷地の売買契約・賃貸借契約等が考えられる。

 このように、知財戦略が法務戦略の一部である以上、相談相手となるのは弁護士が最適である。また、法務戦略は事業戦略の一部である以上、当該弁護士はビジネスマインドを持つべきである。さらに、出願戦略も絡む以上、当該弁護士は、出願実務の経験があるか又は弁理士と良好な関係を築いていることが必要である。加えて、海外進出という以上、当該弁護士は、英語が堪能で、かつ、外国人を相手方とする案件の経験が豊富でなければならない(このような弁護士を「渉外弁護士」という)。

 

4-2 司令塔としての弁護士

 海外進出の場合、進出先の法制度を理解した上で、知財戦略・法務戦略を構築し、遂行する必要がある。このためには、現地の弁護士・弁理士を最適に管理・活用することが必要である。大企業であれば、現地弁護士等の管理・活用は社内対応できるが、中小企業の場合は不可能である。

 そこで、日本人弁護士を司令塔とすることが最適である。貴社の経営戦略・事業戦略を熟知した日本人の渉外弁護士が貴社の対外的な司令塔となり、貴社の担当者と連携しつつ、様々な専門家を管理・活用して貴社の知財戦略を構築し、遂行することが、中小企業の海外進出に伴う知財戦略の理想型であるといえる。 

5 終わりに

 以上のとおり、中小企業の海外進出に関する知財戦略の構築・遂行に際しては、渉外弁護士を司令塔とすることが必要である。しかし、十分な能力・経験を有する渉外弁護士に対するアクセスが困難との声も耳にする。この点、日本弁護士連合会も対応を急いでいるところである。

 もっとも、インターネット等を活用すれば、十分な能力・経験を有する渉外弁護士に対するアクセスすることは可能であるし、費用についても、一部の例外を除き、リーズナブルな値段で対応してくれるはずである。貴社の懸念は、見積もりを取り、弁護士との間で契約を締結することにより払拭できると思われる。

 本稿が、貴社の海外進出に関する知財戦略の構築・遂行の一助となれば、筆者としては望外の喜びである。

 

以上

 


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