goo blog サービス終了のお知らせ 

知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

職務発明改正法案についてのコメント

2015-03-09 09:22:08 | 職務発明

職務発明改正法案についてのコメント

1 本日の日経によると、「政府は仕事上の発明の特許を「会社のもの」とする特許法改正の最終案を固めた」とのことであり、その内容は、「従業員との合意で社内規則や契約方法を決めたケースに限り「初めから会社に権利が帰属する」と明記する」とのことである。政府の方針が固まったか否かは慎重に検討する必要があるが、日経が記事にした内容についてコメントしておく。

2 「特許を受ける権利」の帰属
まず、「従業員との合意で社内規則や契約方法を決めたケース」とはどのような場合を想定しているのであろうか。善解すれば、職務発明規定(社内規則)又は契約により、職務発明についての特許を受ける権利が「初めから会社に権利が帰属する」と規定することにより、当該権利が初めから会社に帰属することを認めるということだろう。
ここで気になるのは、「従業員との合意」という条件である。契約による場合は、「従業員との合意」が必要なのは自明である。なぜなら、契約=合意だからだ。これに対し、職務発明規定(社内規則)の場合は、現行法では、「従業員との合意」は要求されていないから、この内容は、産業界には予想外のものではないであろうか。
また、厳密に言えば、「契約方法」という文言の意味は不明である。「契約方法」=「合意の方法」を従業員との合意で決めるというのは自己循環的論法に見える。
他方、このような規則又は契約が整備されていない場合には、「従来どおり従業員に特許を取る権利」とのことである。明確ではないが、この場合には、現行法どおりに事前承継の定めは認めるのであろう。

2 インセンティブ制度の確保
日経によると、「法案には発明に関わった従業員には「相当の金銭や経済上の利益を受ける権利」があると明記」した上で、「従業員のやる気を引き出すため、金額などをどう決定するかは「経産相が審議会の意見をきいて、手続きの指針を定める」とのことである。ここで、従業員に権利が付与される根拠が、「従業員のやる気を引き出すため」=インセンティブであることが明記されることは、現行法の解釈上の対立点を立法により解決するものであり、大きな意義があるといえよう。また、従業員が権利として受け取れる客体は、「金銭」に限定されず、「経済上の利益」が含まれることは、インセンティブ制度の多様化の要請に応えるものであり、妥当である。
そして、日経は、「この指針に基づいて会社側は従業員と話し合い、発明に対する報奨や昇進などの規則を決める」と伝える。帰属の問題とは異なり、この点については、「従業員との合意」ではなく、「話し合い」=「協議」が条件とされている。インセンティブ制度の構築・運用が経営事項であることに照らせば、当然の内容であるが、立法として明記されることには一定の意義があると思われる。

3 今後の見通し
日経によると、「政府はこの特許法改正案を今週にも閣議決定し、いまの国会での成立をめざす」とのことである。このスピード感はアベノミクスの特徴の一つであり、グローバル化した経済における立法のありようとして好感が持てる。

4 現行法の問題点
日経は、現行法の問題点として、中村訴訟の例をあげ、「訴訟になっても適正な対価は算出しづらい」ことを指摘し、さらに、「最近の発明は複数の従業員によるチームで達成することが多く、1人だけが特許を取ると不満が残る」ことにも言及しており、改正の必要性を手際よく伝えていると思われる。

以上


コメントを投稿