知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

軸受けユニット審取

2013-03-30 10:25:00 | 最新知財裁判例

1 平成24年(行ケ)第10235号 審決取消請求事件
2 本件は無効審判請求成立審決の取消訴訟です。
3 本件の争点は,請求項1の発明の進歩性(容易想到性)の有無であす。

4-1
本判決は、「相違点2は外輪開口部を閉塞する構成に関するものであるところ,甲第3号証(ドイツ連邦共和国特許出願公開19735978号(DE 19735978A1))の1,2欄(訳文1ないし3頁),図1には,本件発明のエンコーダ(磁気特性又は導電特性が相違する部材が円周方向にわたって交互に現れるように配置し, 全体で円環状ないし円板状を成すようにした部品)に相当するパルス発生器9と水平方向に対向するよう設けられているセンサ4との間に,縁が低く,底面が円板状で,全体がシャーレ皿状のカバーキャップ6を設け,車体方向(図1の右方向)から異物が外輪と内輪の間の空間に進入しないようにする構成が記載されている」と認定した上で、「回転数測定装置付き転がり軸受装置において,内輪と外輪とが成す隙間を非強磁性材料の部材で閉塞し,パルス発生器に外部環境から進入する磁性小片が付着してパルス発生器の誤動作(回転数測定用信号の検出の誤り)を引き起こす問題の解決を図ることは,甲第2号証(特開平10-160744号公報)にも記載されているように,本件出願当時に技術的課題として当業者に認識されていた」と述べ、「甲第4ないし第6号証(ドイツ連邦共和国特許出願公開DE4431746号明細書,実願平5―48365号(実開平7-17671号)のCD-ROM,特開平10-73612号公報)にも照らせば,回転数測定装置付き転がり軸受装置において,内輪と外輪とが成す隙間と連続している外輪開口部を,エンコーダないしパルス発生器とセンサの間に介在するように,非磁性体の材料から成るシャーレ皿状のカバーで閉塞し,上記の周知の技術的課題を解決しようとすることは,本件出願当時に当業者に周知の技術的事項にすぎず,当業者がかかる技術的事項を採用することはごく容易なことであったと認められる」と判断しました。
その上で、本判決は、「甲1発明と甲第3号証記載の発明とは属する技術分野が共通であるし, 内輪と外輪の間の隙間に外部から磁性小片が進入することを防止して,エンコーダないしパルス発生器に磁性小片が付着して誤動作することがないようにする機能であるシール機能を果たす点では,甲1発明のシールリング21も甲第3号証のカバーキャップ6も異なるものではない」と認定し、「当業者であれば,甲1発明に甲第3号証記載の発明を適用し,甲1発明のシールリング21に代えて甲第3号証のカバーキャップ6を採用する動機付けがあり,これにより相違点2を解消することは容易であったということができ同旨の審決の判断(27頁)に誤りはない」と結論づけました。

4-2
本判決は、さらに、「センサをカバーに当接(接触)させず,近接(わずかに離す)させたことによる原告主張の作用効果は,本件明細書に記載がないし,センサとエンコーダないしパルス発生器との間の距離が変わらなければセンサの出力信号の大きさや回転速度の検出精度が向上するとは必ずしもいえない。原告が主張するセンサをカバーに近接させる構成を採用したことによるその余の作用効果も,果たしてかかる作用効果を奏することができるか疑問であるし,あるいは甲第1,第3号証や周知技術から予測し得る程度のものにすぎない」ことから、 「センサの検出部とカバーの他面を当接させたものとするか,近接させたものとするかは,当業者がセンサの感度や検出部近傍のスペース等を考慮して適宜選択すべき設計的事項に過ぎず,『近接』させることによる格別の作用効果は認
められない。」との審決の認定,判断(28頁)に誤りはない」と判断しました。

4-3
本判決は、また、「甲第1号証の前記図1のとおり,甲1発明の転がり軸受ユニットでは,保持ケース29の開口部に内向きのフランジ状取付部が設けられ,外輪14と結合,固定されているが,次に掲げる各甲号証の各図に記載されているとおり,本件出願当時の転がり軸受装置において,外輪の外周面の一部に外向きのフランジ状取付部を設け,外輪の内端部で上記取付部の内端面よりも軸方向内方に突出した部分を懸架装置開口部内径側に挿入することで懸架装置に取り付けることができるようにする構成は,当業者の周知慣用技術にすぎず,当業者において容易に採用可能な設計的事項にすぎないものと認められる」と判断しました。

4-4
本判決は、さらに、原告の「センサとエンコーダないしパルス発生器が設置されている方向や, 駆動輪等の介在によってカバーの設置との両立が困難であること等を問題にして, 当業者が上記周知慣用技術を適用することが困難であるとか,適用する上で阻害事由があるなどと主張するが,上記周知慣用技術は転がり軸受装置の分野の当業者にごく一般的なものであり,当業者の技術常識の程度,設計能力の水準に照らせば, 他の構成要素との位置関係も考慮して適宜工夫し,容易に技術的困難を乗り越えることができる程度の事柄にすぎない」と判断しました。

5 本判決は、周知の技術的課題を認定し、技術分野の同一性及び機能の共通性を指摘した上で、かかる周知の技術的課題に周知技術を適用することは容易であると判断するとともに、周知慣用技術の適用は設計事項である旨判示している点において意義があると思われます。

以上


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