1 平成22年 (行ケ)第10273号審決取消請求事件
2 本件は、拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟です。
3 本件の争点は,本願発明の進歩性の有無です。
4
4-1
本判決は、「引用発明1は,PTPシートの製造に際して,赤外光を照射することにより,アルミニウム製のカバーフィルムの印刷部上にある異物をも判別できることを技術課題の1つとして,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部を設け,赤外光を照射した際の反射光において,印刷部とカバーフィルム自体との明度差を極めて小さくし,さらに,第2の閾値δ2をカバーフィルムの明度より若干低い値に設定するという構成を採用することにより,印刷部の存在の有無に関係なく,印刷部のみが無視されてカバーフィルム上の異物が判定できるという作用効果を達成したものと認められる」と認定した上、審決の「赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである」との説示に対し、「赤外光に対し透過性を有するインクを用いない場合には,印刷部の明度が一定程度低下し,印刷部上に印刷部と同程度の明度を有する異物が存するときには,当該異物が判定できないこととなる(異物の明度が既に判明している場合にはその明度より高く,かつ,印刷部の明度より低く閾値δ2を設定すれば異物が判定できるが,そのような場合が一般的であると解することはできない。)」ことから,「審決の上記説示は,引用発明1の技術課題が解決できない従来技術を示したものにすぎず,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用することについての動機付け等を明らかにするものではない」と判断しました。
4-2
本判決は、さらに、審決の「引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される」との説示は、「「塗料」と「インク」とが厳密に区別されるものではなく,本質的な相違がない旨を述べるだけであり,仮に,「塗料」と「インク」が区別されず,また,引用発明2の塗料がアルミニウム箔の表面の印刷に使用できるとしても,それはただ単に,引用例2がアルミニウム箔に使用できる可能性のあるインクを開示しているにすぎない。引用例2には,当該塗料が赤外光に対する透過性に優れることは記載されておらず,引用発明2の「塗料」を引用発明1の「インク」として使用することが示唆されているということにはならない」と述べた上で、「そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)と判断しました。
4-3
そして、本判決は、被告の「引用例2の段落【0006】の記載を根拠に,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは,インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることであるから,引用発明1のインクとして引用発明2の油性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことである」との主張に対し、「確かに,インクや塗料において,色相,着色力及び分散性に優れているのが一般的に好ましいと解されるところ,それに応じて,色相,着色力,分散性などのいずれかに優れていることをその特性として開示するインクや塗料も,多数存在すると認められるのであり,その中から,上記の一般論のみを根拠として引用発明2を選択することは,当業者が容易に想到できるものではない」と判断しました。
以上
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