知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

抵抗付き温度ヒューズ事件審取

2015-05-16 14:08:10 | 最新知財裁判例

1 事件番号
平成26年(行ケ)第10107号
平成26年12月24日

2 主たる争点
主たる争点は進歩性の有無です。

3 判旨
3-1 相違点2(本件発明1は、「ケースがセラミック基板に対して気密に密着してフラックスを外気環境から保護する」との事項を有
しているのに対して、引用発明は、そのような事項を有していない点)について:
〈1〉甲15には、低融点金属体5を内側封止部8で封止し、さらにその内側封止部8と空隙10をもたせて外側ケース9で覆うと、低融
点金属体5の表面を保護し、低融点金属体5が所定温度に加熱された場合の溶断の確実性を確保することができることの開示があること(
段落【0028】)、〈2〉本件出願当時、可溶合金体及びこれを被覆するフラックスを有する温度ヒューズにおいて、可溶合金体及びフ
ラックスの劣化防止のため、温度ヒューズをケース内に入れてその開口端を封止し、可溶合金体及びフラックスを気密状態で保護すること
は周知であったことからすると、甲2及び甲15に接した当業者においては、引用発明の低融点合金体及びフラックスの劣化を防止すると
ともに、溶断物の流出を防止することにより作動特性を向上させるため、引用発明の低融点金属体に甲15の外部ケースを適用する動機付
けがあるものと認められるから、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。

3-2 相違点3(本件発明2は、「低融点合金体の中間部はセラミック基板上に配置した良熱伝導体で支持させた」のに対して、引用発
明は、そのように構成されていない点)について:
引用発明は、絶縁基板の片面に膜状抵抗体を設け、他面に膜状低融点金属体を設けた基板型の抵抗体付温度ヒューズであるのに対し、甲5
記載の温度ヒューズ付抵抗素子は、絶縁基板上の異なる位置に層状抵抗体と層状低融点金属体とを設けた温度ヒューズ付抵抗素子であり、
両者は、絶縁基板に対する膜状抵抗体(層状抵抗体)と膜状低融点金属体(層状低融点金属体)との配置が異なるが、いずれも抵抗体付温
度ヒューズである点で技術分野が共通し、また、膜状抵抗体の発生熱を膜状低融点金属体に伝達する伝熱経路の熱伝達特性を高め、作動特
性を向上させることを目的とする点で技術課題が共通するものと認められる。
  そうすると、甲2、甲3及び甲5に接した当業者は、引用発明に甲3発明の技術を適用して膜状低融点合金体の「中間部が電極に接続
され」、「発熱抵抗体は中間部の電極を介して通電される」構成とする際に、引用発明の膜状抵抗体の発生熱を膜状低融点金属体に伝達す
る伝熱経路の熱伝達特性を高め、溶断の遅延を回避し、作動特性を向上させるために、甲3に開示された層状低融点金属体4の中間部の直
下に層状熱良伝導体5を設ける技術を適用することの動機付けがあるものと認められるから、相違点3に係る本件発明2の構成(「低融点
合金体の中間部はセラミック基板上に配置した良熱伝導体で支持させた」構成)とすることを容易に想到することができたものと認められ
る。

4 コメント
4-1 主引例適格性について
判旨は明示的に述べていないが、本件発明と引用発明とは、溶断精度を高くする(熱伝達特性の改良)という点において課題の共通性があ
り、引用発明は主引例としての適格性があると解される。この点について、判旨は、相違点3の判断において、「引用発明は、絶縁基板の
片面に膜状抵抗体を設け、他面に膜状低融点金属体を設けた基板型の抵抗体付温度ヒューズであるのに対し、甲5記載の温度ヒューズ付抵
抗素子は、絶縁基板上の異なる位置に層状抵抗体と層状低融点金属体とを設けた温度ヒューズ付抵抗素子であり、両者は、絶縁基板に対す
る膜状抵抗体(層状抵抗体)と膜状低融点金属体(層状低融点金属体)との配置が異なるが、いずれも抵抗体付温度ヒューズである点で技
術分野が共通し、また、膜状抵抗体の発生熱を膜状低融点金属体に伝達する伝熱経路の熱伝達特性を高め、作動特性を向上させることを目
的とする点で技術課題が共通するものと認められる」と述べているが、この点を理由として主引例適格性があると判断することもできたが
、本件においては、この点が争点にならなかったため、主引例適格性の問題を論じていないものと推測される。

4-2 相違点2の克服
副引例たる甲15は、「基板上に低融点金属体を配設後、その低融点金属体よりも低融点又は低軟化点の材料で低融点金属体を封止し、さ
らにその外側を空隙を置いて外部ケースで覆う」(【0008】)ことにより、保護素子の機能を損なうことなく小型化できることを見い
出したものであるから、小型化は、本件発明の課題でもある(【0001】)ことから、本件発明の課題に直面した当業者が、甲2を選択
した上で、なお残る課題を解決するために甲15発明を適用することには動機付けがあるというべきである。

以上

 

 

 

 


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