知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

法曹養成制度

2011-10-04 22:57:16 | 法曹養成制度

1 弁護士人口論

1-1 計画経済的発想からの脱却

現在、司法修習生給付制維持問題と関連して、あるべき弁護士人口数について減員派と増員派との間で議論が戦わされている。

しかし、当職は、そもそも、「あるべき弁護士人口数」を設定すること自体に違和感を覚える。なぜなら、弁護士を職業として捉える限り、「あるべき弁護士人口数」は、他の各種の職業と同様に、供給と需要の関係によって決めるべきと考えるからである。「あるべき弁護士人口数」を国家が設定することは、計画計画の発想であり、それが破綻することは歴史が示すところである。

1-2 質の担保

もっとも、弁護士の職業の性質上、質の担保は不可欠である(詳細は別稿)。そのためには、司法試験を純粋な資格試験とすることが有益である。つまり、現在の司法試験は、各年の目標合格者数を勘案して合格基準を設定しているため、運転免許試験のように一定の基準に到達した者が全て合格するものではない。これは資格試験ではなく選抜試験であり、年によっては、本来合格すべき者が不合格となる悲劇やその逆の悲劇が生まれてしまう。

前記のとおり、「あるべき弁護士人口数」を国が決めるべきではなく、従って、各年の目標合格者数を勘案して合格基準を設定するべきではないから、司法試験は純粋な資格試験となるべきであり、その結果、「能力不足の弁護士の誕生」リスクは、一定程度軽減できる。故に、司法試験を純粋な資格試験とすることが、「質の担保」のために有益なのである。

1-3 激変緩和策

ここで、上記の私見は、あくまでも理想論であり、これを直ちに実行することは思わぬ副作用を生じるリスクがある。故に、私見の実行に至るまでの激変緩和措置の検討が不可欠である(別稿予定)。

2 司法修習生給付制問題

2-1 問題点

現行の制度においては、弁護士資格を得るためには、原則、司法研修所の研修を受け、卒業することが必要である。この司法修習生に対しては、従来、給与が支払われる反面、修習専念義務が課され、アルバイト等は禁止されていた。

しかるに、現在、弁護士人口激増を主原因として法曹人口が増大したため、日本の財政状況悪化ともあいまって、司法修習生に対しては、生活費を貸与する貸与制案が提示されている。

この点、司法修習が、裁判官・検察官を養成するためのものとの建て付けであれば、給付制は、公務員養成のためのものとして正当化できる。しかし、司法修習を経た法曹のうち弁護士になる者(裁判官・検察官にならない者)が含まれるにもかかわらず、修習生に対して給与を支払うことを国民に理解できるように正当化することは容易ではない。

2-2 給与制・貸与制と法曹一元

司法修習生に対して給与を支払うのであれば、それは、司法修習を経た法曹が公益に奉仕することが前提となるべきである。この点、弁護士も司法システムの担い手であるから、公益の奉仕者といえるとの見解もあるが、弁護士が「自由業」として認知されている以上、このロジックで国民の理解を得ることは難しいと思われる。

もっとも、弁護士が裁判官・検察官に任官する制度(以下「弁護士任官制度」)がある以上、全ての弁護士は裁判官・検察官になる可能性を有しているので、修習制に対して給与を支払うべきとの見解もあり得るが、「可能性」である以上、十分な説得力を有するとはいえない。

国民の理解を得るという観点からすれば、給与制ではなく、修習制に対しては給与ではなく金銭を貸与し、裁判官・検察官に任官する者に対しては返済を免除するという仕組みが適切である。そして、弁護士任官制度がある以上、研修所卒業後に弁護士になる者に対しても、直ちに返済を求めるべきではなく、一定期間まで返済を猶予し、任官時点等において返済を免除することが妥当である(以下「修正貸付制度」)。法曹一元制度を導入すれば、この修正貸付制度は説得力を増すであろう。

3 法科大学院問題

3-1 急増する費用

法科大学院は多くの問題を抱えているが、最大の問題は、法科大学院卒が司法試験受検の要件とされているため、法曹となるために必要となる最低限費用が急増した点にある。つまり、従来は、大学までの学費と生活費は最低限必要だったものの、その後の受験生活のために必要な費用は受験生各自がその置かれた状況に応じて選択可能であった。法科大学院制度は、この選択の自由を奪ってしまったのである。

3-2 日本版ロースクール構想

そもそも、法科大学院は、当初は、日本には(司法試験以前の段階において)法曹養成のための専門教育機関がないという問題提起に端を発した日本版ロースクール構想に由来する。日本版ロースクール構想は、法学部の廃止等のドラスティックではあるが、筋の通ったものであった。しかし、結果として創設された制度は、法学部と研修所を存続させたまま、各大学に法科大学院を設置するというものであり、法科大学院の位置づけが曖昧になってしまった。さらに、法科大学院内における選別は機能せず、また、法科大学院の設置基準を緩和させすぎたため、多数の学生を集めながら、司法試験の合格率は当初の目標を大きく下回っている。

このような法科大学院の惨状は予想された失敗ともいえる。なぜなら、法科大学院制度は、日本版ロースクール構想が人間と社会に対する深い透察力を備えた法曹を養成するためのに用意した仕組みを骨抜きにしたものだからだ。

3-3 当面の対応

このように法科大学院制度は失敗した制度であるが、現存する制度を全面的に廃止することは現実的ではなく、当面は小規模の改善策で対応せざるを得ないであろう。以下、改善案を記す。

① 「急増する費用」

これが現状の最大の問題であるが、この点の対応として、まず、飛び級制度の活用、法科大学院入学の要件の緩和等により、法科大学院入学の平均年齢を引き下げることが考えられる。次に、法科大学院生の過半数が弁護士になること、弁護士会が法科大学院制度を含む一連の司法改革に積極的に賛成した経緯等に鑑み、弁護士会が一定の資金負担をすべきである。弁護士会内部の資金調達の問題は各弁護士の良識により適切な解決策が見い出せると信じている。

② 「法科大学院内における選別」

法科大学院内における選別は、現状の日本社会には受け入れ難いようである。そうであるとすれば、法科大学院入学段階において、高校、大学時代の成績等を考慮した選抜を行う他あるまい。

4 終わりに

およそ制度というものは、その国固有の文化に根ざす必要があり、現存する制度と大きく異なる制度を試運転無しに導入することは思わぬ副作用をもたら危険がある。司法改革はその典型である。しかし、そうであるからといって、これを逆方向に改革しようとすることも同様に思わぬ副作用をもたら危険がある。従って、当面は、小規模の改善策を講じつつ、新らしい法曹養成制度については、特区制度の中で試運転をすべきであると思う。

以上


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