知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

グリー侵害

2012-08-25 18:16:29 | 法曹養成制度

平成24年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ネ)第10027号 著作権侵害差止等請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第34012号
口頭弁論終結日 平成24年7月4日
1 本件は,携帯電話用インターネット・ゲームについて、原告が被告行為が著作権を侵害するとともに不正競争防止法2条1項2号に該当する不正競争行為であるなどと主張した事案です。
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2-1 著作権侵害について
本判決は、まず、「著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして, 思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の翻案に当たらない」、「既存の著作物の著作者の意に反して,表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に変更,切除その他の改変を加えて,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは,著作権法20条2項に該当する場合を除き,同一性保持権の侵害に当たるとの一般論を述べた上で、「原告作品と被告作品とは,いずれも携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームであり,両作品の魚の引き寄せ画面は,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点, 水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において,共通する」と認定しつつ、「釣りゲームにおいて,まず,水中のみを描くことや,水中の画像に魚影,釣り糸及び岩陰を描くこと,水中の画像の配色が全体的に青色であることは,前記(2)ウのとおり,他の釣りゲームにも存在するものである上, 実際の水中の影像と比較しても,ありふれた表現といわざるを得ない。次に,水中を真横から水平方向に描き,魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは,原告作品の特徴の1つでもあるが,このような手法で水中の様子を描くこと自体は,アイデアというべきものである。また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。そして,同心円の態様は,いずれも画面のほぼ中央に描かれ,中心からほぼ等間隔の三重の同心円であるという点においては,共通するものの,両者の画面における水中の影像が占める部分が,原告作品では全体の約5分の3にすぎない横長の長方形で,そのために同心円が上下両端にややはみ出して接しており,大きさ等も変化がないのに対し,被告作品においては,水中の影像が画面全体のほぼ全部を占める略正方形で,大きさが変化する同心円が最大になった場合であっても両端に接することはなく,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ, 配色及び中央の円の部分の画像が変化するといった具体的表現において,相違する。しかも,原告作品における同心円の配色が,最も外側のドーナツ形状部分及び中心の円の部分には,水中を表現する青色よりも薄い色を用い,上記ドーナツ形状部分と中心の円部分の間の部分には,背景の水中画面がそのまま表示されているために, 同心円が強調されているものではないのに対し,被告作品においては,放射状に仕切られた11個のパネルの,中心の円を除いた部分に,緑色と紫色が配色され,同心円の存在が強調されている点,同心円のパネルの配色部分の数及び場所も,魚の引き寄せ画面ごとに異なり,同一画面内でも変化する点,また,同心円の中心の円の部分は,コインが回転するような動きをし,緑色無地,銀色の背景に金色の釣り針,鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク,金色の背景に銀色の銛,黒色の背景に赤字の×印の5種類に変化する点等において,相違する。そのため,原告作品及び被告作品ともに,「三重の同心円」が表示されるといっても,具体的表現が異なることから,これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない。さらに,黒色の魚影と釣り糸を表現している点についても,釣り上げに成功するまでの魚の姿を魚影で描き,釣り糸も描いているゲームは,前記(2)ウのとおり,従前から存在していたものであり,ありふれた表現というべきである。しかも,その具体的表現も,原告作品の魚影は魚を側面からみたものであるのに対し,被告作品の魚影は前面からみたものである点等において,異なる」と認定し、「抽象的にいえば,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの,上記共通する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず,また,その具体的表現においても異なるものである。そして,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,同心円が表示された以降の画面をみても,被告作品においては,まず,水中が描かれる部分が,画面下の細い部分を除くほぼ全体を占める略正方形であって横長の長方形である原告作品の水中が描かれた部分とは輪郭が異なり,そのため, 同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また,被告作品においては,同心円が両端に接することはない上,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ,パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化するため,同心円が画面の上下端に接して大きさ等が変わることもない原告作品のものとは異なる。さらに,被告作品において, 引き寄せメーターの位置及び態様,魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係や,中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと,円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され,その後の表示も異なってくるなどの点において,原告作品と相違するものである。その他,後記エ(カ)のとおり,同心円と魚影の位置関係に応じて決定キーを押した際の具体的表現においても相違する。なお,被告作品においては,同心円が表示される前に,水中の画面を魚影が移動する場面が存在する」と判断し、「原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない」と結論づけました。
2-2 周知表示混同惹起行為について
本判決は、次に、ゲームの影像の周知表示性に関し、「ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり,かつ,そのような特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されること等により,当該影像が需要者の間に広く知られているような場合には,当該影像が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得る」と述べつつ、「ゲームの影像は,通常は,需要者が当該ゲームを使用する段階になって初めてこれを目にするものである。本件において,第1審原告が周知商品等表示と主張する原告影像は,原告作品の冒頭に登場する画面ではなく,ゲームの途中で登場する一画面又はそれに類似する画面にすぎないものであり,ゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されるものではない。また, 原告影像に係る画面は,原告作品の公式ガイドブックにおいても,表紙等に表示されておらず,しかも同書はビニールカバーに入った状態で販売されている(乙104,139)」と認定し、また、「第1審原告は、テレビコマーシャル(甲13)において宣伝広告を行ったが, 原告影像は,多くの画面の中の1つとして宣伝されているにすぎず,15秒間のコマーシャルの中の約3秒程度放映されたにすぎない。さらに,第1審原告は,電車内広告(甲12)や新聞・雑誌(甲14)により宣伝広告を行ったが,原告影像は, 複数のゲーム画面の一つとして宣伝に使用されているにすぎないし,影像が不鮮明なものもある。そのため,これらの宣伝広告によって,魚の引き寄せ画面に係る原告影像が,第1審原告を表示するものとして,周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできない。なお,岩手,鹿児島,静岡及び北九州地区では平成21年2月7日からテレビコマーシャルが行われたものの,上記宣伝広告のほとんどが,被告影像1及び2の掲載後,すなわち被告作品が配信された同月25日より後に行われたものである」と述べ、さらに,「第1審原告代表者の紹介記事に付された写真(甲81)によっても,原告影像が周知の商品等表示性を獲得したと認めることはできない」と判断し、「原告影像は,第1審原告を表示するものとして周知の商品等表示性を獲得したと認めるに足りない」と結論づけました。
2-3 不法行為について
本判決は、さらに、「著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。また,不正競争防止法も,事業者間の公正な競争等を確保するため不正競争行為の発生原因,内容,範囲等を定め,周知商品等表示について混同を惹起する行為の限界を明らかにしている。ある行為が著作権侵害や不正競争行為に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利や商品等表示を独占的に利用する権利は,原則として法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,著作権法や不正競争防止法規律の対象とする著作物や周知商品等表示の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当」との一般論を述べた上で、第1審原告の「第1審被告らの行為により,信用毀損が生じた」旨の主張に対し、被告作品及び原告作品のユーザーの一部に,両作品を混同している者が存在することが認められるというにすぎず,第1審原告の主張するように,第1審被告らが被告作品を配信したことで,全国の多数のユーザーが原告作品又は第1審原告と被告作品又は第1審被告ディー・エヌ・エーとが同一であると誤認するなどして,第1審原告の社会的信用と営業上の信頼に深刻な影響が出たということまで認めるに足りる証拠はない」と判断し、「仮に,第1審被告らが,被告作品を製作するに当たって,原告作品を参考にしたとしても,第1審被告らの行為を自由競争の範囲を逸脱し第1審原告の法的に保護された利益を侵害する違法な行為であるということはできないから,民法上の不法行為は成立しないというべきである」と結論づけました。
3 本判決は世間の耳目を集めた事案に関するものですが、その判断自体はオーソドックスな手法によるものであり、妥当と思われます。


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