平成24年7月18日判決言渡
平成23年(行ケ)第10436号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年5月23日
1 本件は,無効審判不成立審決の取消を求める事案です。
2
2-1 本判決は、類否判断に関し、「本件商標は,「クールボス」の片仮名を標準文字で同書,同大,等間隔に書され外観視覚上極めてまとけましまりよく一体に表されているものである。 また,本件商標は,これより生ずると認められる「クールボス」の称呼も冗長でなく無理なく一気一連に称呼し得るものである。そして,「クール」の語は「涼しい,格好いい,素敵な」といった意味を有し,商品についての説明的記述に係るものである。したがって,本件商標は,その構成全体をもって一体不可分の造語として認識し把握されるとみるのが自然であり,その構成文字全体に相応して「クールボス」の称呼を生じさせる。また,「ボス」が通例の認識からすれば「親分」「上司」の意味を持つことからすると,「クールボス」と一体としてみるべき本件商標からは, 「クールなボス」程度の観念を生じさせる」と認定する一方、「引用商標は,単独の「BOSS」の文字よりなるものか,「BOSS」の欧文字を顕著に表わし,その下段に「HUGO BOSS」の欧文字を小さく表わしてなる構成のものであるから,引用商標からは,その構成各文字に相応して「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼を生じ,日本人の通常の感覚からは,「親分」「上司」の観念が生じる」と認定し、さらに、本件商標と引用商標との対比し、「本件商標より生ずる「クールボス」の称呼と引用商標より生ずる「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼とは,「ボス」の部分において共通するものの,構成音数若しくは音構成において著しい差異を有するものであるから,明確に聴別することができる。したがって,本件商標と引用商標とは,称呼上,明らかに区別し得るものである」と判断し、「本件商標と引用商標とは,上記(1),(2)のとおりの構成態様からなるものであるから,外観上,判然と区別し得るものであり,また,観念については「親分」「上司」において共通するものがあるとしても,「クールな」が加わることにより, 本件商標は引用商標と一部異なってくる」と述べ、「本件商標と引用商標とは,称呼,外観の差が大きいので,観念において一部共通するにしても,類似するものということはできない」と判断しました。
2-2
本判決は、さらに、「「BOSS/HUGO BOSS」商標は,フーゴ・ボスAGにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして,本件商標登録出願日及び現在において,海外及び我が国で著名となっているものと認められる」と認定した上,「BOSS」の欧文字は,2段に構成された「BOSS/HUGO BOSS」商標中で上段に顕著に表された部分であり,フーゴ・ボスAGが用いる多数のブランドの大部分で共通する部分であり,「BOSS/HUGO BOSS」商標の要部と認められる。「BOSS」の欧文字からは,「ボス」の称呼を生じ, 「親分」「上司」の観念を生じる」と述べ、さらに、取引の実情に言及し、「被告は本件商標を付した小型ファン付き作業服を販売し,その開始は,本件商標の出願とほぼ同時期である。そのパンフレット(甲98)には,上方に大書された「クールボス」の文字の下方に,大きな文字で「涼しい」「作業服」との記載があり, 「涼しい」の文字と「作業服」の文字は,「涼しい」の文字の下から「作業服」の文字の上にかけて記載された「~」を反転させた形状の曲線によって区分され2行に表記されている。「涼しい」を英語で「クール」と称することは一般的な認識であるから,この記載を見る者は,「クールボス」の文字中の「クール」の部分が「涼しい」に対応し,「ボス」の部分が「作業服」に対応するとの理解に誘導されることになる。「クール」の文字が説明的で出所表示機能を有しないのに対し,「ボス」の文字は,これから生じる「親分」「上司」の観念が作業服とは結び付かず,作業服を「ボス」と呼ぶこともないことからすると,本件商標からは,前記のように紳士服及び紳士用品の商品分野において著名な「BOSS/HUGO BOSS」商標を想起する可能性が高いといえる」と判断し、「「BOSS/HUGO BOS S」商標がフーゴ・ボスAGにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして我が国において著名となっていること,作業服の購入者に男性が多いであろうことからからすると,「クールボス」の商標が付された作業服が販売されれば, その作業服がフーゴ・ボスAG又はこれと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,出所について混同を生じるおそれがあることになる」と結論づけました。
3 本判決は、「クール」の文字が説明的で出所表示機能を有しないのに対し,「ボス」の文字は,これから生じる「親分」「上司」の観念が作業服とは結び付かないことを理由の一つとして、出所識別機能があるとし、混同のおそれが高いと判断した事例として参考になると思われます。
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