僕はいわゆる羽生世代に属する。
羽生さんがスターになってから20年超が立つが、羽生さんの真のすごさを理解できるようになったのはここ数年である。
以前は、藤井さんの方が羽生さんよりも好きだった。理由は、僕が振り飛車党だったからだ。
居飛車穴熊に押されていた振り飛車党に対して、藤井システムという戦法を提示してくれた藤井さんは救世主だったし、その独創性に強くひかれた。
これに対して、羽生さんは、タイトルを取りまくるが、新戦法を編み出すことはなかった。その意味で、独創性に欠けるように思えたし、法律の世界で専門化の必要性が叫ばれる中、自分も専門家の途を模索する過程であったため、オールラウンド・プレイヤーである羽生さんに対しては、複雑な思いがあった。
しかし、ここ数年、一連の羽生本を読んで、考えが変わった。羽生さんは、新戦法を生み出せないのではなく、将棋そのものの本質を見極めるという途(勝ち負けを超えて!)を選んだ結果、次々と現れる新戦法を自家薬籠のものとして、その成果をタイトル戦で試しているらしいことが分かった。
この志の高さには敬服する他ない。
他方、藤井さんは、矢倉も指すようになった。翻ってみれば、藤井システム自体、常に縦からの攻めをにらんでいるから、その発想は矢倉戦法から来ていると思う。つまり、振り飛車に革命をもたらした藤井システムは矢倉から生まれている訳だ。藤井システムの真の独創性は、矢倉の発想を振り飛車に持ち込んだことになると思う。このように考えて、僕も、最近は矢倉を勉強しているし、天敵の居飛車穴熊の本まで買ってしまった(自分の気風からはほど遠い森内本も)。
以上の考察は、最近の僕の仕事に対するスタンスにも影響を与えている。僕は、理系なので、もともと特許弁護士になりたっかたし、現になっている。しかし、最初の事務所が、いわゆる知財専門の事務所ではなく、普通の渉外事務所だったので、通常の企業法務も扱ったし、経済学部出身ということもあり、ファイナンス法(証券化・流動化、信託、金商法)も専門分野の一つとするようになった。
その後は、事務所移籍のたびに、知財に集中する時期、ファイナンス法に集中する時期、があった。スクイーズアウトとTOBに集中した時期もあった。
そして、現在は、岩井克人先生の影響もあり、会社法にも関心を持っている。経済学部出身者の眼から見れば、従来の会社法の実務家の議論は、経済学的視点に欠けているようにみえるし、法と経済学からのアプローチも未だ十分ではなく、他方、理系の視点でみると、膨大な条文数の会社法は、コンピュータのプログラムとの類似性があり、バグ直しの衝動にかられる。これらの意味から会社法にも僕が貢献できる部分もあると考えている。
そして、ファイナンス法や会社法の研究は、知財の研究にも影響を与えている。たとえば、職務発明の対価訴訟に、会社法の経営判断の原則を取り込んだ解釈論・立法論を検討中である。およそ、法律は、どの分野でも共通性があるものだ。将棋と同じである。
僕は羽生さんほどの天才ではないので、藤井さん(もちろん藤井さんほどの天才ではないが、凡ミスをするところは似ている。)のスタンスを目指している。しかし、幸い、法律家の職業寿命は長いので、将来的には、羽生さんの領域を目指したい。志は高く持たねば、人生、つまらない。
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