1 一端末クラウド・サービスの概要
ユーザーは自ら保有するコンテンツをクラウド事業者が運営管理するストレージ・サーバーにアップロードし、保管するとともに、インターネット回線で接続されたPCで自ら使用する。ユーザー以外の者による使用はブロックされる。
2 複製権侵害の有無
2-1 複製の主体
複製とは著作物を有形的に再生するものであるところ、その主体は諸般の事情を考慮した総合判断により認定される。一端末クラウド・サービスにおいては、コンテンツの取得・保存というコンテンツを有形的に再生するための必須の行為は、ユーザーにより行われており、クラウド事業者は、保管場所を提供しているだけである。従って、一端末クラウド・サービスにおける複製の主体はユーザーである。
2-2 私的使用
私的使用目的の複製は著作権侵害とはならない。その趣旨は、私的な使用目的の複製は、発生する複製物の量が限定的であること、複製物を使用する人的範囲が限られていること等に照らして、権利者の正当な利益を害さないと解される一方、複製物の作成を許容することによりユーザーによる著作物の享受を促し、文化の発展に貢献することにあると解される。従って、私的使用に該当するか否かは、使用の目的、方法や態様、使用される著作物の種類や性質、権利者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである(知財高裁平成22年(ネ)10052号美術鑑定書事件判決参照)。
一端末クラウド・サービスにおいては、使用の目的は、ユーザー自身の利便性の確保であり、特に、コンテンツが法律書等の場合には、どこからでもアクセス可能とすることがユーザである法律家に与えるメリットは極めて大きい。さらに、発生する複製物は一つであり、また、ユーザーは、そのコンテンツを保有するための対価を支払っていることが通例であるから、特段の事情がある場合を除き、権利者に不利益を及ぼすものではない。従って、一端末クラウド・サービスにおいては、特段の事情がない限り、複製は私的使用目的(個人的使用)のものであり著作権侵害を構成しないと解する。
2-3 自動複製機器の該当性
サーバーが「自動複製機器」に該当する可能性が指摘されているが、サーバーの主目的はコンテンツの保管であり、複製はそれに付随するものにすぎないから、規範的・総合的に考えれば、サーバーは「自動複製機器」に該当しないと解する。
3-1 問題の所在
送信可能化権及び公衆送信権の主体の判断の前提として、自動公衆送信装置による自動公衆送信の主体を明らかにする必要がある。また、当該送信が「公衆」に対するものであるか否かも問題となる。
3-2 送信の主体
自動公衆送信は、自動公衆送信装置の使用を前提としているから、その主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為(以下「自動送信状態作出行為」)を行う者をいう(最高裁平成21(受)653号まねきTV判決)。一端末クラウド・サービスにおいては、自動送信状態作出行為は、コンテンツを記録・入力する行為がことをいうところ、その主体は諸般の事情を考慮した総合判断により認定される。一端末クラウド・サービスにおいては、コンテンツをサーバーに入力する行為はユーザーにより行われており、クラウド事業者は、保管場所を提供しているだけである。従って、一端末クラウド・サービスにおける送信可能化の主体はユーザーである。
3-3 公衆性
公衆性の有無は、送信可能化の主体と受信者との関係で判断されるところ、送信可能化の主体はユーザーであり、受信者も当該ユーザーであるから、公衆性が否定されることは明らかである。
以上
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