私的複製の抗弁について
1 判断枠組み
1-1 法30条の趣旨
法30条は私的使用のための複製を許容している。その趣旨については、従来は、家庭内その他これに準ずる限られた範囲内における複製は軽微なものであり著作権者の正当な利益に与える影響が小さいことのみに求められていたが、近時は、より積極的に、私的領域における自由の確保又はプライバシ-権の保護(いずれも憲法13条に根拠を有する憲法上の古典的な基本的人権である)等をも根拠とする見解が有力に主張されている。かかる見解を踏まえて本件事業との関連に焦点を当てて考察するに、そもそも、書籍の所有者はその所有権(憲法29条に規定する財産権)に基づき書籍を自由に利用することが認められているものであり、この自由は、複製物を作成する自由を包含するものであるところ、この「複製の自由」は、歴史的に見て著作権の中核である複製権(法21条)と対立するものであるから、一定の調整が必要となるものであって、法30条は、法47条と同様に、その調整規定としての側面も有すると解するのが相当である。
すなわち、法30条の趣旨は、自炊代行との関連に焦点を当てて述べれば、書籍所有者の私的領域における自由の確保、プライバシ-権の保護及び所有物利用の自由と著作権者の複製権との調整を図るものと理解するべきである。
1-2 「使用する者が複製」の解釈
前記のとおり、法30条の趣旨を、書籍所有者の私的領域における自由の確保、プライバシ-権の保護及び所有物利用の自由(以下「ユーザーの自由」ということがある)と著作権者の複製権との調整を図るものと理解した上で、歴史的には、私的領域における自由の確保、プライバシ-権の保護及び所有物利用の自由が古来から存在しており(ジョン・ロック「統治論」、「後成敗式目」など)、著作権は、これらの自由を制約する特権として許容されたものであることを考慮し、また、日本の著作権法においては一般的包括的な権利制限規定はないことに照らせば、「使用する者が複製」という要件は、時代の変化等に応じて柔軟に解釈されるべきものである。、そもそも、「複製」の主体については、規範的に判断するのが一連の最高裁判決であり、「使用する者が複製」という要件における「複製」の主体についても同様に規範的に判断するべきものである。
すなわち、「使用する者が複製」には、使用者自身が物理的に自ら複製する場合だけではなく、「補助者による複製」をも含むべきである。けだし、主体性の判断の際には、物理的な行為を行う者ではなく、「複製」に向けての因果の流れを開始し支配している者が「複製」の「主体」と判断されるべきであるし、「複製の自由」が書籍の所有権に由来するものであることに照らしても、書籍の所有者が複製の主体であるというべきだからである。
そして、各種業務のアウトソース化が拡大した今日においては、「補助者」には、秘書や事務員のように使用者の業務を日常的に補助している者に限定されず、「複製」のみを業務として委託される「業者」も含むというべきである。
1-3 著作者の正当な利益の保護
このように解すると、著作者の正当な利益が害されるとの批判があるだろう。しかし、著作権者の正当な利益は、使用の範囲についての要件である「家庭内・・・」の要件を厳格に解することにより保護することができる。また、そもそも、「業者」が書籍の所有者に対して「複製」を誘引し、特別な機器を用いて業務を遂行している場合には、「業者」が因果の流れを支配しているのであり、「複製」の「主体」であると判断されるし、さらに、「業者」が「複製」した複製物を販売する場合には、「譲渡権」の侵害となるし、そもそも、私的使用以外の目的に基づく「複製」であるから、著作権者の正当な利益は保護されている。
1-4 結論
以上のとおりであるから、一部の自炊代行業者のスキャン行為は法30条により正当化されるが、電子データの販売を目的とする場合等には、法30条により正当化されない。
以上
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