知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

大道芸研究会著作権事件

2013-01-11 14:22:59 | 最新知財裁判例

1 平成22年(ワ)第47569号 著作権侵害差止等請求事件
2 本件は,「大道芸研究会」の元会員である原告が,原告が開設し,管理していた「大道芸研究会」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」)の別紙原告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「本件各画面」と総称し,それぞれを「本件画面1」,「本件画面2」などという)及びそのソースコード(HTML ソースコード)は,原告を著作者とする著作物であり,大道芸研究会の会員である被告が,別紙被告画面目録1ないし7記載の各画面(以下「被告各画面」と総称し,それぞれを「被告画面1」,「被告画面2」などという)を作成し,自己の管理するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」)に掲載した行為は,上記著作物について原告が保有する同一性保持権(著作権法2 0条1項)を侵害する行為に該当し,仮にそうでないとしても,被告の上記掲載に至る一連の行為は原告の法的保護に値する利益を侵害する一般不法行為を構成する旨主張して,被告に対し,損害賠償の支払を求めた事案です。
3 本件の争点は,次のとおりです。
(1) 被告が被告ウェブサイトに被告各画面を掲載した行為についての同一性
保持権侵害の成否(争点1)
ア 本件各画面に係る同一性保持権侵害の成否(争点1-1)
具体的には,本件各画面が著作物に該当するか,被告が被告各画面を作
成し,被告ウェブサイトに掲載した行為が,原告が保有する本件各画面の
同一性保持権を侵害する行為に該当するか。
イ 本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否(争点1-2)
具体的には,本件ソースコードが著作物に該当するか,被告が被告ソー
スコードを作成した行為が,原告が保有する本件ソースコードの同一性保
持権を侵害する行為に該当するか。
(2) 被告が被告ウェブサイトに被告各画面を掲載するに至る一連の行為につ
いての一般不法行為の成否(争点2)
(3) 被告が賠償すべき原告の損害額(争点3)

4 本判決の判断
4-1
4-1-1
本判決は、まず、 争点1-1(本件各画面に係る同一性保持権侵害の成否)について、「a 本件画面1は,別紙原告画面目録1のとおり,画面上中央に「大道芸研究会」と太文字のタイトルを配置し,そのタイトルの下に更新内容の掲載欄を配置し,画面中央やや上に,「都合によりしばらくメールの送受信ができません。お急ぎの方は,下記へご連絡をお願いします。」と記載した文章及び横長の長方形の枠内に大道芸研究会・事務局への連絡先を掲載し,画面下中央部に写真の画像を掲載し,全体の背景に花柄模様の画像を使用したものである。 上記写真の画像は,大道芸研究会の会員のCが撮影した写真を素材
とするものであり(甲9,原告本人),また,前記ア認定のとおり,文字のフォントや背景の画像は,フロントページエクスプレスに添付のもの又は原告以外の第三者が作成したものを素材とするものであるから,これらの素材自体は,原告の著作物であるとはいえない」とし、 原告の「本件画面1の画面構成は,画面上中央に「大道芸研究会」と黒い太文字のタイトルを,タイトルの下に更新内容の掲載欄を,画面中央やや上,赤色の四角い枠内に大道芸研究会・事務局への連絡先を掲載した点,タイトルの背景は桃色で電話とFAX欄の背景は黄色である点,画面下中央部に大きく写真を貼っている点,背景に花柄模様の画像を使用している点において,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり,画面全体として創作性がある」旨の主張に対し、「著作権法が保護の対象とする「著作物」は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい, アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものには,同法による保護は及ばない」との一般論を述べた上で、「団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,①団体名を画面の上に太文字で配置すること,②各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,③各記載内容にタイトルを設けること,④タイトルを枠や図形の中に配置すること,⑤画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,⑥写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,⑦写真に近接して写真の説明等を配置すること,⑧画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,⑨図柄の背景や単色の背景を使用すること,⑩文字・枠・背景に各種の色や柄を用いることは, いずれも一般的に行われていることであり(乙11ないし15,弁論の全趣旨),ありふれた表現であるといえる」と述べ、「原告が本件画面1に表現上の創作性があることの根拠として挙げる上記諸点は,上記①,⑤,⑥,⑨及び⑩のとおり,団体のウェブサイトのウェブページの画面構成としては,一般的なものであって,ありふれたものであり,表現上の創作性があるものと認め
ることはできない」などと判断し、「本件各画面には,原告主張の表現上の創作性が認められないから,本件各画面が全体として著作物に該当するとの原告の主張は,理由がない」と結論づけました。

4-1-2
本判決は、次に、争点1-2(本件ソースコードに係る同一性保持権侵害の成否)について、「プログラムを著作権法上の著作物として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要である」との一般論を述べた上で、「本件ソースコードは,原告がフロントページエクスプレスを使用して本件各画面を作成するに伴ってそのソフトウェアの機能により自動的に生成されたHTMLソースコードであって,原告自らが本件ソースコードそれ自体を記述したものではないこと(原告本人,弁論の全趣旨)からすると,本件ソースコードの具体的記述に原告の思想又は感情が創作的に表現され,その個性が表れているものとは認められない」と判断し、「本件ソースコードは原告の著作物に該当するものと認められない」と結論づけました。

4-2
次に、本判決は、「本件ウェブサイトのウェブページから,本件各画面の画像データ及び本件ソースコードをそのままダウンロードして自己のパソコンに取り込んで,これらをアップロードして,被告ウェブサイトを開設し,その後,本件各画面及び本件ソースコードを利用して被告各画面を作成し,被告ウェブサイトに掲載したこと」を認定した上で、「著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決民集65巻9号3275頁参照)と判断し、「原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は,著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならないから,原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても,被告の上記一連の行為は,原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないというべきである」と結論づけました。

以上

 


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