1平成24年(行ケ)第10101号 審決取消請求事件
2 本件は、特許無効審判請求不成立本件審決の取消しを求める事案です。
3 主たる争点は容易想到性の有無です。
4
4-1 本判決は、「引用発明及び本件発明は,いずれも石灰等を使用した建築物等の被覆材料に関するものである点で技術分野を同一にしている」としつつ、「引用発明は,前記2(2)に説示のとおり,セメント又は石灰結合性建築物被覆材料の疎水性を向上させるために従前行われていた添加剤は大量の添加ができず,また,添加によって建築物被覆材料の加工性が極めて悪くなるという課題を解決するものであり,前記2(1)ウに記載のとおり,施工現場で加工することが想定されているものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり, 漆喰の施工時に現場で漆喰を調整することにより一定した品質のものが得られず, また,着色漆喰塗膜に色むらが生じるという課題を解決するものであって,引用発明と本件発明とでは,解決すべき課題を大きく異にしているといえる」ことに加え、「引用発明は,前記2(1)ウ及び(2)に説示のとおり,石灰及び水等に加えて,「場合により多くの他の添加物質からなる」建築物被覆材料を混合する方法であって,引用例1に当該他の添加物質として列記されている顔料(酸化チタン等), プラスチック及び着色料等は,いずれもあくまでも石灰及び水等に対して「場合により」添加されるというものであるにすぎない」ことから、「引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載がなく,この点を示唆する記載も見当たらないというほかない」と判断し、さらに、「引用例1の実施例〔例1〕は,前記2(1)カに記載のとおり,石灰及び水等のほかに,白色顔料(二酸化チタン金紅石)及び結合剤(再分散可能なポリビニルアセテート-コポリマー粉末をベースとするエチレンビニルアセテート)等を含有するが,着色料(着色顔料)を含有していないものであって,本件発明1の方法から着色顔料を除いた全ての物質を配合する方法であるといえる」としつつ、「上記のとおり,引用例1には,石灰及び水等に加えて,白色顔料,プラスチック及び着色顔料の全てを組み合わせて混合する方法については記載も示唆もないから,上記実施例〔例1〕は,石灰及び水等に対して,上記の各物質が添加物質として選択された結果が記載されているにとどまり,当該実施例〔例1〕の記載があるからといって,それに加えて,更に着色顔料を添加することについての示唆があるものとはいえない」と判断しました。
4-2
また、本判決は、引用例2その他の文献の記載から,「白色顔料である酸化チタンに着色顔料を含有させることで着色塗料を製造することは,本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認められる」と述べ、さらに、「漆喰に着色顔料を配合することで着色をすることも, 本件優先権主張日当時,当業者に周知の技術であったものと認められる」と認定しつつも、「引用例1には,前記ウに説示のとおり,石灰及び水等に加えて白色顔料及び着色顔料等の全てを組み合わせて混合する方法についての記載も示唆もないから,引用発明にこれらの各周知技術を適用する動機付けが見当たらないばかりか,上記の各周知技術は,それぞれ,塗料又は漆喰の調色のために白色顔料を配合し又は漆喰に着色顔料を配合するというものであって,このようにして着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではない」と判断しました。
4-3
さらに、本判決は、 「引用発明は,前記イに説示のとおり,施工現場で実施することが想定されているものであって,建築物被覆材料が良好な加工性性質及び撥水性性質を備えるという作用効果を有するものであるのに対し,本件発明は,前記1(2)に説示のとおり,漆喰組成物を均一かつ安定に着色し,塗膜を形成した際に,色飛び又は色飛びによる白色化や色むらが有意に抑制され(着色漆喰塗膜の色飛び抑制),重ね塗りをした場合にも色差のほとんどない着色漆喰塗膜が形成できるという作用効果を有するものであるから,本件発明の作用効果は,引用発明の作用効果とは異質のものであって,引用発明から当業者が直ちに予測可能なものとはいえない」と判断しました。
4-4
以上を踏まえ、本判決は、「引用発明と本件発明1とは,技術分野を同じくするものの,解決すべき課題を大きく異にしており,引用例1には,石灰及び水等に加えて,本件発明1の本件相違点に係る構成の全てを組み合わせて混合するという方法については記載も示唆もなく,引用発明に対して,塗料又は漆喰の調色のために白色顔料を配合し又は漆喰に着色顔料を配合するという本件優先権主張日当時の各周知技術を適用する動機付けが見当たらず,また,当該各周知技術により着色された塗料又は漆喰に対して,当該各周知技術を相互に組み合わせることで,更に石灰(漆喰)又は白色顔料を配合し,引用発明と相俟って本件発明1の本件相違点に係る構成とすることについての示唆又は動機付けを有するものではないばかりか,本件発明1の作用効果は,引用発明から当業者が直ちに予測可能なものとはいえない」と結論づけました。
5 本件は、 原告主張の周知技術の存在を認定しながらも動機付けを否定した点に加え、作用効果の予測不可能性をも根拠として容易想到性を否定した事例として参考になるものと思われます。
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