標記決定の骨子は以下のとおり。
① 「公正な価格」の決定は裁判所の裁量。
② 吸収合併消滅会社の株主に対する株式買取請求権の趣旨
吸収合併消滅会社の株主は、吸収合併によりその所有する株式を取得される立場にあり、吸収合併自体により同社の企業価値が毀損されたり、又は、吸収合併の条件が同社の株主にとって不利であるために、株主価値が毀損されたり、合併から生じるシナジーが適正に分配されないこともあり得ることから、株式買取請求権を付与することにより、株主の保護を図ることとした。したがって、吸収合併消滅会社の株主による株式買取請求に係る「公正な価格」は、上記の趣旨に沿って、事案に応じて、吸収合併がなければ同社株式が有すべき客観的価値、又は、吸収合併によるシナジーを適切に反映した同社株式の客観的価値に基づいて算定する。
③ 清算会社を吸収合併消滅会社とする場合の同社株主による株式買取請求権における「公正な価格」
清算会社は、一般には企業活動を継続することは予定されておらず、清算の目的の範囲内において、清算結了までなお存続するものとみなされ(会社法476条)、会社の現務を結了し、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の分配等をすることが予定されている(同法481条)。したがって、清算会社を吸収合併消滅会社とする吸収合併において、同社の株主が株式買取請求権を行使した場合、当該株式の「公正な価格」は、特段の事情がない限り、吸収合併の効力が確定的に生じる吸収合併の効力発生日における清算会社の客観的価値、すなわち、吸収合併がなければ有すべき清算価値、又は、吸収合併を前提とした清算価値に基づいて算定するのが相当である。
④ ACEコンサルティングは、本件合併の効力発生日である平成20年11月11日における本件株式の1株当たりの純資産額は110.22円となったこと、旧カネボウ社の清算人会は、合併交付金について、ACEコンサルティングの算定結果を踏まえた上で、本件営業譲渡に反対した株主に対する株式買取価格が別件株価決定事件第1審決定より低額となる可能性や、本件合併を行わず清算事業を継続することを前提として複数のケースを想定して試算をして検討した結果、本件合併の合併交付金の金額を1株当たり130円とするのが妥当であると判断した。
申立人らにおいても、旧カネボウ社の客観的価値(清算価値)に基づいて「公正な価格」を算定すること自体には反対し、ACEコンサルティングの上記算定結果は、本件株式の価格決定の証拠資料とする価値がない旨を主張するものの、旧カネボウ社の客観的価値(清算価値)に基づいて1株当たりの株式の価格を算定した場合に、1株当たり130円と算定されることについて、具体的な根拠を示した反論をしていない上、その検討の過程で明らかな誤りや不合理な点があるとは窺えないことに加え、本件合併において、その効力発生日に至るまで適法な申立人らと同じ立場にあった旧カネボウ社の多数の一般株主に対して同社の1株当たりの価値に相当する合併交付金として1株当たり130円が支払われていることなどに照らすと、旧カネボウ社の客観的価値(清算価値)に基づく「公正な価格」としては、上記合併交付金と同額である1株当たり130円とするのが相当であると判断できる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます