連結具特許侵害
平成23年(ワ)第4131号 特許権侵害差止等請求事件
請求棄却
本件は差止めと損害賠償を求めるものです。
主たる争点は構成要件Eの解釈です。
1 文言侵害
1ー1 構成要件Eの解釈
1-1-1 本件特許に係る特許請求の範囲の記載に基づく解釈について
(1)本判決は、まず,「構成要件Eは,「前記長手側方の他方側であって下側連結突起の係止板との接合部には,上段コンテナと下段コンテナの連結動作中に細長孔の構成壁に当接して前記ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内するように傾斜した導入面取り部が設けられており,」と記載されており,その記載からすると,上記構成要件Eの「導入面取り部」は,①「前記長手側方の他方側であって下側連結突起の係止板との接合部」に設けられるものであること,②「上段コンテナと下段コンテナの連結動作中に細長孔の構成壁に当接して前記ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内するように傾斜した」ものであることが認められる」と認定しました。
(2)そして、本判決は、②の「上段コンテナと下段コンテナの連結動作中に」の意義について、「構成要件A(「上下に載置した2つのコンテナをそれぞれのコーナーフィッティングにおいて連結するための4個一組で使用される連結片であって,」),構成要件C(「係止板と,前記係止板から延設して上段コンテナの下側コーナーフィッティングの細長孔に挿入される上側連結突起と,下段コンテナの上側コーナーフィッティングの細長孔に挿入される下側連結突起とを具備し」),構成要件G(「上側連結突起を上段コンテナの下側コーナーフィッティングにおける4つ全ての細長孔にそれぞれ挿入する際,前記ロック用留め具が,上段コンテナの前面のコーナーフィッティングと後面のコーナーフィッティングとで,それぞれ反対方向を向くように挿入し,」)の各記載によると,「上段コンテナと下段コンテナの連結動作中に」とは,「上段コンテナの4つの下側コーナーフィッティングの細長孔に連結片の上側連結突起を挿入した状態で,連結片の下側連結突起を下段コンテナの4つの上側コーナーフィッティングの細長孔に挿入し,上下のコンテナを連結させる一連の動きが現在行われている間に」という趣旨と解される」と判断しました。
(3)本判決は、さらに、「細長孔の構成壁に当接して前記ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内するように傾斜した」の意義について、「 「構成要件Eの「導入面取り部」は,単に「傾斜した」構成のものでは足りず,少なくとも「ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内する」ことを要件とするものである。一般に,「ロック(lock)」とは「動かなくする,固定する,係止する」ことを意味するところ,構成要件Dの「下側連結突起の側面には,下段コンテナの上側コーナーフィッティングの細長孔内部でのロックのためのロック用留め具が当該細長孔の長手側方の一方側に突出するように設けられると共に,」という記載によると,「ロック用留め具」は,下側連結突起の側面に,下段コンテナの上側コーナーフィッティングに設けれた細長孔内部の長手側方の一方側に突出するように設けられるものであることが認められ,その構成によれば,下側連結突起と下段コンテナの上側コーナーフィッティング,すなわち上下のコンテナは,下側連結突起の突出部分(ロック用留め具)と細長孔内部の長手側方の一方側とで係止することによりロックされる構成であることが認められる。 そうすると,「ロック位置」とは,ロック用留め具がその効果を生じる位置,すなわちロック用留め具が細長孔内部の長手側方の一方側と係止する場所(位置)から最終的に上下のコンテナが載置された時点におけるロック用留め具の場所(位置)までをいうと解される。これらのことからすると,「前記ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内するように傾斜した」とは,「下段コンテナの上側コーナーフィッティングに設けられた細長孔内部の長手側方の一方側に突出するように,連結片の下側連結突起の側面に設けられた突出部(ロック用留め具)を,細長孔内部の長手側方の一方側と係止する場所(位置)まで導くように傾斜した」ことをいうものと解される」と判断しました。
1-1-2 本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載について
本判決は、本件明細書の記載を引用した上で、構成要件Eの「導入面取り部」による作用について、「 構成要件Hには「上段のコンテナは,鉛直軸に対して回転することによって,下段のコンテナとの連結または分離がなされることを特徴とする連結片。」と記載されており,この文言上は,連結又は分離のいずれかが上段コンテナを鉛直軸に対して回転させることによって行われればよいとも解しうる。 しかしながら,前記ア(ウ)のとおり,本件特許発明1において,上段コンテナと下段コンテナは,下側連結突起の突出部分(ロック用留め具)と細長孔内部の長手側方の一方側とが係止することにより連結されるものである。そして,本件特許発明1において,ロック用留め具を細長孔内部の長手側方の一方側と係止させる(上段コンテナを下段コンテナに連結する) 手段としては,導入面取り部によってロック用留め具をロック位置へと案内することにより,上段コンテナを鉛直軸に対して回転させる以外にない。換言すれば,本件特許発明1は,上段コンテナを鉛直軸に対して回転させるのでない限り,上下のコンテナを連結させることができず,作用効果を奏しえないものである」と認定し、したがって,「本件特許発明1においては,導入面取り部によってロック用留め具がロック位置まで案内され,「上段のコンテナは,鉛直軸に対して回転することによって,下段のコンテナとの連結」されるものと解するほかない。 そうすると,構成要件Eの「導入面取り部」は,「前記ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内する」ことにより,上段コンテナを鉛直軸に対して回転させ,下段コンテナと連結させる作用を奏するものであることが認められる」と判断しました。1-1ー3 本件特許の出願経過について
本判決は、出願経過における陳述等を認定した上で、「構成要件Eの「導入面取り部」は,他の構成要件と有機的に関連して,全自動デバイスとして使うことができるという本件特許発明1特有の作用効果を奏させる構成であること,より具体的には,「ロック用留め具を細長孔内部のロック位置へと案内する」という機能を有することが必須であり,単に,上側コンテナの下降時に, 上下のコンテナ間で左右方向に多少のずれがある場合でも,テーパにより係合孔の周縁部で案内されつつ下降するため,左右方向のずれが修正され,下部突部を係合孔内に確実に挿入することができるというためだけの構成のテーパ(乙4公報に係る発明)は,除外されることが認められる」と判断しました。
1-1-4 小括
本判決は、以上の点を考慮し、構成要件Eの「導入面取り部」は,「上段コンテナの4つの下側コーナーフィッティングの細長孔に連結片の上側連結突起を挿入した状態で,連結片の下側連結突起を下段コンテナの4つの上側コーナーフィッティングの細長孔に挿入し,上段コンテナと下段コンテナとを連結させる一連の動きが現在行われている間に」,「細長孔を構成する壁に当たっていて接している状態で」,「下段コンテナの上側コーナーフィッティングに設けられた細長孔内部の長手側方の一方側に突出するように,連結具の下側連結突起の側面に設けられた突出部(ロック用留め具)を,細長孔内部の長手側方の一方側と係止する場所(位置)まで導くように傾斜した」構成のものである。より具体的には,前記イのとおり,「連結片をロック用留め具が向いている方向に押して,ロック用留め具を下段コンテナのコーナーフィッティング内に係合させるもの」である」と認定し、「構成要件E(本件特許発明1)は,上段コンテナを鉛直軸に対して回転させ,下段コンテナと連結する作用を奏するための構成であるが,この構成を備えることによる作用効果は,汚れによるトラブルのない全自動デバイスにより,コンテナの連結と分離ができ(下段コンテナに対し,上段コンテナを垂直に上下させることにより,鉛直軸に対して回転させながら,連結と分離ができる。),かつ,4つの連結片がコンテナの前方と後方とで逆向きに設置される結果,航海中の船の揺動に対して,安全なロック状態を保つことができるというものである。 さらに,前記エのとおり,「上側コンテナの下降時に,上下のコンテナ間で左右方向に多少のずれがある場合でも,テーパにより係合孔の周縁部で案内されつつ下降するため,左右方向のずれが修正され,下部突部を係合孔内に確実に挿入することができるという構成のテーパ」は,除外される」と判断しました。
1-2 被告製品の構成
本判決は、この点に関し、被告製品を用いた上下のコンテナの連結動作について,以下のようなものである認定しました。
(ア) 動作1
以下の図のとおり,上段コンテナのコーナー金具に装着された被告製品の下部突部が下段コンテナのコーナー金具の溝穴に挿入される。
(イ) 動作2
上段コンテナを下降させていくと,以下の図のとおり,可動突部が下段コンテナの溝穴の構成壁に当接することにより上方に回動してへこむ。
(ウ) 動作3
上段コンテナをさらに下降させると,以下の図のとおり,可動突部が下段コンテナのコーナー金具の溝穴を通過し終えた時点で,溝穴の構成壁との当接(接触状態)が解除され,バネの付勢力によって下側コンテナのコーナー金具の細長孔の内部で突出する状態(ロック位置に至る状態)となる。なお,この時点では,下部突部傾斜面は,溝穴の構成壁とは当接していない。
(エ) 動作4
その後,以下の図のとおり,下部突部傾斜面が溝穴の構成壁と当接して位置決めされた状態で,上段コンテナは下段コンテナに載置され,連結される。
そして、本判決は、「被告製品の下部突部は,可動突部と反対側(図面左側) の面が,先端から円弧を描くように傾斜しているため,下段コンテナのコーナー金具の溝穴に挿入される際に,上記可動突部と反対側(図面左側)の面に溝穴の壁が当接した場合は,必ず,上記斜面によって可動突部の方向(右側)に移動させられた後,上段コンテナが下段コンテナに向かって下降し(上記斜面に溝穴が当接しなかった場合は,下部突部はそのまま下降する。いずれの場合でも,下部突部の最大幅は,コーナー金具の溝穴より大きいため,可動突部は溝穴の壁に当接した後,へこむ。),下部突部傾斜面が溝穴の構成壁と当接する前の時点において,可動突部が元に戻り, 細長孔の構成壁と係合する状態,すなわち構成要件Eの「ロック位置」に位置する。
1-3 構成要件Eの充足性について
そして,本判決は、「被告製品の可動突部は,下部突部傾斜面によってロック位
置へと案内されるものではな」く、かつ、「被告製品は,上段コンテナを下段コンテナに対して単に下降させることにより連結がされるものであり,上段コンテナを鉛直軸に対して旋回させることにより連結がされるものではない」ことを理由として、「本件特許発明1とは,この作用効果の点においても相違するというべきである」として、 構成要件Eの充足性を否定しました。
2 均等侵害について
本判決は、本件明細書の記載等を検討の上、「構成要件Eは,特許請求の範囲に記載された本件特許発明1の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であり,特許発明の本質的部分に当たる。このことは,前記1(1) エ(イ)のとおり,原告が,本件特許の出願手続において,「本件発明では構成要件AないしDが有機的に結合することにより,荷役者を介することなくコンテナの連結および分離ができ,全自動デバイスとして使うことができるという引用文献にはない顕著な効果を奏する」旨の意見書を提出していることからも明らかである」と判断して、均等侵害の成立も否定しました。
3 本判決は、丁寧なクレーム解釈を展開しており、特定侵害訴訟代理業務受験者の参考にもあると思われます。
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