フルオロエラストマー審取
平成23年(行ケ)第10053号 審決取消請求事件
本件は拒絶査定不服審判に対して取消を求めるものです。
争点は新規性の有無です。
裁判所の判断は14ページ以下。
本判決は、まず、原告の「本願発明のフルオロエラストマーは刊行物1発明におけるような従来の懸濁重合法とは異なる特定の方法で初めて得られるものであって,重合方法の相違も本願発明と刊行物1発明の相違点となるべきである」との主張に対し、「本願発明の特許請求の範囲には,水性エマルション(エマルジョン)中で重合する旨が記載されている」ことを認めつつ、「VDF系フッ素樹脂をラジカル重合の方法で製造する場合においては,水に難溶性又は不溶性のモノマーを乳化剤でミセル状にしてから重合させる乳化重合法(乳化剤と同様の作用を有する重合開始剤を用いることもある。)も,モノマーを水中で強くかき混ぜて懸濁(分散)させ,モノマーに可溶の重合開始剤を加えて重合させる懸濁重合法(水に可溶の分散剤を用いることが多い。)も,ともに当業者が採用する周知の方法であるということができる。また,乳化重合法も懸濁重合法も,重合開始剤の分解に基づいて目的となるラジカル重合反応を生じさせる点には変わりがなく,ポリマーの生成過程も同一の過程が想定され,乳化重合方法と懸濁重合法のいずれを採用するかによ
って異なる化学構造のポリマーが生成することは想定されていない」ところ、「一般的には,両重合方法は得ようとするポリマーの分子量,反応のさせやすさ,反応時の安全性や生成するポリマーの純度等を勘案して適宜選択されるものにすぎないものである。そして,後記2のとおり,VDF(CH2CF2)をその化学構造のうちに含む刊行物1発明のフルオロエラストマーと本願発明のフルオロエラストマーとでその化学構造に違いがあるとはいえないから,両者の重合方法の相違が本願発明と刊行物1発明の相違点になるものではない。したがって,本願発明と刊行物1発明の相違点の認定に誤りはない。」と判断しました。
本判決は、さらに、相違点1に関し、「刊行物1発明のフルオロエラストマーは,アルキルカーボネート基(ROCOO-)を極性のある末端基とするものが想定されており,少なくとも刊行物1ではカルボキシレート基(-COO-),スルフォネート基(-OSO3-), アルコール基(-CH2OH),アシルフルオライド基(-COF),アミド基(- CONH2)のいずれをもその極性のある末端基に含まないフルオロエラストマーの構成が開示されているということができる。」と述べて、「相違点1は実質的なものではない」と判断しました。
近時の知財高裁のPBPクレームに関する大合議判決を参照すると、本願発明において、重合方法がクレームに記載されている以上、本願発明と刊行物1発明との重合方法の相違は、「相違点」として認定した上で、進歩性の問題として議論すべきであったと思われます。
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