1 本書の構成
本書の構成を僕の理解した限りで大まかに述べると以下のとおりである。
まず、第1章において、コーポレート・ガバナンスを経営者の規律のメカニズムとして位置づけ、そのメカニズムとして、「経営者の交代」と金銭的インセンティブとしての「報酬」があることを指摘する。
次に、第2章及び第3章において、「経営者の交代」と「報酬」に関して、実証データに基づく分析と検討が加えられる。
この検討を受けて、第4章において、取締役会改革を進めるべきとの提言がなされ、最終章において、会社が誰のものかについて論じられている。
以下、この構成に沿って、本署を読んで僕が考えたことを記していこう。
2 経営者の規律のメカニズム
2-1 経営者の規律のメカニズムの必要性の根拠
まず、経営者の規律のメカニズムの必要性の根拠として、経営者と株主との間に利害対立があることが指摘される。
利害対立の内容は多様であるが、目を引く点は、株主がハイリスク・ハイリターン志向であるのに対し、経営者がリスク回避志向であることを、利害対立の内実であると指摘している点である。サブ・プライムローン問題や粉飾決算の事例を見ていると、経営者がリスクを取りすぎた点が問題であると思えてくるが、これらは特殊ケースと理解すべきものであって、一般的には、経営者がリスクを回避しすぎることが利害対立の内実であるとの本書の指摘は、経営判断の原則に関連して落合先生が指摘する点とも通じるものであり(「会社法要説」91ページ以下)、正当と思われる。
2-2 交代と報酬による規律づけ
規律づけのメカニズムとして、「経営者の交代」と金銭的インセンティブとしての「報酬」があることが指摘されている(55ページ)。これ自体には異論は少ないであろう。
問題は、誰がどのようにこのメカニズムを動かすのか、である。
この点、会社法の制度上は、株主による監視及び監査役・会計監査人による監視が、このメカニズムを動かす動因として埋め込まれている。しかし、現実を見ると、株主による監視については、「一般株主の無関心」という現象があるため、また、監査役・会計監査人による監視については、その人事権・報酬決定権が、事実上、経営者に握られている等の理由から、期待することができないのが通例である。なお、監査役・会計監査人による監視については、法制度上も、経営者の選任・解任権及び報酬決定権がないという制約がある。
本書は、解決策を提示する前に、続く2章において、交代と報酬による規律づけについてより詳細に検討しているので、この点を見ていくことにしよう。
3 経営者の交代による規律づけ
経営者の交代による規律づけについては、実証データによると、日本では基本的に機能していない一方、交代による業績向上という傾向を見ることができる(112ページ)。つまり、経営者の交代による規律づけが十分に機能すれば、業績向上に資するといえるが、日本ではこれが十分に機能しているとはいえないので、「業績の悪い経営者を解任する仕組み」を新たに導入する必要性が示唆される。
4 報酬による規律づけ
報酬による規律づけについては、「経営者報酬と業績を連動させる」ことがシンプルな回答であるが、これを現実に適用する際には、工夫を要する(180ページ以下)。
まず、報酬を単純に株価に連動させる場合には、経営者には単年度の業績のみを向上させるインセンティブを与えてしまうという危険性があるから(この実行はリストラ、投資の抑制により可能)、長期的な業績指標を用いることが必要との指摘がなされている。また、業績に与える経営者以外の要因を排除するため、相対業績評価が必要との指摘もなされている。また、ストックオプションの弊害についての指摘も参考になる(183ページ)。
なお、本書は、サブ・プライムローン問題を意識しつつ、銀行経営の特殊性についても目配りしている。銀行に関しては、多数の少額預金者がリスク回避志向であることと規制産業であること等を理由として、「業績と報酬の関係を強くしすぎることには問題がある」とする(185ページ)
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