入院数日後個室に移ったので入院費用が気になってきた。現役の時だったら収入はあるし又保険は十分掛けていたので全く問題にしなかったはずである。
但し65歳の退職直後の入院だったので退職前後に健保組合と保険会社から郵送された封書の内容が頭の中から離れなかった。
次の二つである。
一つ目は、退職に伴い所属していた会社の健康保険は、それを継続するか国民保険に新規入会するかを選択する様にとのことで、私は会社健保を延長させてほしいと申し出ていた。しかしそれに伴い納付すべき費用を一年分前納したかどうか記憶が無かった。
二つ目は、生命保険会社から従来給与天引きしていた保険料は、退職時点で一年分前納することの連絡で確か20~30万円程度だったと思うが、これも納入したかどうか記憶が無かった。妻は「お金は何とかなるよ!!」とは言うものの、私は自宅から持ってきてもらった事務書類から納付済書類を見つけた時は病気のことを忘れてしまうほどであった。
この様な保険関係書類は後回ししないでその時その時で処理しておかないと「アトノマツリになるなあ」とベッドの中で一人呟いた。「この病気もアトノマツリか」と呟かざるを得ない。
私はこずかいの範囲内であるが、インターネットによる株取引とYahooオークション取引を趣味にしていた。取引内容やパスワードは全てファイルにきちんと整理していたが、IT音痴の妻がその内容を見て理解出来るだろうかと心配になった。しばらくしてファイル全部をITに長けた知人に持って行くと良いと改めて頼んだ。
1ケ月間救急病院に入院していたが、毎日会社関係、友人、地域の方等お見舞い客が絶えなかった。
最初の頃は私はマヒを自覚して無かったので「直ぐに復帰出来る」と言っていたが、日数が経るに従って「時期が来れば復帰出来る」という具合にトーンが下がったことに気が付いた。行きつけの居酒屋のママがお見舞いに来てくれた時は「私の隠れ家がこれで無くなったなあ」と急に現実に引き戻され寂しくなった。
サラリーマン現役時代の年賀状に私の好きな言葉は「あせるな・おこるな・いばるな・くさるな・まけるな」の「あおいくま」ですと書いたことを思い出したが、とてもその心境になることが出来ない自分を情けなく惨めに思った。