著書「スマート詩吟は面白い=趣味の詩吟が脳内出血を癒してくれた=」の最初のサワリ5回連載の第3回目です。
お酒が十分満たされた頃、ついに主題が本日核心テーマになった。私が書いた昇格論文試験の批評でも結果でもない。
「指方君、実は私は詩吟を30年間やってきたが、つい最近、師範免状をもらったのだ。そこでだ、師範になったから、君を弟子第1号にしたいと思っている。」
私はあっけにとられた。何故私にそんなことの白羽の矢が立つのか。更に部長は続けた。
「君は何にでも前向きで挑戦しているではないか。実は君がお酒好きなことも知っている。君は何にでも嫌がらないで色々な付き合いに顔を出していることも知っている。この居酒屋が詩吟道場というと君はきっと断らないと考えた訳だ。ただ、それだけのことなのだが。実は練習場にしたい会社食堂の配膳を手伝ってくれているパートさんも一緒に詩吟をすることになっているのだ。」と部長は話を結んだ。会社には昼食時だけ外食配送され各人適当に利用する食堂があり、その後は自由な場所でありいつも空いていた。また、パートさんは昼食時の配膳のみを手伝う為に近くから通ってくれる50歳代の女性で、話す機会はなかったが面識だけはあった。
「毎週1回会社の食堂に集合だ。そこでしばらく練習して、その後この居酒屋で飲んで帰ることにしよう。」
何だかすべて謀られてしまっている様で、私が詩吟を始めることはもう決まってしまっていた。詩吟と論語は直接関係ないが、と断って、部長は自分の好きな論語の一節を披露した。
「学びて時にこれを習う。亦た説ばしからずや。朋あり、遠方より来たる、亦た楽しからずや。人知らずしてうらみず。亦た君子ならずや。」
後でこっそり虎の巻を読んでみた。『学んだ後、復習すれば理解がますます深まり楽しい。また何かを学でいると、同じ道を歩む友人が出来てとても楽しい。もし自分が学んでいることを他人が理解してくれなくても怒ってはいけない。人は人、自分は自分だ。』とあった。
居酒屋で、その時は何となく解っただけだったが、虎の巻のおかげで、部長の真意を感じ取った。部長も師範取得が多分嬉しかったのだろう。
「声を出すことは良いことだと思うが、カラオケとは違うし、普段大声も出していないので、あまり自信がない。あるいは、何だか難しそうだし、ネクラでみっともない気もするし・・・。」そして「詩吟は何の役に立つの?」とか質問はいくつかした。だから、すぐに詩吟に納得して、練習を始めた訳ではない。どうしても詩吟とは縁遠いと思っていたし、そろそろゴルフも始めたいこともあり、居酒屋通いも小遣い銭のことで、早々出来ないと、いろいろ出来ない理由を挙げていた。しかし結果的に、それら質問・意見は、詩吟を始めるという結果が決まっていて、それをだめ押しすることだった。私も、『出来ない理由ばかり並び立てるべきではない。』と同僚はじめ周囲の人に良く言っていた。
第4回目は来週に続きます。1週間お待ち下さい。