毎日新聞紙上で古賀誠・自民党元幹事長が憲法改正に対する真意を語った。
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平和憲法は「世界遺産」だ
古賀誠・自民党元幹事長の真意
毎日新聞 - 2013年06月12日(水)
◇96条改正には反対/訪中は交流のチャンネル
この人の動きが気になる。古賀誠・自民党元幹事長(72)。共産党の機関紙「赤旗」に登場して憲法96条改正反対を訴えたかと思えば、野中広務元官房長官らと訪中し要人と会談する。改憲に前のめりで中国や韓国との溝を深める安倍晋三政権を、あたかもけん制しているかのようだ。真意はどこにあるのか。松田喬和専門編集委員が聞いた。【構成・江畑佳明】
−−今回の訪中では、共産党序列5位の劉雲山政治局常務委員らと会談しました。その際の記者会見で、野中元官房長官が「日中国交正常化時に尖閣問題について棚上げ合意があった」と発言し、その後、古賀さんは「解決方法として話されたのではない」と擁護されましたね。
古賀 「棚上げ合意」は我々がまだ若手の頃、田中角栄先生自らが講演でお話しになったことです。なのに野中さんが勝手に言ったというような報道があったので、誤解のないようにしないといけないと考えた。今回の訪中は中連部(共産党中央対外連絡部)から、昔からの友人である王家瑞部長や唐家〓(とうかせん)元国務委員らと会わないかと正式に招かれたものです。日本政府の考え方を伝えるためではない。今のこういう状況は極めて残念なことですよねと、お互いに語り合ったわけです。
−−北方領土問題では森喜朗元首相がロシアのプーチン大統領と会って前さばきをし、中国とは野中さん、古賀さん。いずれも議員バッジを外された方ばかりです。若手・中堅が政府にもの申したり、ひそかに自分のパイプで問題解決を図ったりする動きは見えない。党の底力が失われたのでは?
古賀 いやいや、決してそうではないでしょう。ただ向こうも習近平主席の新体制ができて、内部をどう固めていくかという時期。互いのチャンネルがなかなか合致しない難しさはある。だからこそ僕らが招かれたと理解しています。北京郊外に、中国の砂漠化を防ぐための日中緑化交流基金を記念した石碑があるんです。小渕恵三首相のときに100億円を積んでね。今回、そこで中国側関係者と我々が2人1組になって植樹をしました。国交が正常化されて41年、こういう歴史もあるんだということを両国に発信できたと思います。
−−今年4月、麻生太郎財務相ら複数の閣僚と168人の国会議員が靖国神社に参拝したことも、中国の警戒感を強めました。
古賀 それについては今回の訪中で議論の場はありませんでした。中国側からすればいろいろ言いたいことはあるだろうけれども、これは日本の国内問題だ。今回の訪中でも、どういう意図かは分かりませんが「今の日本の政権は右傾化しつつある。軍国主義を目指している」と言われました。村山談話に否定的だ、とも。私は「とんでもない、日本ほど平和主義、民主的な国家はない。村山談話も安倍政権は踏襲している」と強い口調で申し上げた。
とはいえ、国内問題だとしても決着をつけなければならない。少なくとも天皇陛下がお参りできて、全ての国民がわだかまりなく英霊に手を合わせられる施設にするには、どうすればいいか。やはりA級戦犯の分祀(ぶんし)が必要です。東京裁判についてはさまざまな議論がありますが、たった1枚の召集令状で戦地に行かされた人たち、空襲でなくなった罪のない何十万の命を思えば、誰かが責任を取らねばならない。その責任者が合祀されているのはやはりおかしい。靖国がどうあるべきか、国民のコンセンサスをつくれるような議論をしなければならない。
日本遺族会の会長をしていたときにも分祀を進めようと努力したが、なかなか前進させられなかった。でも、勉強していこうという動きは都道府県の遺族会の中で次第に広がってきていますよ。
−−「赤旗」の取材に応じ憲法96条改正反対を明確にした動機を改めてうかがいたい。
古賀 共産党とは綱領も基本的な思想も違うけれど、憲法問題に限ってなら持論を言いますよ、と受けました。戦争を知らない世代が全人口の80%になってしまった。バッジを外しても政治を志した者の責任として、戦争の犠牲者の中で育った私だからこそ言うべきことがあるのではないか。そう思ったんです。
96条に定める「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」という現在の改正手続きのハードルを下げることには反対です。確かに社会が変われば新しい身の丈の憲法が必要になってくる。国会議員に限らず常日ごろから幅広く議論しておくべき問題です。ただ、現行憲法に流れる平和主義、主権在民、基本的人権という原則をど真ん中に置いた議論であるべきです。手続きを変えるのは筋違いで絶対に認められません。
−−96条改正の狙いが9条にあることは明白です。
古賀 日本が戦後68年間、経済的繁栄を享受し続けられたのは平和憲法のおかげです。そのことは誰にも否定できないはずです。平和憲法の象徴が戦争放棄をうたった9条1項。世界の国々は、本音では皆こういう憲法を持ちたがっているとさえ思います。まさに世界遺産ですよ。2歳のとき父が召集され、フィリピンで戦死したとの訃報が届いたのが5歳。父の思い出はありません。母は私を必死に育ててくれました。子供心に戦争は絶対にしてはいけないと強く感じた。そういう体験が僕の根っこにある。橋下(徹・日本維新の会共同代表)さんの従軍慰安婦を巡る発言が海外にまで伝わりましたが、あれも戦争を知らない世代だからこその発言だったんじゃないでしょうか。
ただし戦力不保持を定めた9条2項だけは変えて、自衛隊の存在は認めてあげようよというのが僕の立場。技術的にも組織的にも世界に認知された存在ですから。憲法に明記すれば国民も尊敬の念をもって認めると思います。
−−古賀さんの出身派閥で現在も名誉会長を務める宏池会など、自民党内のリベラル勢力の後退が気になります。
古賀 それほど深刻には考えていません。今は衆参約40人で、前に比べるとちょっと物足りなさはあるかもしれない。しかし、安倍政権の中では「物言えば唇寒し」という雰囲気が、なきにしもあらずのようです。だからこそ、もっと言うべきことは言わねばならない。宏池会の現会長、岸田文雄外相と座長の林芳正農相はともに50代、若返りは果たした。池田勇人先生が創立されて56年になりますが、宏池会は権力闘争のためにつくられた組織ではない。政党の命である政策を責任を持ってつくろうという自覚と能力のある政治家が競って宏池会に入ってきた。だからこれからも、所属議員は保守本流の政治家としての哲学を持ち、それを貫いてほしいんです。日本に何が必要かを決断し、決めたら怒とうのように実行してもらいたいですね。
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■人物略歴
◇こが・まこと
1940年福岡県生まれ。日大卒。国会議員秘書を経て、80年衆院初当選。以降10期連続当選。96年運輸相(現国土交通相)として初入閣。国対委員長、幹事長、選対委員長などを歴任した。昨年11月に議員引退。2002年から10年間、日本遺族会会長を務めた。
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