今日は、ひとつ前の記事でリンクを張ったダイヤモンド・オンラインに
掲載された山田厚史の記事を紹介します。
インターネットでは5分割になっているものを一挙に掲載します。
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大儲けのJALが「法人税ゼロ」
税金で救済された企業の社会的責任は
山田厚史:ダイヤモンド・オンライン - 2012年7月19日(木)08:40
V字型回復した日本航空(JAL)の「納税問題」が波紋を広げている。今年3月期の純利益は1866億円。世界の航空会社が集まる国際航空輸送協会(IATA)全体の約30%の利益をたった1社で稼ぎだした計算になる。しかも本来なら764億円の法人税を納めなければならない。それが納税はゼロ。儲けは過去の赤字で相殺された、というのだ。
繰越欠損金の効用
高収益をバネにJALは今秋にも東京証券取引所に上場する。「日の丸航空復活」を思わせる快挙とも見えるが、税金で救済された企業が元気になっても税金は払わずに済む、これってどこかおかしくないか。払わずに済むのは昨年度分だけでない。今年も来年も、またその先も、9年間JALは納税を免れる。
昨年の税制改正で、欠損金の繰り越しは9年間に延長された(それまでは7年間)。その恩恵を受け9年間でJALは推定4000億円の納税額を自らのキャッシュフローに取り込むことができる。新鋭機B787を30機くらい買える金額が手元に残るというわけだ。
ライバル会社のANAは真っ青だ。
「企業努力で正常な経営を保ってきた会社より、つぶれて身軽になった会社が儲かり、税金まで免除されるのでは、対等な競争にならない」(ANA企画部)。
国会は消費税の是非を巡り政局がらみの動きになっている。ところがJALは雲の上で視界良好の免税飛行を満喫しているのだ。
植木社長は「繰越欠損金はルールとして制定されており、JAL特有の支援ではない。業績だけ見て不公平とする議論は受け入れられない」と税金を払わないことは当然のこと、という姿勢だ。
「欠損金の繰り越し」は諸外国でも制度化されている。植木社長の言うとおりJALだけに与えられた救済措置でもない。だが制度として存在する「欠損の繰り越し」は、自らの経営努力によって黒字になった企業に認められるご褒美のようなものだ。
JALのように国策で救済され、税金と企業再生機構という特段の措置によって再建された企業を想定した制度ではない。
運輸官僚たちの責任
一昨年から始まった救済劇を振り返ってみよう。会社更生法の申請が2010年1月。その後の資産査定などを経て、JALの債務超過は1兆円を超えた。
不採算路線、世間相場より高い人件費、それに加えて年金の積み立て不足、航空機評価額の過大計上など放漫経営が次々に明らかになった。競争相手のANAに比べ、格段に悪い経営内容だった。
国境を越えた統廃合が進む世界の航空業界は、倒産したエアラインに甘くはない。たちまちにしてライバル企業に吸収されるのが普通だ。国土交通省は「JAL・ANA2社体制存続」という方針を掲げ救済に乗り出す。当時の前原誠司国土交通相は「法的措置を取らない」と自力再生を強調。しかし経営内容が明らかになるにつれ「倒産やむなし」へと傾いた。それでも身売りやANAとの合併という荒療治は避け、会社更生法で再建する道を選んだ。
その結果、経営内容を全く知らされていなかった株主まで「株主責任」をとらされ株券は無価値になった。金融機関は総額5215億円の債権放棄に応じ預金者のカネがどぶに捨てられた。従業員は1万6000人が解雇され、今も裁判で争っている人もいる。地方空港が頼りにしていた路線の4分の1が廃止された。
倒産の責任者は歴代の経営者だが、実際に経営してきたのは運輸官僚である。運輸省(現国土交通省)航空局の時代から、航空官僚がJALの実質的経営者だった。
銀行業行政が護送船団方式といわれた時代、大蔵省銀行局は銀行の経営に対して絶大な影響力を持っていた。預金金利、貸し出しの基準金利、貸付額、店舗などすべて官僚が仕切り、銀行は業務を執行する事業体に過ぎなかった。同じ関係が運輸省と航空会社にも当てはまる。路線、運賃、機種、安全管理すべて官僚が決め、航空会社は飛行機を飛ばす事業体に過ぎない。歴代社長は運輸省との連絡役である企画畑か、従業員を管理する労務畑から出た。
JALの倒産も、責任は国土交通省航空局にある。その「戦犯」が前原大臣を押し立てJAL救済の絵を描いたのが今回の姿である。
「JAL・ANA2社体制」は運輸省時代からの遺物である。航空自由化が進み、欧州でも一国一社が崩れ始めている世界で、官僚統制の重荷を引きずる日本の航空産業において、果たして2社生き残れるか、大きな疑問となっている。
JALが企業再生支援機構によって一時国有化されたら、破綻処理の出口は、「買い手を捜すこと」が当然の手順だった。となれば真っ先に手を挙げるのはANAだったろう。その手順を取らず再上場させた背後に、「2社体制」の方が航空会社を互いに牽制させながら主導権を握れるという国土交通省の隠れた意図が読み取れる。また、JALの消滅は航空官僚の失敗を認めることになるからでもある。
本来なら行政をしくじった航空官僚こそリストラされるべきなのに、「2社体制温存」で焼け太りしたのが実態だ。
責任を押しつけられたのは個人投資家、預金者、従業員である。
そのうえさらに税金が免除され、JALは強くなる。「免税4000億円のプレゼント」が実現すれば、ANAと力関係は逆転する。
ANAも航空官僚の支配下にあったが、国策として生まれたJALに比べれば、民間色が濃く独立性も高かった。債務超過にならなかったのはそれなりの経営努力があったからだ。ところが今や逆転。JALは国策で5215億円も借金が棒引きされた。経営を圧迫する金利負担が軽くなった。しかも過去の放漫経営が生んだ1兆円を超える赤字が「繰越欠損金」として納税免除の財源になる。国交省は新路線を認可し、JALは新鋭のB787を45機も発注して攻勢に出る。
かつての闇が今は宝の山
JALの経営を分析している会計専門家・細野祐二氏によると「粉飾会計と紙一重である不明朗な経理処理が、いまや宝の山になっている」と指摘する。それは密かに行ってきた「機材関連報償費」という日本の航空業界にだけある不透明な手口だ。
航空機には定価がない。JALがボーイング社からB747を買う時、例えば100億円の取引価格を帳簿には150億円と記載し、割り引かれた50億円を「機材関連報償費」として収入に計上する。その年の収入は膨らみ、見せかけの利益が大きくなる。一方で、その分だけ資産(この場合は航空機)が水増し計上される。
国土交通省も知っていたことで「好ましい会計処理ではなかったので06年から取りやめさせた」(航空局審議官)という。JALが破綻したときこうした水増し計上が表面化して膨大な欠損金が生まれた。こうした不透明な会計が「繰越欠損金」に隠れているが、JALは中身の公表を拒んでいる。
水増し計上は、リース会社を間に入れて社外に損金をプールするなど複雑な会計処理が行われてきた。こうした操作が負の資産となり経営内部に隠蔽され、ついに破綻につながったのである。闇の処理が、いまや税を免れる宝の山になっている、と細野氏は指摘する。
政府は消費税増税を進めながら法人税を安くしようとしている。そんな時に、その法人税さえ払わないのが、国策で救済されたJALという構図だ。4000億円もの納税を免れる負の財源は、運輸官僚とかつてのJAL経営者の間で密かに進められた不透明な処理にある、としたら世間は納得するだろうか。
増税の旗を振る自民党でも、国土交通部会航空問題プロジェクトチームが動き始めた。早朝の勉強会が何度か開かれ「JALの救済は国策として行われたことであって、自分の力で蘇ったと思っては困る。利益が出たら、まず世の中にお返しするのが筋だ」「地方空港を作ろうと汗をかいた関係者への配慮もなく、不採算路線をバッサリ切って、自分たちは大儲けして再上場というのは許しがたい」などという意見が噴出した。
JALは東京証券取引所に再上場への審査を求めているが、自民党の13日の会合では「再上場に反対する決議」がなされた。破綻後のJALは、企業再生支援機構だけでなく関係する民間企業も新株を持ったが、当事者だけが重要情報を持っていたのは「インサイダー取引」が疑われる、というのだ。
こうした動きの背景には、「法律に従えば免税は当然」というJAL経営陣への反発がある。民主党内部にも、問題視する声が広がっている。
京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が乗りだし、経営哲学を一からつくり直したはずのJALだが、世間の目は厳しい。JALの内部にも「こうなったら税金を払うしかない」という声も上がり始めた。
稲盛氏が説く「利他の精神」と税金免除をどう折り合わすか。大企業に甘い税制を考え直す機会でもある。
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