山形県の最上小国川ダム計画で犠牲者がでた。ダム建設に反対する小国川漁業協同組合長が2月10日自ら命を絶った。朝日新聞は2014.2月12日報道の後、2月27日下記の記事を全国版に載せた。この記事によれば山形県は昨年12月、小国川漁協に要求を着きつけた10年に一度の漁業権の更新に、「県との協議の席に着かない限り漁業権の更新を認めない」と示唆した。この背景は「ダム計画」反対のすれば漁業権は認めないということで、組合長は「県との交渉で追い詰められていた」と漁協理事が話している。まさに権力の横暴そのものだ。
朝日新聞 2014.02.27
小国川漁協はとホームページに以下の記事を配信した。
「去る2月10日、当組合の沼沢勝善組合長がお亡くなりになりました。全く突然の出来事で、私たち組合員も驚きと悲しみでいっぱいです。またご遺族の気持ちを考えると、本当に何と申し上げればよいか言葉も見つからず、心が痛むばかりです。
沼沢組合長は平成9年に小国川漁業協同組合の組合長に選出され、以来これまで17年の長きにわたり組合長を務めてこられました。組合長として小国川の漁業振興に努めるばかりでなく、「松原鮎」と称される小国川の良質なアユを守るため、冷水病の危険がある種苗の放流をストップしたり、夏には釣り具メーカーが開催するアユ釣り大会をたくさん受け入れて、遊漁の振興や発展に寄与したり、多くの実績を上げられてこられました。小国川のほとり建てられた「小国川稚鮎センター」でアユの中間育成事業に着手し軌道に乗せたことも、忘れてならない大きな実績の一つです。
そして近年は、皆さんご存じのように山形県が最上町の赤倉温泉上流に建設を計画する「最上小国川ダム」に、反対の立場で漁協の先頭に立って奔走されてきました。ただ反対するのではなく、ダム以外の方法で治水は可能か否か、河川工学や治水の専門家の方たちに意見を聞いたり、全国各地のダムや治水対策について勉強したり。本当に真摯に問題と向き合い、最善の策を模索してきました。しかし、そうして決議に至った組合としての総意「ダム以外の方法での治水」は、県からはまったく受け入れられることなく、県はただただ「ダムによる治水を丁寧に説明したい」と繰り返すばかりでした。そうして起きたのが、昨年末の漁業権更新に関する問題です。10年に一度更新される漁協権の更新にあたって「公益への配慮」ということが県から漁業権付与の条件として提示され、それについて沼沢組合長は大変心を悩まされていました。なんとか漁業権は更新されたものの、今年に入って最上小国川ダム建設について協議する場への参加を促され、多くの委員がダム建設を容認するようなムードの中で、沼沢組合長は先頭に立って「ダム以外の治水対策の検討」を訴えました。まさに孤軍奮闘。その姿には悲壮感さえ漂い、痛ましいほどでありました」 以下略
1月28日に「第一回最上小国川流域の治水対策協に関する協議会」に組合長以下5名出席した。協議ではまず山形県県土整備部の岡邦彦部長が、「これまで県が最上小国川の治水対策について検討してきたプロセス」や、「治水の手法として流水型ダム(穴あきダム)が適当とする理由」など、これまで何度も語られてきたことをまとめる形で説明。当組合も沼沢組合長や青木理事が、「赤倉温泉地区を中心とする小国川流域の治水対策として、県が掲げる流水型ダム(穴あきダム)案にはいくつもの疑問や懸念があり、当組合としては河道改修による治水対策を望むこと。また県は河道改修による治水はできないと否定しているが、当組合は専門家の意見も聞いて河道改修による治水は十分に可能と考えていること」などを申し述べました。
小国川漁業協同組合ホームページから 2014.01.29掲載
この会議以降第二回の協議に向け10日、漁協で打ち合わせ会議が予定されていたという。年末来の騒動で組合長は深刻な疲労がたまっていたことが想像される。
最上小国川は最上川支流で、唯一天然河川で東北では有名なアユの産地。全国から年間3万人も訪れるアユ釣りのメッカと言われ、その経済効果は年間21.8億円の試算がある。この川に総工費約80億で赤倉温泉地域の治水を主な目的として「穴あきダム」をつくると云う計画だ。
「穴あきダム」とは「増水時だけ水をためる治水専用ダム」でダム湖を造らず、発電や農業利水はできない。島根県営益田川ダムが06年3月に完成したほか、長野県の浅川ダムなど全国10カ所で計画されている。
山形県 最上小国川ダムの概要 引用
「穴あきダム」増水時だけ水をためる装置というが、2013.8.9の秋田県仙北市の集中豪雨被害の大規模な土砂崩れ、2008.06.14の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)で「荒砥沢ダム」上流の崩落地の最大落差は148m。土砂が水平距離で300m以上移動した。穴の部が1.7×1.7が2ケ所の「穴あきダム」。どう説明されても?を拭いさることは素人にはできない。大きく環境破壊しても「ダム建設」ありの詭弁にも思える。「穴あきダム」がこれらの災害に直面すると穴あき装置がふさがれ長期間機能の閉鎖、長期間濁水が下流を汚染し清流の「アユ」の被害は甚大なものとなる。年間全国から3万人訪れ、現在経済効果21.8億円の経済効果のある天然河川は貴重なものだ。全国的に自然破壊されている河川の状況から見たら、この河川はユネスコの「自然遺産」に匹敵する価値がある。規模が小さいなら、日本版の「日本ユネスコ」の自然遺産登録があって良い河川だ。何しろ東北を代表する「松原アユ」と呼ばれる天然鮎の産地。
湯沢市の雄物川支流皆瀬川に昭和38年に完成した皆瀬ダム、完成以降下流は大雨毎に半月以上も泥水が流れ、アユのエサとなる苔が育たず、かつてアユの郷のイメージは遠くなってしまった。どこで起こるのか予想のつかない災害を考えると上記の図のように「穴あき」の構造が1.7mで大丈夫なのか。普段は下流に水を流す「穴あきダム」というものに、何が何でもダム建設を推進する、「ダムムラ」の陰謀などと思えてしまう。
この度の「最上小国川ダム」計画で犠牲者が出てしまったことで、この計画推進の山形県の行政指導に問題がなかったのか、全国的に知られることになった。小国川漁業協同組合長は死をもってこのダムの建設に抗議した。漁業組合長の無念さがいかばかりかと思う。漁協組合員数は1200人という。漁業法23条は、漁業権を民法上の物権とみなし、土地に関する規定を準用すると定めている。
上関原発建設に伴う漁業補償金問題で、2013.3.29祝島の講演会で熊本一規・明治学院大教授(環境経済学)は「漁業権を持つのが漁協であれば総会決議で決められるということになりますが、そうでなければ漁業権者の全員の同意が必要と」語っている。2014.2.27朝日新聞の記事で熊本教授は今回の漁協長の死の抗議にあたって、「県の対応は前代未聞。ダム問題で賛否が割れた他県の事例でも、県が漁業権の更新を盾に取るような手法はとならい」と批判している。
原発や各地のダム問題は「原子力ムラ」、「ダムムラ」等は「目的を推進することで互いに利益を得てきた政治家と企業、研究者の集団」と言われその結束は強固だ。研究者の集団には大学の研究者、マスコミ、業界紙や監督官庁等官僚機構ともつながっている。政権交代後益々露骨な振る舞いに見える。かつての時代からの「由(よ)らしむべし知(し)らしむべからず」の精神が大手を振って光り輝いてきた。
個人的な関係だが、熊本一規明治学院大教授とは面識があった。2013.12.07ブログ「追想 土くれのうた(NHKあすの村づくり)で紹介した1973年「菅原裁判」を全国出稼組合指導の下に起こした東京地裁での裁判闘争で、当時東大大学院の学生だった熊本氏が東京で、私が秋田での事務局だった。熊本氏とは第4回口頭弁論の時東京地裁で一緒になって以来会ってはいない。2011.3.11福島原発事故のあと出版した「脱原発の経済学」(緑風出版)で、熊本一規氏の近況を知り今回朝日新聞で健在ぶりを知った。もう40年も前の事だが人とのつながりの不思議さ、尊さを知り当時を振り返ってみた。。「菅原裁判」は熊本教授の視界から消えかかっているのかもしれないが、当時からのよしみで成瀬ダムについても環境学の立場からの知見を伺いたいものだとの想いが生まれた。
先日2014.2.21秋田地裁で成瀬ダム住民訴訟・証人尋問があった。被告側から国交省東北地方整備局河川部長・工藤啓氏、同湯沢河川国道事務所所長・平野令緒氏が尋問された。この件も近いうちに投稿したい。
朝日新聞 2014.02.27
小国川漁協はとホームページに以下の記事を配信した。
「去る2月10日、当組合の沼沢勝善組合長がお亡くなりになりました。全く突然の出来事で、私たち組合員も驚きと悲しみでいっぱいです。またご遺族の気持ちを考えると、本当に何と申し上げればよいか言葉も見つからず、心が痛むばかりです。
沼沢組合長は平成9年に小国川漁業協同組合の組合長に選出され、以来これまで17年の長きにわたり組合長を務めてこられました。組合長として小国川の漁業振興に努めるばかりでなく、「松原鮎」と称される小国川の良質なアユを守るため、冷水病の危険がある種苗の放流をストップしたり、夏には釣り具メーカーが開催するアユ釣り大会をたくさん受け入れて、遊漁の振興や発展に寄与したり、多くの実績を上げられてこられました。小国川のほとり建てられた「小国川稚鮎センター」でアユの中間育成事業に着手し軌道に乗せたことも、忘れてならない大きな実績の一つです。
そして近年は、皆さんご存じのように山形県が最上町の赤倉温泉上流に建設を計画する「最上小国川ダム」に、反対の立場で漁協の先頭に立って奔走されてきました。ただ反対するのではなく、ダム以外の方法で治水は可能か否か、河川工学や治水の専門家の方たちに意見を聞いたり、全国各地のダムや治水対策について勉強したり。本当に真摯に問題と向き合い、最善の策を模索してきました。しかし、そうして決議に至った組合としての総意「ダム以外の方法での治水」は、県からはまったく受け入れられることなく、県はただただ「ダムによる治水を丁寧に説明したい」と繰り返すばかりでした。そうして起きたのが、昨年末の漁業権更新に関する問題です。10年に一度更新される漁協権の更新にあたって「公益への配慮」ということが県から漁業権付与の条件として提示され、それについて沼沢組合長は大変心を悩まされていました。なんとか漁業権は更新されたものの、今年に入って最上小国川ダム建設について協議する場への参加を促され、多くの委員がダム建設を容認するようなムードの中で、沼沢組合長は先頭に立って「ダム以外の治水対策の検討」を訴えました。まさに孤軍奮闘。その姿には悲壮感さえ漂い、痛ましいほどでありました」 以下略
1月28日に「第一回最上小国川流域の治水対策協に関する協議会」に組合長以下5名出席した。協議ではまず山形県県土整備部の岡邦彦部長が、「これまで県が最上小国川の治水対策について検討してきたプロセス」や、「治水の手法として流水型ダム(穴あきダム)が適当とする理由」など、これまで何度も語られてきたことをまとめる形で説明。当組合も沼沢組合長や青木理事が、「赤倉温泉地区を中心とする小国川流域の治水対策として、県が掲げる流水型ダム(穴あきダム)案にはいくつもの疑問や懸念があり、当組合としては河道改修による治水対策を望むこと。また県は河道改修による治水はできないと否定しているが、当組合は専門家の意見も聞いて河道改修による治水は十分に可能と考えていること」などを申し述べました。
小国川漁業協同組合ホームページから 2014.01.29掲載
この会議以降第二回の協議に向け10日、漁協で打ち合わせ会議が予定されていたという。年末来の騒動で組合長は深刻な疲労がたまっていたことが想像される。
最上小国川は最上川支流で、唯一天然河川で東北では有名なアユの産地。全国から年間3万人も訪れるアユ釣りのメッカと言われ、その経済効果は年間21.8億円の試算がある。この川に総工費約80億で赤倉温泉地域の治水を主な目的として「穴あきダム」をつくると云う計画だ。
「穴あきダム」とは「増水時だけ水をためる治水専用ダム」でダム湖を造らず、発電や農業利水はできない。島根県営益田川ダムが06年3月に完成したほか、長野県の浅川ダムなど全国10カ所で計画されている。
山形県 最上小国川ダムの概要 引用
「穴あきダム」増水時だけ水をためる装置というが、2013.8.9の秋田県仙北市の集中豪雨被害の大規模な土砂崩れ、2008.06.14の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)で「荒砥沢ダム」上流の崩落地の最大落差は148m。土砂が水平距離で300m以上移動した。穴の部が1.7×1.7が2ケ所の「穴あきダム」。どう説明されても?を拭いさることは素人にはできない。大きく環境破壊しても「ダム建設」ありの詭弁にも思える。「穴あきダム」がこれらの災害に直面すると穴あき装置がふさがれ長期間機能の閉鎖、長期間濁水が下流を汚染し清流の「アユ」の被害は甚大なものとなる。年間全国から3万人訪れ、現在経済効果21.8億円の経済効果のある天然河川は貴重なものだ。全国的に自然破壊されている河川の状況から見たら、この河川はユネスコの「自然遺産」に匹敵する価値がある。規模が小さいなら、日本版の「日本ユネスコ」の自然遺産登録があって良い河川だ。何しろ東北を代表する「松原アユ」と呼ばれる天然鮎の産地。
湯沢市の雄物川支流皆瀬川に昭和38年に完成した皆瀬ダム、完成以降下流は大雨毎に半月以上も泥水が流れ、アユのエサとなる苔が育たず、かつてアユの郷のイメージは遠くなってしまった。どこで起こるのか予想のつかない災害を考えると上記の図のように「穴あき」の構造が1.7mで大丈夫なのか。普段は下流に水を流す「穴あきダム」というものに、何が何でもダム建設を推進する、「ダムムラ」の陰謀などと思えてしまう。
この度の「最上小国川ダム」計画で犠牲者が出てしまったことで、この計画推進の山形県の行政指導に問題がなかったのか、全国的に知られることになった。小国川漁業協同組合長は死をもってこのダムの建設に抗議した。漁業組合長の無念さがいかばかりかと思う。漁協組合員数は1200人という。漁業法23条は、漁業権を民法上の物権とみなし、土地に関する規定を準用すると定めている。
上関原発建設に伴う漁業補償金問題で、2013.3.29祝島の講演会で熊本一規・明治学院大教授(環境経済学)は「漁業権を持つのが漁協であれば総会決議で決められるということになりますが、そうでなければ漁業権者の全員の同意が必要と」語っている。2014.2.27朝日新聞の記事で熊本教授は今回の漁協長の死の抗議にあたって、「県の対応は前代未聞。ダム問題で賛否が割れた他県の事例でも、県が漁業権の更新を盾に取るような手法はとならい」と批判している。
原発や各地のダム問題は「原子力ムラ」、「ダムムラ」等は「目的を推進することで互いに利益を得てきた政治家と企業、研究者の集団」と言われその結束は強固だ。研究者の集団には大学の研究者、マスコミ、業界紙や監督官庁等官僚機構ともつながっている。政権交代後益々露骨な振る舞いに見える。かつての時代からの「由(よ)らしむべし知(し)らしむべからず」の精神が大手を振って光り輝いてきた。
個人的な関係だが、熊本一規明治学院大教授とは面識があった。2013.12.07ブログ「追想 土くれのうた(NHKあすの村づくり)で紹介した1973年「菅原裁判」を全国出稼組合指導の下に起こした東京地裁での裁判闘争で、当時東大大学院の学生だった熊本氏が東京で、私が秋田での事務局だった。熊本氏とは第4回口頭弁論の時東京地裁で一緒になって以来会ってはいない。2011.3.11福島原発事故のあと出版した「脱原発の経済学」(緑風出版)で、熊本一規氏の近況を知り今回朝日新聞で健在ぶりを知った。もう40年も前の事だが人とのつながりの不思議さ、尊さを知り当時を振り返ってみた。。「菅原裁判」は熊本教授の視界から消えかかっているのかもしれないが、当時からのよしみで成瀬ダムについても環境学の立場からの知見を伺いたいものだとの想いが生まれた。
先日2014.2.21秋田地裁で成瀬ダム住民訴訟・証人尋問があった。被告側から国交省東北地方整備局河川部長・工藤啓氏、同湯沢河川国道事務所所長・平野令緒氏が尋問された。この件も近いうちに投稿したい。