よくアメリカの原爆と比較して笑いものにされる日本の兵器だ。しかしそれは誤りである。日本の技術者は頭脳の限りを尽くして大国アメリカに対抗した。
日本軍の兵器は確かに劣悪であった。それは兵士に明治の兵器で戦わせた、戦争戦略を持たない軍上層の狂気によるものである。兵器よりも戦意に重点をおく関ヶ原程度の認識しか持ち合わせていない無能の所為と言ってもよい。
まさに兵や哀れである。
負けてばかりはいられるか。技術将校は健在だ。
ここ九州にアメリカに対抗する発想のヒントを得た下級将校がいた。八女(やめ、地名)のこんにゃく芋を煮て溶かすとゾル状になる。このゾルはきわめて薄く伸びた。ところがゾルを形成する繊維は四方八方から伸びからみあっていた。優れた展性を示しつつも分子レベルにおいてまで延ばしてもよく持ちこたえた。
当時のどの国のナイロンよりも薄く軽くしかも水素分子まで通さなかった。
今はやりの水素自動車のタンクをファイバーで作るようなもんだ。
これに強度を持たせるためさらに八女の特産品が役立った。紙だ。八女和紙の強度は比較実験の結果最適であると判断された。
勤労動員で集まった女学生は訝しがりながらこんにゃくを炊いた。いっせいに買い上げられる大量の和紙に生産者は驚いた。
かくして水素も漏れない風船が出来上がった。その下には簡単な演算装置による高度維持装置が開発設置され焼夷弾がぶら下がった。気象学は日本が進んでいたのだ。アメリカはジェット気流すら知らない。
日本は不発により情報が漏れるのを恐れ焼夷弾の代わりにわざと陶器の爆弾を下げた。これは見事に功を奏して、アメリカをして日本の物資不足を信じ込ませるに十分だった。
日本には悪魔の意図があったのだ。その陶器の爆弾はわざと威力を弱めたものだった。中のコレラ菌が死なないように。
九州は満州の石井部隊から近い。
コレラ菌を満載した風船がときどきバラストを自動切断しながら時速100キロで成層圏をアメリカに向かう。
原爆以上の最終兵器と言ってよい。風船爆弾は細菌爆弾だった。何が悪い。原爆落としておいて細菌爆弾を非難するか。
突然、東条は中止命令を下す。ヘナチョコ東条、そんなに気合がなかったら最初から戦争なんかするな。