カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第四話  対面

2008-08-03 23:48:52 | Weblog
城内は慌しかった。三人は大手門の前の門番から少し離れた所で待たされたままである。
一人、二人と鎧兜を身に纏った武士が出たり入ったりしている。
三津林と愛美は、渡名部の後ろで小さくなっていた。無理もない、この時代に不相応なポロシャツやブラウスにジーパン姿である。
「何だか忙しそうですね、先生。」
「うん、敵が来ているのかもしれないな。」
「じゃ、戦っていうこと?」
「そうだ、武田軍があちこちから迫って来てるんだ。」
渡名部がそう答えた時だった。
「おお清志、無事だったか!」
「中根様!」
三人の前に鎧兜の武士が現れた。
「他の者は、討たれたか?」
「はい、平太郎も権助も追っ手にやられました。」
「そうか、お前だけでも無事で良かった。まだ戦はこれからだ。」
「はい。」
「ところで、その者達は何じゃ?」
やっと三津林と愛美が目にとまった。
「はい、こいつらは俺と同じ村の者です。」
「そうか、それであの時のお前のようにおかしな格好をしておるのだな・・・。」
「はい、こ、この二人は、夫婦で・・・、男の方は、槍ぐらいなら突けます。」
とんでもないことを言うもんだと三津林と愛美は思った。
「それにしてもお前達の村では、女子もこんな格好をしておるのか?」
「は、はい・・・。農作業にはことのほか動きやすく・・・。」
「まあ良い、殿に合わせておこう。」
「と、殿?」
三津林と愛美は、顔を見合わせた。
「さあ、行くぞ。」
二人は、渡名部に押されて中根の後をついて行った。



門をくぐり石段を上がり、長い塀の横を進み、また門をくぐる。何人もの武士達とすれ違った。そして三津林と愛美と渡名部は、対面所の前で待たされた。
しばらくすると、奥の廊下を誰かが歩いてくるのが分かった。
「来たぞ、座って頭を下げろ!」
渡名部に言われて、三津林と愛美は時代劇のように座って頭を下げた。渡名部もそれを見てすぐに座って頭を下げた。
ドンドンと床を進む足音が次第に大きくなり、そして止んだ。
「渡名部、武田は双俣を出たか?」
「は、はい、双俣を下って西に進路を変え、ほう田あたりに向かっているようです。」
「そうか、反対をするものもおるが、わしは城を出て武田と一戦交えるつもりじゃ。すぐに戦じゃ、中根、渡名部、お前達は先鋒に加わって双俣の仇を討つのじゃ。」
「はっ!」
家康が渡名部の後ろで小さくなっている二人に気付いた。
「その者達は何じゃ。」
二人はまた同じ事を言われた。
「はっ、この二人はそれがしと同じ村のもので、夫婦にございます。このたび、家康様にご奉公したいとの事で連れてまいりました。この男、天下の歴史に詳しく予言もできまする。何かとお役にたちましょう。」
またとんでもない嘘を言われてしまった。
「そうか、それは心強いのお、面を上げよ。」
三津林と愛美は恐る恐る顔を上げた。目の前にいるのがあの家康である。
家康は、この時三十くらいで三津林とは同じくらいの年齢だ。少し老けた顔には見えるが古狸のような感じではない。
「名は何と申す。」
「はい、三津林慶大と言い・・いえ申します。」
「良い名じゃ、榊原に就かそう。」
榊原?あの四天王の一人?三津林は今、自分が教えている歴史の中に自分自身が身を置いていることを実感して、わくわくすると同時に不安を強く感じずにはいられなかった。



「女房どのもおかしな格好をしておるのお?」
こんなの私の時代では、当たり前の格好なんです、と言いたい愛美だった。
「だが、なかなか美しい女子ではないか。」
ミス浜奈高です。
「中根、三津林どのは榊原の所へ、女房どのには小袖を与えよ。」
そう言い残して家康は、奥へ戻って行った。そして三津林は中根に、愛美は渡名部に付いてそれぞれ別の館に行くことになった。別れ際、愛美が不安そうな眼差しで三津林を見ていた。



コメント
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