カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第八話  生還

2008-08-30 00:30:25 | Weblog
愛美と渡名部は、浜奈城から一キロほどの所にある林の中を歩いていた。そこにはまだ討たれた兵達の遺体があちこちに残っていた。
「これが戦国時代なんですね・・・。」
「ああ、俺も最初は涙が出るくらい怖かったさ。」
「渡名部さんも敵をこうやって殺したんですか?」
渡名部は立ち止まった。
「最初は、怖くて槍を振ってただけだったんが、そのうちそれが敵の一人に刺さってそいつは倒れた。そしてまだ動いていたのを、隣の味方が震えながら何度も槍を刺してた。自分が生き延びるためには、そうするしかないんだこの時代は・・・。」
「ごめんなさい、嫌なこと聞いちゃって。」
「いいんだよ、元の時代なら殺人犯だ。でもここへ来ちゃった以上、これが現実なんだ・・・。」
「あっ!」
「どうした愛美ちゃん!」
愛美が一人の遺体の前で立ち止まっていた。
「三津林か!?」
愛美は首を横に振ったが、淋しそうな顔をして腰を下ろした。
「私と先生の結婚式をしてくれた人・・・。」
「お前達、本当に夫婦になったのか・・・。」
愛美は手を合わせた。渡名部もそうした。
「遺体は後で供養するから、とにかく三津林を捜そう。」
二人はまた林の中を歩いた。



「お前達は、前から付き合っていたのか?」
愛美は首を横に振った。
「私は好きだったんだけど、たぶん先生は何とも思ってなかったと思う。私、歴史が好きだから、皆は先生のこと戦国マニアの変人みたいに言ってても、私は憧れてたの。だから史跡見学に私が誘ったんだ・・・。」
「そうか、淡い恋心が二人を戦国時代に導き、晴れて夫婦になったってわけか。」
「冷やかさないで下さい。」
「すまん。でもこの時代じゃなければ、年の差がある先生と生徒が結ばれることなんてそうそうないし、それにたぶん彼も君のことを好きっだったんじゃないかな・・。」
「どうして判るの?」
「それは・・・、男だからさ。」
「どういうこと?」
「それは彼に聞くんだな!さ、どこかで気絶でもしてるだろうから、捜して見つけるぞ!」
「うん。」
二人は先へ進んだ。しばらくすると二人の前に大きな岩が立ちはだかった。渡名部はその中の低い岩に飛び乗った。
「うわっ!」
渡名部は大声を上げて、岩からこちらへ飛び降りた。
「どうしたんですか?」
「が、崖だよ。危なかった、そのまま落ちたら命はないよ。」
「まさか先生、そこから落ちたんじゃ・・・。」
「そんなことないさ、とりあえず回って捜そう。」
二人は崖の上を、低い方に向かって歩いて行った。


三津林とさゆみが、地震で光の中に落ちてから、どれくらいの時が経っているかは定かでない・・・。
「先生、大丈夫ですか?」
さゆみは、気を失っている三津林の肩を揺すった。辺りを見回すと地震が起こった時の場所と違うような気がした。・・・だが崖の下だ。
「先生!」
「ん、んん・・。」
「気が付きましたか?」
「あ、ああ。けがはないかい?」
さゆみは起き上がって、手足を振ってみたが痛みはなかった。
「大丈夫みたい。・・・だけど私達、あの割れ目からこんな深い所に落ちたの?よく生きてたわね。」
「違うよ。・・・僕が元の時代に戻った時と逆に、戦国時代の崖の所にタイムスリップしたんだ。」
「うそお、タイムスリップなんて映画の中だけでしょ・・・。」
さゆみは半信半疑の状態で、辺りを見回すばかりだった。
「とにかく、上がれる所まで行こう。」
三津林も立ち上がって、崖の底をさゆみと進んだ。
「ちょっと待って!俺の手を掴んで目を閉じて歩きなさい。」
「どうして?」
「いいから!」
しかたなくさゆみは、言われる通りにした。しかし好奇心から薄目を開けて進んでしまった。
「きゃっ!」
さゆみは、三津林に抱きついた。目の前に目を見開いて死んでいる男の遺体があった。そして後ろを見るとそこにも鎧を着けて無残に息絶えている遺体がある。
「せ、先生!これは?」
「だから目を閉じてろって言ったんだ。これが本当の戦国時代の姿だよ。」
「先生怖い、帰りたいよ、家に帰りたい・・・。」
さゆみは涙を流して三津林の腕を揺すった。三津林はそれでも冷静に遺体の腰から刀を抜いた。
「何するの先生!」
「これは、敵の遺体なんだ。まだ敵が近くにいるかもしれない。」
三津林は、腕を強く握られたまま前に進んだ。しばらく歩くとまた遺体があった。
「俺と同じように、上から落ちたのかもしれない。」
「じゃ、なぜ先生は助かったの?」
「だから、タイムスリップしたからだよ!」
「じゃ、なぜ先生だけタイムスリップしたの?」
「そ、それは・・判らないけど・・・。」
確かにそうである。白い光とともにタイムスリップしたのは三津林だけで、他の者は崖下まで落ちて死んでいる。
「運命なんだ、きっと・・・。」
「運命?」
「そう、俺も、君も、本河田もタイムスリップしてしまう運命だったんだ。そしてもう一人・・・。」


崖が浅くなってきたのが判った。
「この辺りで降りてみよう。」
大きな岩も少なく、底も数メートル下に見えている。
渡名部が先に下りて、愛美を待った。続いて滑るように愛美が下りて来た。愛美は小袖のお尻に付いた土を掃った。
「あっちへ行って見よう。」
この辺りの崖は、くねくねと曲がった状態で続いていた。愛美は渡名部の後ろをついて行った。


真っ直ぐだった崖下の道が、くねくねと曲がってきて先が遠くまで見えなくなってしまった。
「気をつけた方がいいかもしれない・・・。」
「どうしてですか先生?」
「岩の陰から敵が襲ってくるかもしれないだろ・・・。」
二人は、忍び足になって進んだ。
しばらくすると、バキッっと岩陰の向こうから音がした。
「大庭、下がってなさい!」
三津林は、さゆみに言って刀を構えた。へっぴり腰だが・・・。
すると岩陰から男が現れた。
「誰だ!・・・あっ!」
「あっ、三津林君!」
渡名部だった。
「えっ!」
渡名部の後ろから愛美が現れた。三津林は刀を捨てた。
「せん、せい・・・。」
そう言って愛美が駆け寄って来て、三津林に跳び付いた。
「信じてた、生きて帰って来るって、信じてた!」
愛美は、泣きながらそう言って何度も口づけをした。
「馬鹿!生きてたならもっと早く帰って来てよ、私心配で死んじゃいそうだったんだから!」
愛美は、三津林の胸を叩いた。
「ごめん、いろいろ事情があって・・・。そうだ、お客さんがいるよ。」
「えっ、誰?」
愛美は、抱き付いている三津林の後ろに視線を向けた。
「さゆみ・・・!?」
「愛美だよね・・・!?」
二人は、目を丸くしてお互いを見た。三津林が横にずれると、さゆみが駆け寄って愛美に抱きついた。
「心配したよ、愛美が行方不明になっちゃうんだもん。皆は、センミツに誘拐されたって言ってたんだよ。」
「誘拐?」
愛美はセンミツ、いや三津林を見た。
「先生、どうしてさゆみまでこの時代に来ちゃったの?」
「それもいろいろと事情があって・・・。」
三津林が歯切れの悪い返答をしているのを見て、渡名部が口を挟んだ。
「とにかく、良かった!無事で良かった!城へ行こう、城へ!」
短い間でも積もる話はあったが、とにかく四人は、城へ行くことにした。



こうして四人の男女が、現代から戦国時代へのタイムスリップで揃い、波乱に満ちた人生を送ることになるのだった。


                        ・・・つづく



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