カズTの城を行く

身近な城からちょっと遠くの城まで写真を撮りながら・・・

『戦国に散る花びら』  第五話  悲しい別れ

2008-08-09 14:01:25 | Weblog
翌日、城内は鎧兜の部将をはじめ、鉄砲足軽、槍、弓足軽など旗を背中につけた武装集団達が出陣を今か今かと待っていた。
その中を小袖を着た女が、人垣を縫うように歩いていた。
「先生、どこ?」
愛美だった。木の器に握り飯をのせ、配りながら三津林を探していた。足軽は、陣笠をかぶっているので、顔がよく判らない。
昨日、三津林と別れた後、渡名部に女達のいる館に案内された後、渡名部も別の所へ去り、愛美は、女達に着ている服を笑われながら、着せ替え人形のように、小袖を着せられた。そして世話をしてくれた女中と一緒に、台所で握り飯などの食事作りを夜通し手伝っていたのだ。
曲輪をあちこち回ったが、三津林は見つからない。涙が流れた。
「どうした、娘?父上でも探しておるのか?」
「先生が・・・。」
「せんせい?」
「あ、あの榊原様のご家来は、どちらに?」
「榊原様のご家来衆なら、ほら隣だ。」
「ありがとうございます!」
愛美は、急いで塀の向こうの曲輪へ回った。
「先生・・・。」
ここも大勢で判らない。しばらく人垣を縫って歩いていると、番所の壁に寄りかかって座っている一人の足軽に目がとまった。
「先生?」
足軽が愛美の方を見た。
「本河田!お前か?」
「先生!」
愛美が駆け寄ると、三津林が立ち上がった。
「見違えたよ、似合うじゃないか。」
「当たり前でしょ、ミス浜奈だもん!」
そう言って愛美は、三津林に抱きついた。
「先生、戦に行っちゃうの?」
「この流れは、そうみたいだね・・・。」
「何のん気なこと言ってるんですか!戦って殺し合うんでしょ!先生、人殺せるの?槍や刀使えるの?」
「使えなかったら、この時代で男は生きていけないんだろうな・・・。」
陣笠をかぶった三津林は、空を見上げた。
「普通に自分の性格を考えたら、人は殺せない。だけど相手は容赦しないだろから
ここを出たら帰って来れないだろうな、きっと。」
「先生、死んじゃいや!行かないで!」
「だけど行かなきゃならないんだ、この状況は・・・。」
愛美は、三津林の顔をジッと睨んだ。
「先生、私この時代だったら、本当に先生のお嫁さんになってもいいの。・・・だから生きて帰って来て!絶対死んじゃ駄目!」
「本河田・・・。」
愛美は、胴丸をつけた三津林の胸で泣いた。



周りで足軽達が、二人の様子を眺めている。そしてその中の一人が近寄って来た。
「見慣れない顔だが、戦は初めてか?」
「はい、昨日ここへ来たばかりです。」
「それじゃ、榊原様が言っていたのは、お前達か。夫婦の新入りとは?」
「本当はまだ夫婦じゃないんです。」
愛美が言った。
「まだ祝言をあげていないんだな、娘が幼いからか?」
「そうなんです。」
男は、盃を三津林に渡した。
「祝言だ。ここにいる皆が仲立ちだ。さあ飲め。」
三津林は、戸惑った。するとその盃を愛美が取り上げ飲んでしまった。
「おお、嫁御が短気を起こしておるぞ。婿殿もさあ。」
横で愛美が睨んでいる。これを飲むと教え子と教師が結婚することになるんだと三津林は思った。愛美はまだ十七歳の高校生、それは常識として許されない。ただそれは、元の時代での話。今は戦国時代、・・・なら許されるのかもなどと考えていると、男が催促した。
「さあ、嫁御が待っておるぞ。」
三津林は、愛美が嫌いではない。むしろ学校においても気になる生徒だった。
「さあ。」
三津林が盃を口元まで持っていき、酒を飲んだ。周りから拍手が起こった。
「めでたい、これで戦も我らの勝利だ!」
歓声の中、愛美は三津林の腕を強く握っていた。



陽がだいぶ傾いてきた頃だった。
「出陣だ!」
周りが慌しくなった。
「先生。」
「いよいよだな。」
「先生、待ってるから、ずっと待ってるから。」
愛美の目から涙が溢れている。
「帰ってくるよ、愛美。・・・必ず帰って来る。」
三津林は、陣笠で顔を隠すように愛美に口付けをした。
そして立ち上がった。
愛美は手を合わせて祈った。三津林が隊列の中に入り、去って行くのを眺めながら一人立ちすくみ、手を合わせて見送った。溢れる涙は止まらなかった。

コメント
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