12月9日(火)17時40分
渋谷スクランブル交差点に立った。
夕闇の交差点はネオン煌めき一層艶やかで
外国人が混ざっても違和感がなく。
街角に溶け込んでいる。
お袋のいる介護病院へ急いだ。
11月19日見舞いしてから日にちが経ってしまった。
お袋は私を見て「寂しい!寂しい!」かすれ声だ。
時計を眺めて、弟夫婦が来る時間を待ちわびている。
19時 弟夫婦がやってきた。
お袋は弟に甘える。
暫くすると、眠り薬を飲んでいるので、ウトウトしだした。
弟が静かに私に話しかけた。
「お袋の直ぐ下の妹が先日亡くなった」。
二つ違いで89歳だった。
お袋に知らせることは出来ない。
亡くなった叔母さんはお袋と一番似ていた。
叔母さんの家は那須の山里にあった。
小学生低学年の頃、お袋に連れられて
弟と、細い山道を上り下りしながら
叔母さんの家に向かっていた。
山道の先から、怒鳴る声がする。
前方に牛が走って来る。
後ろから男衆が追いかけくる。
それこそ、猛走である。
細い道なので逃げられない。
弟と二人茫然と突っ込んでくる牛を見詰めた。
体が動かなかったのだ。
お袋は突然、山林を掻き分け、逃げ出した。
幼かったので表現が出来なかったが
それこそ脱兎の如くだった。
牛は 子供二人を避けて山道を下って行った。
後年 お袋にその話をすると、困惑顔で黙ってしまう。
牛が大人に襲いかかると思ったようだ。
叔母さんの家には牛、馬がいた。
馬小屋で恐る恐る鼻面を撫でた。
そのうち、馴れて馬が私に寄ってきたので
興奮して馬小屋から離れなかった。
いとこは同じ年だったので遊び回った。
小川を飛び越えて蛇を踏んづけた。
田んぼの小川をザルで掬うと
小鮒がいっぱい捕れた。
煮て食べた。
伯父さんは山林で空気銃を打たせてくれた。
蛙のお腹を裂いて小さな肉片に糸を付けて枝葉に置いた。
蜂が飛んで来て、肉片を咥えた。
巣に持ち帰ろうとする糸付肉を追って行けば
蜂の巣は簡単に発見出来た。
蜂の子を焼いて食べた。
お袋には告げずに旅立ってもらう。