(7/26)たまに日曜。6千円(しかも宿泊税込み)
今回唯一の4つ星。フロントには、これでもかと言わんばかりのシャンデリアが下がり、ものすごく広い上に黒とゴールドを基調とした重厚な作りに、ほの暗い照明。ギャッツビーの世界だ。足を踏み入れると遠くのカウンターから(フロント)「いらっしゃいませ~#$%&ですか?」(きの)「え?」急いで走り寄る。熱は控えめに手首で測る。どうせ35度だろう。駅から高速で歩いて来たからな。
そういえば、専売の不条理代理店(娘)が泊まった証明をもらってこいと言っていたな。ちゃんと指定された宿に居るか確認するつもりか。(きの)「泊まった証明??なんてあるんですか?」(宿)「はい、最近あるんですよ(苦笑)」用紙を出してきてなんちゃらトラベルの規定がどうのと説明されたがよくわからないので、そういうあぶく銭はどっかに寄付した方がいい。
エレベーターの無駄に豪華な装飾は、まるで豊島園のびっくりハウスのよう。エレベーターには乗れるが、自分の部屋がある階にはカードキーをかざさないと入れない。京都タワーホテルもそうだったが、屋上に施設がある場合、通りがかりの観光客などがわらわらと入ってきたら困るのだろうな。けど息苦しい。入れなかった客のためにインターホンが用意されているのが憎々しい。どうせ、カード忘れて開かない~などと氷を取りに行ったよれよれの情けない浴衣姿で電話する羽目になる可能性が多々あるので、気をつける。
部屋には2時からチェックインできるので、早めに入ってくつろぐ。内装は青と白のストライプでサーカス風。風呂場は何とも言えない紺赤白茶の細いしましま。4つ星といっても、さすがにバスローブはなかった。ここも全館冷房のようだが、部屋で調節できるようになってて、京都タワーホテルのように暑いのではないかと気にすることはない。部屋にミネラルウォーターがあったが、うわさに聞く地下水というのはこれだろうか?採水地鳥取県と書いてあるぞ??部屋にある物すべてにホテル・モントレのHとmを組み合わせたようなマークが入っている。マグにも寝間着にも歯ブラシにも。分厚いバスタオルにもエンボス加工で全面に模様が描いてあり、バスマットかと思った。
部屋に自由に使っていいスマホが置いてある。こんなの盗まれまくらないかと思うのだが、そんな客はモントレには来ないのかもしれない。グラッドワンにもあったが、さらにもっと前、シアトルにもあって、その時も盗まれまくる心配をした気がするが、20年前に全画面の電話など存在しないはずだ。iPadだったのかな。
部屋は中庭に面していて森らしきなにかが見えるが、大半はどこかのビルの屋上パイプがのたくった造作が見て取れるので、あまり景色がきれいだとも思わない。道路沿いの部屋だと良いのかもしれない。パジャマをどけて出窓によじ登り、窓を開けてみた。外観が石造りだから古いだろうと思ったら、案の定開いた。しかも緊急時にのみ開けてくれと書いてあるロックをはずすと、一枚の窓が外側に全開だ。そして戻ってこない。
この窓を閉めるためには、9階の窓から身を乗り出し遠くの取っ手をつかんで、もう片方の手で同時に下側のロックを力いっぱい押して解除しながら、引き戻さなくてはならない。下から高層ビル特有の上昇気流が吹きあがってきて、本末転倒という言葉が浮かんだので慎重にやる。安全を確認しようとして落ちて行った客の伝説は、嘲笑をまじえて語り継がれることになるだろう。外に付いてるミニベランダのような部分を歩いて階段から避難できる造りは、京都タワーホテルと似ている。
非常階段は見に行ったが、緊急時には自動で開くようになるという不思議な表示が貼ってあり、緊急時に停電して、どうやって自動で開くのか不明だが、部屋の窓が開くので、ひとまずは安心だ。最上階にはスパがあるらしい。写真で見る限りでは普通の温泉ではないのか。ここまで派手に洋風にするのなら、プール併設のホテルにしたらいいのに。
もしやと思ってベッドサイドの引き出しを開けてみたら(きの)「あるある」聖書が入ってる。アメリカのホテルはどんな安モーテルでも聖書が入っているが、ここまで忠実に踏襲されているとは。外資系なのかな。そして、その下になぜか仏教経典のようなものまで置いてあった。対抗心?ここは京都だぞという知らしめか、もしくは選択肢を増やしてくれたかのどれかだ。
TVもあったが見なかった。どうせもう足軽のドラマは終わってしまったし、部屋が広くてTVが離れたところに置いてあり、近視なので重要な所で「なになに?」といちいち寄って行って見なくてはならないような予感がしてめんどくさい。本を読もうにも、この豪華な部屋にはほの暗い明かりしかない。
晩飯の店をこんな街中で探しまわらなくてもいいだろうと思うが、一応併設のレストランを覗いてみる。ホテルのロビーも黒かったが、この英国パブのような店も真っ黒でやっているのかどうなのか、外からでは容易に窺い知ることはできない。ドアをガチャガチャやったり、あまりのぞき込んでもいけないだろうから外に出てみる。
外にはミニストップがあった。さすがにコンビニはやっているだろう。高校の時、一時期学校帰りに駅前の店に毎日のように通っては、テーブルでどうでもいい話をいつまでもしていた。メニューもうっすら覚えている。中学の時はそこでバイトしている先輩から抹茶サンデーを買ったこともある。最近は見ないと思っていたが、なつかしいので入ってみたら外のイートイン席は使用禁止になっていた。その場で料理するようなメニューもなく、ただの普通のコンビニだった。
それではとばかりに近くの新風館という建物に入ってみた。古いレンガの建物を改装して活かしているらしく、前から興味があった。入ったと思ったら外だった。(きの)「ん?」なにやら吹き抜けになっている。植物もじゃもじゃの中で人が飲み食いしている。ジュース屋なのか。こんな湿った季節にそんなジャングルみたいなところで果物の汁をすすらなくてもと思うが、当人たちは写真を撮るのに夢中だ。
全体にオシャレで非常に意識が高く、食い物を探して来てみたが、ひとつも食べたいと思うものがない。例えて言うなら、アップルストアでみんなで立ち食いしているかのような意識の高さだ。(店A)「本を読みながら野菜を食べよう。」(B)「ガラス張りの店内にチョコレートの包みがポツン」(C)「フレグランスをその場で調合」極めつけは「メンズ着物専門店」。中で我こそはこの世で一番うるさいぞといわんばかりのやつらがしかめつらしい顔をして地味な反物を選んでいる。(看板)「こだわりの油で揚げた天ぷらのアラカルト」ただの盛り合わせだろうが。(きの)「うわあぁぁ」あまりの繊細さに発狂し逃げ出して反動で路地裏をうろつく。
この辺はヴィア・インに泊まった時に通ったことがある。あの時は各店が弁当を売っていた。なんとか珈琲という紺の暖簾がかかったおシャレな店があったが(メニュー)「味噌カツとかき氷」全然食べたくない。朦朧として、次にあったチーズ盛りだくさんの店に飛び込んでしまった。
オープンとなっているが開店直後なのか広い店内には客は誰もいないし、店員もいない。(きの)「すいませーん。ここやってるんですか?」出てきて(店)「予約は」あるわけないだろう。今あの恐ろしい空間から命からがら逃げのびて来たんだ。表の看板にはシカゴのピザ(普通のピザのフチが立ち上がってバスケットのようになったやつ)やパスタと書いてあったからレストランかと思ったが、飲み屋だった。
ムール貝とチーズと肉をフライドポテトの上に乗せたやつを注文し、新風館の方に背を向けてむさぼり食う。おいしい。おいしいがしょっぱい。飲み屋だからか。うちのエビ水槽のインテリア用にムール貝の紫色の貝殻を1個もらう。
早々にホテルに帰りノドが乾いたのでお茶などを飲もうと思い、デスクの上に置いてあったモントレ謹製「辻利の煎茶」をいただく。出かける前にフロントに聞いたが全館が地下水だそうだ。ホテルの下から湧き出ているらしい。飲用可と言っているが、その根拠は書いてない。京都の水は良いと言われるらしいが、今の京都の下からくみ上げたら排気ガスと都市の汚れで汚いのではないだろうか。古いホテルの地下にある井戸の水・・・。千年前から使っているという理由は、特に今回説得力がない。成分分析表などを添えてほしい。阿倍晴明が念力で掘ったという井戸の水は、ボウフラがいた気がしてピロリ菌などが気になり、安心して飲めなかった。
手順通りに、置いてあった萩焼の取っ手もない急須で淹れてみる。袋を破り(茶葉)「もさっ」ティーパックかと思ったら直に多めの葉っぱが入っていた。嫌な予感がしたが煎茶とはこういうものかと思って飲んでみた。(きの)「にがい。」ものすごい苦いし熱い。湯飲みはおちょこかと思うような小ささ。塩分が!塩分過多で死にそうだ。
急いでアイスペールを抱えて製氷機に走り、氷を得て戻ってきてグラスでアイスティーにしてみたが、まだ苦くて飲めそうにない。こうなったら急須に水を入れ、そこらじゅうの容器に薄めたのを淹れてみた。早くしないと出がらしは更に渋くなる。せっかくの辻利は台無しだ。ようやく飲めるようになったが、デスクの上に雨漏りかと思うような容器が散乱し、とても説明にあるような2人分とは思えない。冷蔵庫に入れて保存。ここもペルチェ式だ。
皮膚からも水分を吸収しようと思い、フランクルの本を持って風呂に入ってみた。このお湯も地下水らしい。すごい水圧だ。蛇口をひねるとものすごい勢いでほとばしり出てきた。こんなに全館で吸い上げるから、数町先の鉄輪の井戸が枯れたのではないか。確かに塩素の匂いはしない。水がまろやかだとか、そういう温泉通みたいなことはわからないが、セノーテというメキシコの水色の地下泉がこんな水だったら泳いでみたい。予想外に風呂桶が長すぎ、足がかかると思って本を持って目測で横たわってみたが(きの)「とぷん」届かなくてあやうく沈みかけた。ぎりぎり足の先がかかるくらいだが、輸入したのか。洗面所は門司港ホテルと同じ海外メーカーのものだ。
小さい頃トトロの森に住んでいて、隣の同年代の子供がいる家が引っ越した後で移り住んできた子供のいない夫婦の家に、そのまま遊びに行っていた。商売物のぬいぐるみの余ったのをたくさんくれて、ヒマなのかいつ行っても歓待してくれた。奥さんは派手な人で、プロレスラーのような紫ラメのスパッツを履いてパーマをかけていた。母は職業選択の自由について何やら小言を言っていたが、無視して遊びに行っていた。奥さんが言うには風呂に本と酒を持って入るのが楽しいらしい。こないだなんてワインを一本開けてしまったと6歳相手に真剣にその極意を語ってくれた。
父にも伝授してみたが、老眼鏡が曇って何も見えないと言ってやらなくなった。長じて酒はアメリカで日本酒が手に入った折に試してみたが、本の内容がわからなくなり、犯人どころか誰が何をやっているのか見当もつかず、大変不愉快なのでやめた。読書の方はあいかわらず続いているが、そろそろバスタブ流読書術の初段ぐらいにはなっているだろうか。こないだ娘が本を持って自然に風呂に向かって行ったが、脈々と受け継がれているようだ。
心なしかお湯が水色できれいだ。白いバスタブだからか。アイダホ州は硬水で水が薄いエメラルドグリーンだった。銅の水道管なのか詳細はわからないが、緑はミネラルの色だと思っていた。日本はだいたい軟水だから、違うかな。試しに写真に撮ってみたが、水は透明に写った。おかしい。しかし、アイダホの風呂は友人にも見てもらって、確かにエメラルドグリーンだという感想を得ているので、自分の目にだけ映っているとは思えない。他の可能性としては、電灯の光の透過か。アイダホに居た時にはまだLEDは開発されていなかった。いつかこの謎が解ける時が来るだろうか。
シャンプーは甘い紅茶の匂いがした。最近はシャンプーの匂いにうるさいぞ。この匂いが廊下にも漂っていた。花王と書いてある。最近のホテルはシャンプーが詰め替えになって、供給するのはPOLAなど大手老舗が多い。昔はホテルのシャンプーや固形石鹸、トイレットペーパーまで1回切りの使い捨てで、それこそが高級の証みたいなものになっていて、もったいないことの代名詞だったな。
朝起きて、昨日のお茶を、せっかく淹れたので持って帰ろうと思い容器を探したが、唯一蓋が閉まるのは昨夜に飲んだ三ツ矢サイダーの缶しかない。月曜の朝に電話がかかってくるのを待っていたが、することもないので、また長い風呂に入ってみた。バスマットの上に電話を置き、11時にチェックアウトだから、まだまだ地下水に浸っていよう。時間が経ったが、全然かかってこない。風呂から出たら普通の水道水とは違って、川の水とは思わないが、何かこう、庭のゴムプールに溜めた水に入った後のようなパリパリした皮膚の乾き具合だった。
家に帰って(きの)「こちらが辻利のお茶です(サイダー缶)コトッ」何を言っているのだろうという顔をされたが、この苦さは味わってみた者にしかわからない。一応地下水もペットボトルに入れてもらってきた。京都の水道は琵琶湖の水だから、これは純粋な京都の水だ。と言いながら洗面所から汲んできた水をありがたくいただく。半分はエビ水槽にやった。塩抜きをしたしょっぱいチーズの店の紫貝を入れた水槽に注いでみる。(きの)「さぁ京都の水ですよ。トポポポ」白砂に天橋立の石とナナメになった京都タワーの模型、マツモなどが浮いている。文明繁栄後、もう千年くらい経った頃の風景だ。
後で知ったが、地下水は1000m下からくみ上げているらしい。1000mも下なら菌のつけ入る余地はないはずだ。京都市の下には京都水盆という太古の昔に湖だった頃の名残が地底湖となって残っていて、それが蒸し暑さの原因らしい。琵琶湖と同じ量があるなら、そっちを水道水に使えばいいのだ。