(7/10/2020)5,315円 #701
今度こそなめこを食べよう。どうしても、きのこが食べたい。(娘)「次週は京都タワーホテルです」あのエリンギタワーか。しかし、ぬるりとした茎の部分に泊まるのではなく、下のちゃんとした建物だそうだ。ちなみにアレは正式には建造物ではなくて、工作物だから建築基準法には当てはまらないのだとか。何を言っているのだろう。
築50年。しかも、鉄筋ではない!と高らかにうたっている。どうやら丸い輪っかを重ねた構造らしい。スカイツリーみたいに五重塔の技術を使ったのだろうか。地震の時にそれぞれが別の方向に向かい吸収するとかいう。逃げまどう人々を見下ろしながら、白い巨体がぶよぶよと有機的にゆれている姿を想像すると不気味だ。まさか漆喰!?瓦が乗っていないのが不思議なくらいだ。
(娘)「京阪の会員になったから、タワー無料入場券がついてきます」やったー!UCCのコーヒードリップ装置が部屋にあるって、何だろう。ポットもあるみたいだし。ちゃんとした熱湯で淹れるあつあつの味噌汁はさぞうまいだろう。納豆巻も食べてやる。もう真下にコンビニがあることも確認済みだ。うへへ。うへへへ。ご禁制の品を持ち込みフィルムを剥がすのももどかしく、京都タワーのてっぺんで納豆を好きだけ食べてやるー!!(きの)「京都タワーでは納豆巻を食べたいと思います」高らかに宣言。(娘)「そんな気持ち悪い話しなくていい」(きの)「お食事が毎回外食じゃあ出費もかさむだろうと思って、お部屋で食べますっていう配慮だったのに。ヒドイ」(娘)「そんなのアレを食べますとかでいいでしょ」よけい怪しい。アレって何?
当日の昼に突如(娘)「えっ納豆の日!?」何が??急にどうしました。(娘)「今日は7月10日だからなっ・・・とう?」(きの)「違います。そんなつもりでは。」(娘)「七夕じゃないんですからね」別に祝おうとしていたわけでは。まったくの偶然だ。
前から特別な読書というのをしてみたかった。特別な本を特別な場所で、特別な時に読むと質の良さが際立つような気がして。特に岡本綺堂の本が、もう今からは新しく出版されないのだから、急いで読んでしまわないように旅先などに持って行く。その候補として京都タワーの上で読んでみたいと思っていた。別に絵を描くでもいいけど、紙と色鉛筆だの絵具やら器具が多すぎて手軽ではない。半七捕物帳が候補だったが、今はフランクルに凝っているので、塔のてっぺんで実存主義を読もう(そんな人がいたら自分は話しかけない)。
チェックイン時に体温測定。こたつのリモコンのようなもので自分で測ってくれと言う。まぁ撃たれるような気がするよりマシか。京都はオムロンがあるから体温計には事欠かないのだろう。35.1℃。さすがに言った(きの)「ちょっと低すぎませんかね」(フロント)「はははは」どうもこの前から低体温すぎると思ったが、何となく理由がわかった。自分は一人だとつい全速力で歩いてしまう。気温の高い中を歩いて到着したロビーで汗が冷やされ、気化熱で体表が一時的に低温になるのだろう。正確を期すなら、到着した客は全員一旦休んでから測った方が良くないか??それか熱があるような人は歩き回れもしないということか。
部屋は角部屋で窓だらけ。2辺が全面窓で廊下までずっと窓が続く。しかも障子みたいのを開けてみたら謎の出窓スペースがずっと続いてて、窓の向こうに通路のようなベランダが建物のまわりを囲むように巡っている。緊急の際にはここから出て梯子で降りるそうだが、ずいぶん余裕のある作りだ。ベランダの柵にはタイルの装飾が。さすが昔に作った建物だ。まるで和室のようだ。どれどれ窓は・・・全部開いた。何と気分の良い。しかもカギは最初からかかってない大らかさだ。まあ良い。昨今の超機密構造よりも、こっちの方が安心して眠れる。
部屋の解放感に比べて、エレベーター・ホールは厳重だ。エレベーターには乗れるが、客室階で降りても泊まる人しか入れない。この方が安全でいいのかもしれないが、ものすごい閉塞感がある。
夕方になり、なぜかだんだん部屋が暑くなってきた。空調は強にしてあるが、どうも暑い。夕日か?カーテンを閉めてみたが息苦しくなってきた。誰か他の客がゲホゲホ咳してる音がする。全館冷房でその空気をホテル中に撹拌してるのだろうか。
5時を過ぎ、もう書いてる文章もわけがわからなくなり、よろめきながら部屋を出て(きの)「なんか暑いんですけど」フロントの女の子は部屋で温度は変えられないと言いながらも、申し訳なさそうに別の部屋に移ってはどうかと提案してきた。しかも日陰のダブルでどうかというオファーだが、せっかくの角部屋を手放してたまるか。ということで、もし夕日が原因なら出かけて夜に帰ってもう一回様子を見てみることにした。普段なら観光客は夜になってから帰ってくるから、こんなことにはならないのだろう。咳の客については確認しに行ってみると言う。タワーの詳細と、言わないと出てこない体洗いなどのアメニティーについて聞く。UCCのコーヒーメーカーは、衛生面の理由で撤去しているとのこと。
散々文句を言うだけ言って念願のタワーへ。タワーはサーモグラフィーで体温チェック。(きの)「ホテルのフロントで、この券を持ってる人は水族館みたいに再入場が可能かと聞いたら、期限内なら可能だと答えたがそうなのか」(係)「いえ、そんな風にはなっていませんが」(きの)「確認してみてくれ」南禅寺は見せてくれたよ。しばらく電話のやりとりの後(係)「向こうが確かにそういう説明をしてしまったと言っていました。今回に限り券をもう1枚くれるそうです」(きの)「えぇっそんなつもりでは。決してゴネて手に入れようとは。ダメと言われたら素直に引き下がるつもりで聞いてみただけだった」(係2)「まぁまぁ大丈夫。わかってますよ」もう一人いた兄ちゃんみたいな係がなぐさめてくれた。
クレイマーがいる。ここに、モンスター・クレイマーが。
京都に来てすぐ、何を思ったか市内の北の方にある家から京都駅まで歩いて行ってしまった。最初は晴明神社に行こうと思い、そこから歩いているうちにどこまで来たのか太い道路に出て、いつまで歩いても同じような街並みが続き、一体ここはどこだろうと思っていたらビルの間にあのエリンギの頭が見えて安心した。あっちが駅だとわかった。前から通りかかる度に見かけてい~な~と思っていたが、観光客でいっぱいでとても登って行こうという気になれなかった。
それが今、目の前に。しかも無料。感動で胸をいっぱいにし、80倍のビデオカメラを構えてエレベーターで展望台まで舞い上がる。上は空調が効いていて簡易クーラーも2か所足してあり、涼しい。北方面は御所まで烏丸通がまっすぐ見えて、南は駅の建物が立ちふさがっているように見える。駅を門に見立てるのなら、烏丸通りを真っすぐ通すべきだったのでは。
円形のタワーだからシアトルのスペースニードルぐらいの広さを想像していたが、スケール感はどちらかというと(きの)「人んちの広い温室・・・」景色を見ながら歩いているとすぐに一周まわれてしまうフレンドリーさだ。目の前のガラスの外は、即外気。サンフランシスコの、コイトタワーという消防用の灯台というか鉄骨の火の見やぐら?という方が雰囲気が近い。
備え付けの望遠鏡は感染防止の観点から使用禁止になってるので、ビデオカメラが役に立つ。清水寺もあった。南禅寺はどこかな。しばらくすると先ほどの兄ちゃんが上がってきて、そこら中を消毒してまわっているので聞いてみた。(きの)「東山トンネルはどこですか?ホントに出るんですか?」よりによって今そんなことが聞きたいのか。(兄)「いや、西の愛宕山の方が出ます」地元民だった。
ベンチもあったが、本を読んだり物が食べられるほど人がいないわけではなかった。ちっ貸し切りかと思ったのに。意外にちらほら登ってきては見ていく。娘を連れた(父)「わ~大阪城や~」京都府民だな。そこへ軽薄な2人組の若者(標準語)「なーんだ。東京とおんなじじゃん」じゃん? 久しぶりに聞いたが、なんと冷たい響きだ。スカイツリーの下位互換だとでも思っているのだろう。こんなおかしな形のものを50年も前に建てたんだぞ。当時最新の技術で。それを今でも使ってるすごさがわからんのか、未熟者め。水路閣に行ってみろ。未だに水びたしで現役だ!
タワーを降りて念願の納豆巻をば。間近のコンビニに走りこんでフラッグレースさながらに最後の1本をつかみ取る(シール)「今だけ!中身増量」笑顔でレジへ。なめこは生協で買ったのを持ってきているので、ホテルの部屋に帰って、下のヨドバシの下世話な喧騒をながめながら至福の時を過ごす。
部屋の風呂に入ってみる。予約の時点で突如(きの)「部屋に風呂はあるのだろうか」おかしな疑問に襲われ、ホテルに確認してみる。(きの)「突飛な質問ですみません。HPにも特に写真もないのですが、部屋にお風呂はありますか。大浴場だけですか」(ホテル)「小さいけれどありますよ」設備のところに「当ホテルには部屋に風呂があります!」などといちいち書くわけない。壁がありますとか窓が付いていますとかと同じくらいバカバカしい気がする。
しかし、たまに国民宿舎を改装したホテルなどは当たり前のように風呂がない。非常にいやなので、以前に地元ホテルを予約した時は、特別室なら部屋に風呂があるとのことで、特別室にしてもらった。皮膚に絵が描いてあるなどの理由があるわけではないが、小さい頃から温泉に入り慣れていないので、他人がいることにすごく抵抗がある。高校の頃行った塩山でも、結局足先しか入れなかった。プールなら気にしないのに、どこがちがうのだろうか。
部屋に確かに小さい風呂が付いている。新しくリフォームしたみたいだ。バスルームでドライヤーを使うようにコンセント込みで置いてあったが、アメリカで感電の代表的なのがドライヤーをバスタブに落とすというものだから、よろしくないんじゃないかなと思いながら、念のため差してバスタブまで届くかやってみたら、ギリギリ届いたので危ないからやめた方がいいと思うし、そういう検証もやめた方がいい。
夜になり、そういえばそんなに部屋は暑くない。空調がよく効いているとは言えないが夕方ほどではない。一応内線で(きの)「大丈夫そうです。お騒がせしました」(フロント)「寝れなかったら、夜中でも言ってください」NHKやってないし、ヒロシもやってない。今週は足軽のドラマが最終回だというのに。夜は布団もかけずに壁に体をくっつけて寝た。壁がひんやりして冷たい。自分でダメなら暑がりの白人はもっとダメだろうな。しかし改装すればなんて今言うのは酷だろう。
朝になり、昨日ありがたく頂戴した券でタワーに登ってみた。雨でますますよく見えない。しかもなぜか内部を風が吹き荒れている。なぜだ?と思って見まわしてみたらなんと窓が開いてる。そこかしこの足元の窓が全開だ。枠にはまってる申し訳程度の焼肉の網みたいのなんて、足で押せば簡単に外れそうだ。(きの)「朝の換気?」ずいぶんダイナミックな換気だ。上空100mはかなりの強風で、気のせいか風が吹くたびに全体が揺れていないか?大丈夫か?そのモノコック構造とやらは。寝てて知らなかったが、さっき菅公が怒って空で怒鳴り散らしていたらしいから、早々に降りる。京都で唯一の高層建築だからのう。くわばら、くわばら。
帰りに地下3階浴場の入り口のガチャガチャで、タワーのわりとリアルな透明プラスチック模型を当てる。家の棚のスカイツリーの横に置こう。