日本に帰って間もなく、飛行機に乗せてアメリカから連れてきた小枝ちゃんの検疫を
空港でしていた。
2週間の検疫期間の間に、世話を頼んだ空港付きの業者が
(電話)「小枝ちゃんがご飯を食べてくれません!
しかもケージの下の狭い所に無理に逃げ込んで爪を負傷!」
やれやれ、来たか神経質め。
慣れ親しんだアメリカのキャットフードなら、食べるのではないだろうかと踏んで、
輸入ペットフードを置いている店を探したら、
高島屋の屋上にペットショップがあり、
アボキャットを売っていたので、買って持って行ったところ案の定、食べたじゃないか。
(小枝)「フンっ見知らぬ人からもらう異国の食事はイヤ」 だそうだ。
結局、何度か買って持って行くはめに。
何度目かの買い物の時に、エレベーターに乗り、しげしげとよく見ると、
エレベーターガールがいた。
昔はいっぱいいたらしいが、近年は大都市の老舗デパートでしかお目にかかれないような
希少な存在なのでは。
慣れたパネル操作の中にも品があり、白い手袋もとても良かった。
その時、エレベーター内は空いていたので、これ幸いと奥の方に陣取り、
ジロジロとその美しい所作を観察していた。
流れるような口調で説明が始まり、各階ごとに順に紹介していく。
(ガール)「2階、なんたらかんたら。3階は紳士服
・・・7階、特設会場は、私の部屋です」
え?
私の部屋?
表示を見たら「私の部屋」という題の、手作り雑貨の展示会だったらしいが、
(きの)「ぐふっ」 私の部屋にご招待か。
ガラっと開いたらもろ私室!
見せてくれるか、お前の居室!
などと、妙に韻を踏んだ余計なつっこみが、次々と頭をかすめてきて呼吸が苦しくなり、
こんなとこで笑い出したら不審に思われる、と必死で息をととのえようとするが、
どこにも止まらない上になかなか屋上に着かなくて、
清廉なお姉さんの後ろで、
不自然に姿勢を変えながらも、精神は極限まで張りつめているという、
地獄のような道行きだった。
忠告:罠はどこに潜んでいるかわからない。気をつけよう。
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