大学の英語学校に不思議な人がいた。
みんなからは晴春くん(仮名)と呼ばれていて、
まわりの噂では親は医者で、背が高くて空手が得意だそうで、
日本人の事務局の人からは、ジャニーズに応募したらいいのにと言われていた割に、
本人は着飾る気はないらしく、いつもランニングシャツにズルズルのルームウエアーとサンダルで教室に来ていた。
全体的にチンピラのような立ち振る舞いで、
誰かを殴ったとかいう話が聞こえてきてはいたが、
人を馬鹿にしたり、荒んだ目で世の中を見たり、小狡く勝機を狙っているような暗い焦りは見られなかった。
大人に怒られてものん気な感じで、朝会うと爽やかな笑顔で挨拶してくる。
恵まれた人はこうも違うものかと、こっちは物陰から荒んだ目で見ていた。
偶然授業で隣の席になった時に、話しかけてきた。
授業中に喋っていると注意されるので、ノートの端に書いてきた。
今度車を買うんだとかいう内容で、
(きの)「どんな車を買うのか」
(晴春)「丈夫なやつ」
(きの)「何で?」 何に使うのか。
(晴春)「こわれへんの」
字が汚くて「へ」がゆがんでた上に、関西弁がよくわからなかった。
はぁ? こわれてんの!?
最初から壊れてるやつを買うとはどういう料簡だ? さては改造でもするつもりか。
そういえば別のクラスの怪しげなダボダボファッションのラスタヒゲが、
ドアが反対方向に開く平べったい車を買ってきて、ジャマイカの国旗色に塗っていた。
ではきっと、そいつの友人である晴春くんも、改造した装甲車のような「丈夫な」車で、
そこらの駐車場をモンスタートラックのように乗り回して遊ぶにちがいない。
(きの)「ぜひ見せてくれ」
後日、彼が買ってきたのは小綺麗なアウディーだった。
確かにドイツ車は丈夫だが。
教訓:上品なやつはどこまでいっても無駄に上品だ!
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