小さい頃、高田馬場のおばあちゃんちの近くに公園があった。ビルの合間に埋もれるようにしてひっそりと佇む湿った縦長の公園には、斜面をそのまま使った巨大なすべり台があった。ステンレスではなく、黄色い大理石を磨いたようなすべすべの石造りだ。下町のあの場所にどういう経緯で作られたのかわからないが、当時からして子供は少なかったので都心にありながらほぼ貸し切りの穴場であった。
イトコ達とよく遊びに行き、1日中歓声を上げながら滑っては登って遊んでいた。あまりにもなじんだので自分たち専用の公園と思うようになり、子供のうちに引っ越したので後で思い返してみると、どこまでも続く永遠のスロープになっているような気がしていた。最近になって法事の際に、酔った年下のイトコに話すと、彼もそう思っていたらしく、実はあれから大人になって行ってみたら、ただの低い塀のようでショックだったと打ち明けてくれた。
(きの)「あれは無限のはずでは?」
(イトコ)「それが、ちがうんだ。」
そんな!
今でも古い公園にはその手のすべり台が多く、そして京都の公園はだいたい古かった。見つけると懐かしくなって、つい滑ってみる。昼は高確率で子供たちやその良識ある保護者がいるので、夜に通りかかった時やひと気のない時にそっと近寄って行く。
大田神社近くの公園:
ここも幅の広い立派なすべり台があった。滑り始めるとスピードが乗り(きの)「ドッ」すごい勢いで下の砂場に突っ込んだ。ずいぶんハードな遊具だ。Dr.Martensのつま先が半分ぐらい埋まった。
過去の記憶との齟齬を覚え、家に帰ってよく考えてみた結果、自分はもう大きくなりすぎていて、速度が出すぎるのではないかという仮説に到った。そして、大人の社会常識として滑り終わった後の後ろ側が砂だらけで店などに入っていくのはどうかと思うという配慮から、砂がつかないようにしゃがんで滑っていたのもよくなかった。ペンギンのような姿勢をした大人が猛スピードで滑降するのは、どう見ても危険だ。
平べったい靴がジリジリと出て行ってパタンと倒れ、スキーのジャンプ競技のようだと内心喜んでいたのだが。
だって、立って滑るより安全だろう。
近所のすり鉢公園:
巨大なすり鉢のような円形の遊具がある。とにかく重心を低くすればいいのだな。地上4mぐらいのフチに立って夜の公園を見渡す。小さい子なんか底の部分から出られないような規模だ。実に滑るにふさわしい。というわけで腹ばいで寝そべってトライしてみたら終点近くに粗い砂があり(きの)「ぎゃあぁぁ」腕時計とTシャツの腹の辺りをザリザリ擦って泣いて帰る。
二条城の左上:
とても美しいすべり台がある。横に飲み水もあるよ!
三条商店街:
上記の二条すべり台がApple社の芸術作品だとしたら、ここのはWindowsの事務的なデザイン。しかも微妙に人がいる。
ピクミン:
人のゲーム機を貸してもらい初めてやってみた。途中で坂を下るとみんなついてくる。(ピク)「あ゛ぁぁぁぁ~~」と言いながらまた登ってきては集団で滑っていて気がついたら30分が経っていた。いつの間に。このゲームはどうやらミッションがあるみたいだが、しらん。
♪あぁぁぁぁぁ~~
近所の小さい公園:
待ち合わせていてヒマなので、前からいいなぁと思っていた小さいすべり台に登ってみる。いつも小さい子たちでいっぱいの公園も夜となれば大人の時間だ。ベンチで飲んだりブランコに座って悩みを打ち明けたりして遊んでもいい。
何気なく滑って終了となるはずが、なぜか途中でなめらかなクリーム色の石の部分が消えて下地のコンクリートが見えていた。小さいのでしゃがんで滑ってもいいだろうという打算が裏目に出た。コンクリート部分で滑らなくなり、履いていたビーチサンダルがだんだんワラビのように内側に丸まっていくのが見えた。それにつれて足の指も巻き込まれ衝撃とともに着地した。
すごく痛い。
サンダルは壊れ足の指が血だらけで全部折れたと思った。そぅっと手近なベンチまでにじり寄って行き、調べてみると背中が落ち葉だらけで手にも擦り傷が。
こんなすり減った危ない遊具を置いておくなんてどうかしている!こっちは翌日に船で出かける予定だというのに。どうしてこんなことをしてしまったのだろう。こんな状態では大型船の長いタラップをスーツケース抱えて歩けはしないし、また理由も言えない。絶対に来るなよ京都Policeと思いながら家まで這うようにして逃げ帰り、しごく反省して以後充分気をつけ軽率な行動は取らないことにする。
船岡山の公園:これはケガの記録なのか。
長細いすべり台があったので早速階段を登ってみる。自分の背丈より高かったのでこれはもう安全策を取って寝そべり、ミイラのようなスタイルで行こう。
またもや意に反してスピードが上がり、モブスレーのごとき高速となる。頭を打ったらヤバいので、下手に上体を起こすことなく飛行機のように地面に対して鋭角で着地しようと体に力を入れたところ簡単に全身が飛び出し(きの)「つ・・・・・・るんっ!!」
浮く。
そのまま地上20cmから失速して落ち、背中を強打して呻く。それにしても全身が射出されるほどのスピードが出たのか。設計したの誰だよ。公園に行くたびにこんなんでは命がいくつあっても足りない。この遊具は誰にもおすすめできない。
どうしても、なめらかなすべり台の魅力に勝てない。何とも言えない優し気な色が全てを包み込んでくれるような気がする。石でできていることは承知しているが毎回どうも柔らかいバーバパパでできているのではないかと思ってしまう。小さい時はもっと自然に身をゆだねていたように記憶している。
未だに、あのクリーム色のすべり台を滑っていったら、その先におばあちゃんが待っていてくれるような気がする。そうして温かく迎えてくれて、家に連れ帰ってあれこれとかまってくれるに違いない。
そうだ!大もとの新宿のすべり台に、あの時の子供たちが帰ってきたことをいつか知らしめに行かなければならない。そのための肩慣らしをしていたにすぎないという詭弁で自らを正当化する。
(きの)「いつかリベンジ」
(イトコ)「その時は連絡を」
同志よ。