娘の塾の帰りに、電車に酔っ払った会社員がいた。
こんなものすごい酔っ払いは新宿によくいたが、地方のローカル線では珍しい。
乗ってる時は、そんなに目立たなかったのに、降りてからがすごかった。
乗客全員が見守る中、ホームで突然ギクシャクとおかしな動きをしはじめて、
ほうっておくと電車の方に前のめりに突っ込んでこようとするので、発車できない。
駅員が止めようとするが、振り切ってホームを歩き回り、
なぜか自分達が座ってる座席の窓の外まで来て、そこを定位置と定めたのか、
ラジオ体操のような運動に励んでいる。
隣に座った娘はその喧騒の中、ひたすら本を読んでいた。
気付かないなら、気付かないままでいてほしい。
大仰に振り返って見たりして、やたらに目を付けられてもいけなからな。
世の中で、酔っ払いほど手におえない者はいない。
しかし、こっちは笑いをこらえるのに必死だ。
真の酔拳マスターは、持っていたビジネスバッグを今どこかに放り投げ、
渾身のロボット・ダンスを始めてしまった。
向かいに座っていた母親に連れられた幼児が、無邪気な声で
(幼児)「ねぇ、おかーさん。あのおじさんどうしたの?」
(きの)「くくっ」
やはり人生の初心者でも気になるか。どうしたんだろうね。
きっと何かのタガが外れたんだよ。
(母親)「・・・(無言)。」 黙ってその子の膝をなでている。
それでも幼児は止まらない。聞こえてなかったと思ったのか、
さらに大きな声で、
(幼児)「ねーあの人何ー?」
(母親)「うん、まあね。クツ脱ごうか」
さりげなく話題を変え回避。
その間も(運転手)「危ないですから下がって!!」
(酔)「ガーッ!!」
もはやゾンビ映画の様相を呈してきている。
(幼児)「ねーあのおじさん・・・」
(きの)「ふぐっ」 どうしたのか、こっちが知りたいわ!
たのむから、そいつを黙らせてくれ。
しばらくして、車掌が酔っ払いをどこかに連れて行って、
その隙に発車(どこに置いて来たんだろう?)。
次の駅に着いて電車を降りて、高校生たちと
(高)「何だよあのおっさんー」(きの)「はははは」 笑い合っていたら、
(娘)「何が?」 すごい集中力だ。
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